610.堕天形態
「“アームリングリング”に“天使王の指輪”。砦内を選択した割には上々やね。ホホ」
タマモが、扇で口元を隠しながら笑う。
「こっちって、天使系の武具が手に入るルートだと思ってたけれど」
「宝箱も意外と多いですし、まるでこっちが宝物庫みたい」
コトリとケルフェの会話。
現れる天使やリザードマンを倒しながら進み、安全エリアに置かれていた宝箱を開けて回っていた私達。
一通り回収し終え、備え付けてあった湧き水ソーマを掬って喉を潤す。
「ケルフェ……ホイップのこと、本当に良かったの?」
私は彼女と行動するうようになってから半月くらいだけれど、ケルフェ達は結構な期間、一緒に死線をくぐり抜けてきたはず。
「……あの方が、彼女のためだと思いました。普段から笑顔を振り撒いてましたが、壁を作って一定以上は踏み込まないようにしている……無理をしているように感じてましたから」
「そうだね。一緒にお風呂とか遠慮してたし、普段の雰囲気や格好に反して妙に清楚っていうか」
ケルフェとコトリの評価。
「エトラは?」
「最初は、私と一緒でお前達を警戒しているのかと思っていたが……ウララ? とカプアもか? チョイチョイ気にしているようだった。その辺に理由があるんだろう」
なんとなく避けているような印象はあったけれど、ウララさん達だけじゃなくて全員に対しての印象だったな、私は。
「私としては、ホイップがそれで良いなら良いんじゃないかって感じだ」
特に誰も、ショックを受けてはいないと。
「貴女は良かったの、タマモ?」
「うちはかまへんよ。将来性の無い男より、あんさんらの方がずっとおもろそうやし。末永くよろしゅう」
将来性の無いって……なんで私が、一番ホイップを心配しているのやら。
結局ホイップって、隠れNPCになる前はどんな人間だったんだろう?
●●●
「お?」
「あ!」
地下に下り始めて暫く、別の集団の気配がすると思いきや、背後から下りてきたのはリューナのパーティー。
「コセ達も、下を選んだのか」
「ああ……それにしても」
「随分不気味な雰囲気になったっすね」
最初は白い煉瓦造りだったのが、下に行くほどに、染み付きの赤紫色煉瓦造りに代わっていっていた。
「メルシュ、これは?」
「地下に関してのみ、他のパーティーと合同になる仕様みたいだね」
珍しいケースだな。
「他に気配は感じませんし、地下を選んだのはこの二パーティーだけみたいですね」
ヒビキさんの意見。
「トゥスカ、サンヤはなにも?」
気配に敏感そうな獣人二人に尋ねる。
「はい、前後どちらからも」
「音が反響しやすいみたいだから、私も間違いないと思うっす」
「なら、このまま俺達だけで進んでも問題ないか」
「後ろは私のパーティーが引き受けよう」
俺のパーティーが前、後ろがリューナ達という隊列で進むことに。
「止まって! ……罠解除」
階段途中でメルシュが使用。両壁が歪んで目の前の通路を三秒ほど塞いだのち、元に戻る。
「相変わらず殺意高いな」
見落とした瞬間、即死が決まるような罠ばかり。
「オッケー、進むよ」
再び階段を下りていく俺達。
通路は二人が難なくすれ違える程度なため、全員が小さめの武器に持ち替えている。
これだけでも、メルシュが一番厄介なルートと言っていた意味が分かってしまう。
「人数が居てもあまり意味の無いルートか」
「ご主人様、来ます」
「リューナ」
トゥスカとヒビキの警戒声。
「黒い天使?」
天使というより堕天使っぽい甲冑騎士が、階段を駆け上がってくる。
「“ドミニオン”の堕天形態。光耐性が下がってるぶん、闇耐性がめちゃくちゃ高いよ」
堕天形態とかあるのか。
「“大地盾術”――グランドバッシュ!」
翳した“古代の叡智の盾”から発した衝撃波により、黒天使を弾き飛ばす。
「“熱砲線”!」
ヒビキさんの声が背後から響く。後ろからも来たか。
「奴を追う!」
一人階段を下りていき、転がり落ちていった天使を発見。
持ち手のボタンを押し、三角形状の“古代の叡智の盾”尖端から側面にかけてレーザー刃を生成。
『――混沌拳!!』
少し広い足場にて再び激突――カウンターで潜り込み、腹部分に盾のレーザー刃を突き刺し――“偉大なる英雄の光剣”のレーザー剣で、身体を回転させながら胴を薙いだ。
「ご主人様、無事ですか?」
「ああ。リューナ達も問題なさそうだな」
すぐに全員で追いついて来た。
「……意外とやるんだねぇ、コセって」
感心したように呟いたのは、サンヤ。
「模擬レギオン戦の時、散々戦っている姿を見てきただろう?」
リューナが突っ込む。
「だって、見たのはSSランクを使っている時くらいだったから、素の戦闘能力とかよく分かんなかったんだもん」
そう言われてみるとそうかもしれない。
純粋な模擬レギオン戦の時は、大将の俺が戦う事なんてほとんどなかったしな。
「今度、手合わせして頂いてもよろしいでしょうか?」
ヒビキさんからの要望。
「まあ、良いですけど」
模擬戦闘って、なんか苦手意識が。
前にユイに、俺は実戦形式じゃないと本気を出せないタイプって言われたし。
「地下は広大だから、ポータルまでまだまだ時間が掛かるよ」
「なら、急いだ方が良いな」
メルシュに促されるまま進み、時たまに現れる罠と襲撃を撥ねのけながら進んでいく。
「ここは……監獄?」
三階分はありそうな広大な空間に出たと思いきや、部屋の壁を覆い尽くすように牢が並んでいた。
「海外ドラマで見るような監獄感だな」
「壁が濃い赤紫色なので、余計に不気味ですね」
異世界人であるリューナとヒビキの感想。
――ビー!! という音が響き渡ると同時に、奥に見える出口と俺達が入ってきた入り口が閉じてしまう!?
そしてすぐに、ガチャガチャと独房のドアが一斉に開いていった。
○全ての堕天使を倒せ。
牢から出て来たのは、堕天形態に酷似した様々な甲冑天使達。
「“プリンシパリティー”、“パワー”、“ヴァーチュ”、“ドミニオン”、“スローン”、その他様々な天使達ですの。堕天してますので、“不浄液”ではなく“浄化液”が効きます」
ネレイスが教えてくれる。
「一番強いのは“スローン”。四枚羽の天使がそれだよ。“スローン”は閉じ込められた人数分出て来るから気を付けて」
さっき戦った“ドミニオン”よりも強いのが十体。その他大勢を含めると……二百は居そうだな。
「来るぞ!」




