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62.レギオンと二人の女

 食堂の長いテーブルにて、入り口の反対側真ん中に俺、右にトゥスカ、左にメルシュ。反対側向かいに右からタマ、ジュリー、ユリカが並んで一緒に食事をしていた。


 並んでいる食品は、バケットにグラタン、野菜と”ネイルグリズリーの肉”が入ったスープ、リザードマンの唐揚げ、茹でた野菜、果物、白菜とリザードマン肉のミルフィーユ鍋だ。


 グラタンと唐揚げが俺担当で、茹で野菜とミルフィーユ鍋がジュリー、スープがタマだ。


 バケットや果物は”英知の街”で買い込んだ物らしい。


 英知の街には乳製品や新鮮な野菜が多く出回っていたそうだ。


 トゥスカ達がチーズや牛乳を買い込んでいてくれたため、俺は夕食にグラタンを選択した。


「……コセ、料理上手なんだね」

「この唐揚げ、美味しいじゃん!」


 ジュリーとユリカが褒めてくれる。


 ……人に食べさせるのって怖かったけれど、作って良かった。


「もしかして、私より上手なんじゃ……」


 ジュリーがなにかショックを受けていた。


「レパートリーは多くないけれどな」


 家族が外食するとき、俺が個人的に作って食べていた物だから。


 一緒に食べに行くくらいなら、一人で過ごした方がましだった。来るなオーラ出してたし。


 だったら、食べに行くか聞いて来んな!


 表向きだけの道理を振りかざすのが……腹立たしかった。


「男の人が、こんな手の込んだ料理を……」

「結婚したのがこの人で良かった!」


 タマとトゥスカが……涙目になってる!?


「ど、どうした?」


「だって、男なんて全然ご飯作らないし!」

「たまに作っても、正直マズいのに「作ってやったんだから感謝しろ」とか平気で言ってくるし!」

「私達には好き嫌いするなとか言いながら、自分達は嫌いだからって理由で食べないとか言い出すんですよ! あのクソ親父とクソ兄弟共!!」


 二人の周りに居た男達が、程度の低い連中だって言うのは分かった。


「皆、これからについて話しておきたい事がある」


 ある程度食事が進むと、ジュリーが話を始めた。


「まず、私がプレイしたオリジナルとこの世界のダンジョン・ザ・チョイスは勝手が違うし、新しい要素が追加されている。だから、私の情報をあてにし過ぎないで欲しい」


 ジュリーが言うオリジナルは、オンラインゲームのこと。


 俺達が今置かれている状況は、言わば実体験型のデスゲーム。


 ジュリーの話を鵜呑みにし過ぎれば、妙なところで足を掬われることになりかねない。


「これから話すことは、この家の外では決して口にしてはならない。私達を見張っている観測者達に勘付かれないために」


「はい」

「分かったわ」


 俺も首を曲げて了解を示す。


「まだ先の話になるけれど、今のうちに始めておかないと後々不利になる事がある。それは――仲間集めだ」


 これまでのメルシュの行動で、なんとなく分かっていた事。


「理由は?」

「第九ステージに進むと、レギオンを結成する必要が出て来るんだ」


「レギオン? 軍団とか大群の事だったか?」


「そう。ダンジョン・ザ・チョイスの第九ステージでは、レギオンを結成しないと先に進めないようになっている」


 そのために人数が必要って事か。


「レギオン結成条件は、三パーティー以上で合計十五人以上。更に魔法の家が三つ必要なんだ」


「もしかして、それがこの屋敷を勧めてきた本当の理由か?」

「そう。でも、その辺はいずれ話すよ」


 情報が洩れる可能性は、少しでも減らした方が良いしな。


「レギオンはプレーヤー同士の派閥で、レギオン戦で勝たないと先に進めない箇所が幾つかある」


 オンラインゲームならともかく、槍の男みたいにいつ牙を剥かれるか分からないのに、協力しないといけないなんて。


「そのためにも、実力があって信用できる仲間を今のうちに集めておく必要があるんだ」


「あと九人も集めないといけないんですね」

「いいや、もっとだ」


 トゥスカの発言を否定するジュリー。


「私の協力者からの情報では、攻略最前線で三つの最大規模レギオンが、自分達の派閥拡大に力を注いで居るらしい」


「派閥の拡大?」


「レギオンリーダー、軍団長や幹部はレギオンメンバーに対して強い権限を持つらしい。だから、私は他のレギオンに下るのは出来れば避けたい」


 オリジナルには無かった権限を、軍団長と幹部は持っていると。


「レギオン戦を向こうから仕掛けられる可能性もあるしね」


 面倒な。


「コセが軍団長であれば私は信用できるし、心強い。だから、コセをリーダーにしたレギオンをこれから作っていこうと思う」


「…………俺!?」


「同時に、レギオン戦にはお金もアイテムも要る。これからは貪欲に物も人材も集めていく必要があるだろう」


「更に言えば、勝負は第九ステージまでだと思った方が良いよ。それより先に進むと、大抵はどこかのレギオンに所属しているだろうから」


 メルシュが補足に入った。


「私が今のところ目をつけているのは、リョウとサトミの三つのパーティー。彼等なら、マスターのレギオンに快く入ってくれる事間違い無しだよ」


 アイツらか……嫌だな。


「あと気を付けて置くべき事は、隠れNPCの入手。隠れNPCは第一、第二ステージ以外の五十ステージまでは存在しているから、一人でも多くレギオンに加えたい」

「能力に癖はあるけれど、一人一人がチートキャラみたいなものだからね」


「第四ステージのNPCは?」

「残念ながら、既に誰かが手に入れた後だった」


 他の隠れNPC、どんな能力を秘めているのか。


「ただ、隠れNPCはパーティーに一人しか入れられないよ。隠れNPCを多く仲間にするには、それだけパーティーリーダーを増やす必要があるの」


 今ここに、パーティーリーダーは俺とジュリーだけ。


「いずれユリカには、私のパーティーを抜けて貰おうと思う」

「え!?」


 突然の宣言に、慌てるユリカ。


「順当に隠れNPCが手に入ったとしても、ニステージは先の話だよ」

「そ、そっか……」


 不安そうだな。


「ユリカは突発クエストでの実績がある。問題ないよ」

「男共全員、私のおっぱいがどうのとかずっと言ってたけれどね!」


 ジュリーがフォローしようとしたのに、むしろ話が変な方向に。


「それと、レギオン戦には同じステージに居る者達しか参加出来ないという制限があるからね」


 メルシュの言葉の意味を考える。


「一緒に進む意欲の無い者を仲間にしても、意味が無いわけだ」


 信用できて、このゲームに果敢に挑む実力者を集める。


 トゥスカと二人だけでこのダンジョンから抜け出すなんて、夢のまた夢だったわけか。


 メルシュとジュリーが居なかったら、無謀にも二人だけで突き進んでいただろうし……この状況は、運が良いと言えるのかもな。


 その後、これからについて六人で長いこと話し合った。



●●●



 車が五台くらい走れそうな程幅がある青い橋を、ひたすら真っ直ぐ歩く。


 海からバカデカい怪魚が跳びだすと、橋に波が打ち付け、海水が表面を舐めていく。


 強くもなく弱くもない雨が止まぬ空から、十メートルはありそうな怪魚が、ギラギラとした歯を覗かせながら私を食らおうと迫ってきた。



「……“抜刀術”――波断」


 

 怪魚が真っ二つに裂け、橋に落ちる前に消滅する。


「アンタ凄いね、たった一人でこのバカデカい魚を倒しちまうなんて」


挿絵(By みてみん)


「そう……ですか?」


 そういう貴方も……大刀の一振りで怪魚を両断していたよね?


「ボーッとした顔して、恐ろしい女だよ。“抜刀術”にその剣、どうやって手に入れたんだい?」


「突発……クエスト? とか言うので」


 ”英知の街”で数か月も迷って、ようやく山村に辿り着いたと思ったら……突発クエストで”鬼武者”というのを倒して手に入れた。


「おかげで……貴方を身請け出来た」


 報償で3000000(三百万)Gも貰えたから。


「戦士二人だけで第四ステージに挑むとか、命知らずだよ、アンタは」


「そう……なの?」


 よく分からない。


「寒い……早く行こう」

「あいよ、マイマスター♪」


 アマゾネスのシレイアさんと一緒に、私は第四ステージを進む。


 早く元の世界に帰って、ハーレムアニメが見たい。



●●●



「……何故居る」


 六人全員で、伝統の山村にあるダンジョン入り口の洞窟まで来たのだけれど……。


「メルシュちゃんが昨日、一緒に行こうって誘ってくれたの~!」


 サトミさんが蠱惑的な笑顔で近付いてくる。


 その後ろでは、サトミさんのパーティーメンバーが苦笑いしていた。


 約一人、俺をメチャクチャ睨んでいるけれど。


 聞いてないぞ、メルシュ!!


「今回は人数が多くてもなんの問題もないし、助け合おう!」


 と、のたまうメルシュ君。


「……皆で行こうか」


 取り敢えず、同行の件は諦めよう。


第2章 完結です!



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