608.打ち出の小槌
「ハッ!!」
ドワーフメイドのエリーシャが、砦内にて“エンジェルナイツ”や“リザードマン”、“ハイリザードマン”を“打ち出の小槌”で倒していく。
その際、小槌を打ち付ける度にキラキラしたエフェクトを散らせていた。
「あ! 今、赤い光が出た!」
クレーレが喜ぶ。
「何かしらのアイテムが手に入ったみたいだね」
“一寸法師”から稀にドロップするアイテム、“打ち出の小槌”。
“打ち出の小槌”でモンスターを攻撃した際に10G、倒した時には10000G手に入るという特殊効果がある。
稀に、モンスターを小槌で倒した際にアイテムが手に入る事があり、赤いエフェクトはその証であった。
まあ、“打ち出の小槌”で手に入るアイテムなんて、ほとんど低ランクの指輪や髪飾りなどの装飾程度なんだけれど。
「砦内は狭いので、外で戦った時よりも楽ですね」
とはエリーシャの言葉。
「その分、大きな得物を振るえないし、攻撃も避けづらい。前衛は任せるよ、エリーシャ」
「はい、ジュリー様」
「後ろは黒ピカとセラに守らせてますから、万全ですね」
「またしてもこんな辱めを……ク!」
“鳥獣戯画”で女の子化している黒ピカが嫌がっている……初めてあの姿を目撃した時は驚いたな。てっきり、生物系のモンスターにしか効果が適用されないと思っていたのに。
ほとんど人間そのものであるセラにも、一応使用可能みたいだけれど。
「私だって活躍したいのにー!」
背後はサキのモンスターが担当しているため、今のところ出番の無いクレーレは面白くなさそうだ。
「クレーレ、そんな事では一流のレディーにはなれないわよ。女はいつだって優雅でなきゃ!」
バトルパペットのローゼが、何やら偉そうに語っている。
「一流のレディーか……優雅……よく分かんない!」
「フフン! この私の言うとおりにすれば万事間違いないから、そこは安心しなさ~い♪」
「むしろ安心出来ないだろう」
呆れながらマリアが突っ込むこのやり取りも、見るのはこれで何度目だろう?
「罠解除」
先頭のエリーシャが“盗術”を使用し、レーザートラップを解除。
SFに出て来る研究所のような砦内を不思議に思いつつ、先へと進む。
パパとママは、天使の砦内をどうしてこんな機械的なデザインにしたのか。
「少々お待ちを。罠解除」
再び解除されるレーザートラップ。
さっきの物より、だいぶ殺意増してたな。
「ああいう罠があるから、NPCが先頭じゃないと不安なのよね」
モモカやバニラは先行させられない。
「……」
「どうしたのだ、モモカ姫?」
――モモカが、黒ピカをマジマジと見詰めている!?
天地がひっくり返ってもありえない光景!!
「サタちゃんや金ちゃんが、女の子になったのも見てみたい!」
「へ? 我は?」
「黒ピカはあの姿が嫌みたいだし、代わりにサタちゃんを呼びましょうか♪」
サキの悪い笑顔。
「待て待て待て待て! 我、超頑張るから! お願いだから活躍の機会を奪わないで!」
こんな狭い場所で、巨体に成長したサタちゃんなんて呼び出せないから。
「ジュリー様、“ドミニオン”です」
灰色味の羽毛の翼と、銀の笏持ちの甲冑天使。
『下等な人間風情が、我等に刃向かうなど――赦されぬ』
ここの天使って、オリジナルでもなんだか偉そうだったんだよな。
「ジュリー様、いかがしましょう?」
「私が出る」
右手に“侵略の雷帝剣”、左手に“避雷針の魔光剣”を握る。
『身の程を知ることを、死出への手向けとするがよい!』
笏を鈍器のように振ってくる天使、“ドミニオン”。
「ク!!」
二刀流で攻めるも、余裕で去なされてしまう!
コセやユイは、よく二刀流なんて使いこなせるな。私では全然上手く扱えない。
『ぬるいわ!』
――蹴りをなんとか左腕でガードし、距離を開けられた!
『エンジェルランサー!!』
“天使法術”を使ってきたか!
「――“侵略雷”!」
黄雷を纏わせた雷帝の剣で、エンジェルランサーを払い消す!
魔法ならば、放つのに使用されたMP分を私が消費する事で消し去れる。
「“避雷針”――へ?」
“侵略雷”が、魔光剣に移った?
「オリジナルではこんな……」
『“天使棒術”――エンジェルブレイク!!』
「クソ――がぁッ!!」
パワー負けするも、二刀を交差させてなんとか踏みとどまる!
“避雷針の魔光剣”に笏が触れた途端、武術のエネルギーが霧散していた。つまり、魔光剣に溜まった“侵略雷”の効果はそのままということ。
『チ! “天の裁き”!!』
“ドミニオンの笏”の効果を使用してきたか!
でも、“侵略雷”の効果により、大量のTPと引き換えに相殺された。
『奇っ怪な!』
距離を取ってくれた瞬間――勝負に出る!
「――“雷光斬”!!」
『“天使棒術”、エンジェルスイング!』
侵略の雷纏う斬撃は武術を打ち消し、甲冑天使を壁に叩き付けた。
神代文字無しだと、それなりに強敵か。
「“魔力砲”」
総MP半分と引き換えに、まあまあ厄介な“ドミニオン”を消滅させる。
「……二刀流は諦めるか」
ちょっと憧れてたんだけれどな。
●●●
「……暑いな。いや、熱い」
上階ルートを選んで上ってきたが、進めば進むほど暑さが増していく。
「そろそろ来るぞ、ルイーサ――大天使が」
フェルナンダの言葉通り、急速に周囲の熱量が上がって――……涼しくなった?
「あれが……天使?」
「――――コォォォぉぉぉぉ」
軽く十メートルはありそうだが……それよりも!
「黄金の剣を持つ、白い炎の巨人?」
実態があるようには見えないが、所持している武具のおかげでなんとか存在を実感できる。
「“ミカエル”だな。単純な戦闘能力なら一番高い大天使だ」
フェルナンダの説明の途中、“ミカエル”が炎の翼を羽ばたかせて高度を上げていく!
「ちょっと……マズいんじゃない、コレ?」
アヤナの言いたいことは理解できる。
なにせ、ミカエルが信じられないくらい高度を上げた瞬間、門番を倒した際に消えたはずの白炎のカーテンが復活――私達が逃げられないように囲ったのだから!
「これって……アイツを倒さないと出られない的な?」
「ああ、その通りだ」
アオイの予想を肯定するフェルナンダ。
「どうします? 僕じゃ、あの高さまで攻撃を届かせるのは……」
「……私も無理っぽい」
「“光線魔法”なら届くでしょうけど、見るからに効かなそうだし」
「奴には光の単一属性は通用しない。火に対しても高い耐性がある。尚かつ、接近戦を仕掛けるなら機動力が必要だ」
「つまり、まともに奴と戦えるのは私だけと言うことだな! ――オールセット2」
高機動飛行に優れた装備に変更。
「“後光輪”、“浮遊”――“超噴射”!!」
“降臨の後光輪”と“ジェットウィングユニット”を使用し、“ミカエル”に仕掛ける!!




