602.魔神・甲鉄百足
「“魔神・甲鉄百足”の弱点属性は火。有効武器は鎚。危険攻撃は、口から吐く“劇毒弾”。劇毒は毒耐性を貫通するから気を付けて」
久し振りのメルシュのボス講義が、酷く懐かしい。
「高い防御能力に加え、切断されるとバラバラに動き出す性質があります」
「打撃か魔法、もしくは切断されても動けないくらいズタズタにしろ」
「……」
戦闘経験のあるヒビキとレンのアドバイスに、半眼を向けるメルシュ……やっぱり、わざと情報を伏せている伏があるな、アイツ。
「ステージギミックは?」
「壁に幾つも穴があって、そこからダミーの百足が襲ってくる事がある」
ホーン族のエトラの質問に、ジュリーが解答……なんか、雰囲気変わったかな、エトラ?
「よし、私達から行くよ!」
コトリ達が門の向こう側に消えていくのを、意味ありげに見詰めているウララ……とカプア?
「次は誰が行く?」
メルシュが誰ともなく尋ねる。
「すまんが、私達は後の方で頼む」
ノーザンはともかく、アヤナとアオイの消耗が激しい。
「じゃあ、後から二番目くらいが良いかな」
「助かるよ」
「メルシュ。“酒呑童子の無限瓢箪”は、アオイに渡しても構わないか?」
フェルナンダが尋ねた。
「……ああ、なるほど。確かに、チトセよりもアオイ向きか」
「どゆこと?」
当事者のアオイが割って入る。
「瓢箪に入れた液体は、勝手に満タンになるんだ。“薬液充填”のスキルも、チョイスプレート内よりも瓢箪の中身が優先される」
「薬液銃のチトセは“薬液工廠リュック”の方が合ってるだろうし、チトセを除けば、薬液武器をメインにしているアオイが一番消費量が多そうだしね」
「確かに、今日だけで“溶解液”を八本分くらい使用した」
そのうちの六本は、“酒呑童子”に使った分だろうが。
「ほれ」
「うん、ありがたく貰うね」
「良いなー。私も、そろそろ新装備が欲しい」
アヤナが何かに羨んだりするの、なんだか久し振りな気がするな。
「私も……少し我が儘を言ってみるか」
●●●
「タマとスゥーシャは下がってなさい、良いわね」
「「……はい」」
疲れている二人に負担がいかないよう、手早く倒す。
「バルンバルン、初手で動きを制限してください」
「うん、分かった~」
ドライアドのヨシノの指示にスライムの隠れNPCであるバルンバルンが返事をしたタイミングで、奥の暗がりから紫と橙色の発光ラインを刻んだ、石でできた巨体が動き出す。
「“三重魔法”――“岩石魔法”、ロックマウンテン!!」
バルンバルンの魔法により出現した巨岩が落下――魔神・甲鉄百足の進行を阻む。
「“四重詠唱”――“植物魔法”、バインバインド!」
ヨシノの放った蔦により、魔神の拘束が完了――一気に決める!
「“六重詠唱”――“煉獄魔法”、インフェルノブラスター!!」
杖に三文字だけ刻み、六つの魔法陣を地味に強化――甲鉄百足の巨体を瞬時に焼き尽くす!!
『ギギ……ギ…………』
「フー、上手くいった」
むしろ、オーバーキルだったかも。
弱点属性の火特化の私が、火属性攻撃ダメージを倍化する植物に囚われている状態で、威力に優れた二属性魔法を六発。おまけに神代文字ありなんだから、当然の結果か。
「一応警戒はしていたが、ステージギミックを拝む機会はなかったな」
元騎士団長だったっていうエルフのレリーフェが警戒を解くと、本当に終わったんだって気になる。
「じゃあ、ちゃっちゃと選んじゃいましょう」
早くしないと、コトリ達が突発クエストに巻き込まれる確率が上がっちゃうし。
「……」
「どうした、ユリカ?」
「ううん、なんでもない」
いつの間にか、当たり前のように他人を心配するようになってるな、私。
●●●
「なにしてんだよ……ユイ」
「……ごめん、つい」
最後にボス戦を挑んだアタシらだったが、アタシのマスターがやらかしやがった。
『『『ギチギチギチ』』』
甲鉄百足を巨太刀で切り刻み、八体に分裂させちまったと。
「まあ、しゃあない。アタシらのパーティーは、斬るか刺すが得意な戦士ばっかだしねー」
アタシの専用武具にも、鈍器は無いし。
「ザッカル様、文句を言っている場合ではありませんよ」
「まあ、しゃーねぇか」
アルーシャに指摘されたからなのか、すぐに切り替えるザッカル。
「お前ら、下がれ! ――“万悪穿ち”!!」
黒の槍群が、ボス部屋の奥を覆い尽くすように着弾……倒せたのは一体だけ。残りは壁の穴から向こうへ逃げやがった
「あれくらい壊せば、さすがに動けなくなるか」
「問題は、残りがどこから来るかね」
カナの言うとおり、両壁に無数に空けられた、穴のどこから攻めてくるのか。
『ギギ!』
「――ハイパワーブレイズ!!」
“大弓術”を行使し、百足の分身一足を穿ち砕く。
「“暗黒魔法”――ダークレイ!」
“殲滅のノクターン”を使用し、魔法の一撃で身体の半分を消し去るカナ。
「“岩石武術”――ロックブレイク!」
すかさずアルーシャが“岩石王鎚”を飛ばし、カナの獲物に止めを刺す。
「“太刀風”!!」
放たれた“劇毒弾”を、振るった太刀から吹き付ける乱風をぶつけ、相殺するマスター。
「“裂闇爪”、“四連瞬足”――ハイパワースラッシュ!!」
“劇毒弾”を放った個体を、数瞬のうちに仕留めるザッカル。
幾ら分裂すると言っても、これだけの手練れが徒党を組めば、余裕を持って対処可能だね。
「――オラ!」
アルーシャを狙った奴の胴体を“ウォーグリーブ”で蹴り飛ばし、“大弓術”を叩き込んで撃破。
「助かりました」
「どういたしまして」
○おめでとうございます。魔神・甲鉄百足の討伐に成功しました。
いつの間にか、全部片付いていたらしい。
「さてさて」
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★甲鉄百足の手甲 ★劇毒弾のスキルカード
★甲鉄百足の指輪 ★劇毒の指輪
「なんか……パッとしないね」
「まあ、“劇毒弾”は地味に強力なんだけれどね」
「“甲鉄百足の手甲”……気になる!」
なんか、カナだけ楽しそうだな。
○これより、第四十一ステージの“妖しき色街”に転移します。




