597.餓者髑髏VS邪影の凶獣
巨大骸骨が、黒い靄を骨にこびり付かせながら踏みつけて来やがった!
『ムーブメント!』
奴の背後頭上へと転移し、両手にそれぞれ握る二振りの黒斧を――頭蓋へと振り下ろす!!
『ハッ!!』
スキル無しでも、サブ職業の“脳筋野郎”や“万力の腕輪”、“邪獣化”によって劇的に上がっているパワーのおかげで、後頭部側の頭蓋が気持ちいいくらいに砕け散りやがった。
『まだまだあぁぁ!!』
再びムーブメントを使用し、足元に転移――足首の当たりを擦れ違い様に切り裂き、倒れてきた所を滅多斬りにしてやる!!
『ハハハハ! どうよ?』
下半身は完全にバラバラに――砕け散った骨がカラカラと急速に動き出して、元に戻っていく?
『核があるタイプなのか、もっとバラバラにしてやる必要があるのか』
エルザ達が遠巻きに見ているだけなのを考えると、私だけでもどうにかなると思っているはず。
『にしても』
スケルトン系に比べて、この“餓者髑髏”ってのは妙におどろおどろしいっていうか……妖怪特有の不気味さがあるというか。
『手を休めている場合じゃねーな』
ユニークスキルの“邪獣化”は、言わば“獣化”と“ホロケウカムイ”の同時発動状態に等しいらしく、致命傷が致命傷にならない上に爆発的に身体能力を高めるが、MPを消費し続けるというデメリットがある。
つまり、このパワーアップは時間制限付き。
『オールセット1、サブ職業セット2』
ケツから二本の鋼鉄の刃尾、“怪物狩りの握刃尾”と“凶魔刃の蛇尾”を生やす。
同時にサブ職業欄から“脳筋野郎”を外し、スキル攻撃の威力を半減するデメリットを取り除いておく。
更に、黒鉄の尻尾に二振りの大斧を握らせ、空いた手を地面に付き、四足歩行へ。
『行くぞ、デカブツ髑髏!』
上空からの平手を前に出る事で避け抜け、奴の肋骨めがけて二本の尻尾を振るう!!
『“二重武術”――“邪悪斧術”、ウィケッドブレイズ!!』
邪悪な瘴気でオンボロ骨を削り裂きながら、奴の骨盤までズタズタにしてやった!
『カカカカカ!!』
飛び散った骨が、一斉に私へ飛んできただと!?
『ざけんな!!』
尻尾斧と“黒神鉄の爪手袋”で、幾百の骨の乱流に抗う!!
ダメージを受けた事で攻撃パターンが変わったのなら、このまま攻め続けていればぶっ倒せるはず。
『――切り札を切るか!!』
“邪悪に全てをぶっ壊せ”に、神代文字を九文字刻む。
その青白い力を全身に纏い、爪と斧の振り払いから光の衝撃波を放って――骨の奔流を一掃!!
『――ムーブメント』
反転した骸骨の右腕横払いが迫っていたが、すんでで奴の背の上空へと転移。
『“空衝”――“二重武術”、“邪悪爪術”――ウィケッドスラッシュ!!』
空を蹴って急降下――交差した鋼鉄の爪で背骨をぶち抜き、胸の下辺りの地面に着地!
神代のオーラを二振りの斧の刃に集約――本体の数倍の刃と成す!!
『“二重武術”、“邪悪斧術”――――ウィケッドブレイク!!』
できるだけ広範囲に衝撃波が行き届くよう、頭上から左右、奴の頭と股間へと振り抜いた。
『ギガ……カ……ギ…………』
核を破壊できたのかなんなのか知らないが、バラバラに砕け散った大量の骨は再生する兆しを見せず、やがて光に変わりだす。
○“餓者髑髏の腕輪”を手に入れました。
●●●
「“古王の威厳”――“古代剣術”、オールドブレイク!!」
「“六重詠唱”――“光線魔法”、アトミックレイ!!」
私の“聖剣万象”を纏わせた長大な斬撃と、アヤナの極大な六つの光芒が、巨軀の黒灰色の鬼、“酒呑童子”に炸裂する。
「……オイオイ」
「嘘でしょ」
三文字分だけとはいえ、私とアヤナが神代の力まで加えて放った攻撃で、広範囲の皮膚と僅かな肉を吹き飛ばしただけとは。
「お前達、早く後退しろ!」
“四源の四翼”を展開してとっくに空へと逃れていたフェルナンダから、危機感を煽る圧の声が。
「“飛行魔法”、フライ」
「オールセット1、“超噴射”」
「“獣化”」
アヤナは魔法で、ノーザンは半獣の運動能力で、私は鎧に“ジェットウィングユニット”を装着し、その効果を使用して酒呑童子の放った青い火の玉を回避。
続けて襲ってきた腕の払いなどをなんとか躱しながら距離を取り、フェルナンダと合流。“降臨の後光輪”を展開してその場に“浮遊”する。
「アイツ、頑丈過ぎんでしょ」
「この関所ルートに出るモンスターでは、間違いなく最強だからな」
フェルナンダはそう言うが、頑強さだけならアルファ・ドラコニアンよりも上だぞ。
「奴を倒す方法は?」
「ジワジワ削るしかないな。極端に頑丈なぶん再生能力も無いし、持続ダメージを与える攻撃と併用して、とにかく強力な攻撃で攻め続けるしかない」
弱点らしい弱点が無い、シンプルに強い敵が一番厄介か。
「確かに、生半可な攻撃じゃダメージを与えられそうにないが」
「だったら、ここはアオイの薬液の出番じゃない! あの溶かすやつ!」
「それで、そのアオイはどこに行った?」
私達と反対方向に逃げたはずのノーザンも見当たらないけれど。
「あれ?」
「アオイならあそこだ」
三階部分に当たる廊下の一カ所から、“トリプル薬液スピアー”をホースか何かのように構えているアオイ。
「あの子……まさか」
「あの時、追いかけ回された恨み――食らえ!!」
アオイが柄頭を押し込んだ瞬間、槍の穂先から緑色の液体が大量にばら撒かれた!!
『ギャアアアァアァァァァァッッッ!!?』
酒呑童子の巨体に比べれば大した量に見えないが、大量の“溶解液”は奴の顔面に多く降りかかり、黒灰色の鬼を悶え苦しませる。
「暫くは“溶解液”による持続ダメージに苦しむだろう。今のうちに戦闘態勢を整えておけ」
「いや、良い手を思いついた――“後光噴射”!」
奴の足元に急降下。
「“破邪十字”!」
十字の光剣を地面から生やす!
「フェルナンダ、コイツの動きを封じてくれ!」
「“四重詠唱”――“精霊魔法”、ノーム!」
ブラウン光の小人を四体呼び出し、私の“破邪十字”へと酒呑童子を礫で誘導。岩の壁を生み出して囲んでくれる!
『ギャアアアアぁぁぁ!?』
目が見えず、足下から攻撃され、そのうえ壁に阻まれて自由に動けない状況……我ながら残酷だな。
「そういう事なら。“六重詠唱”――“水銀魔法”、マーキュリースプラッシュ!」
「“銀風魔法”、シルバウィンドミスト!」
アヤナとアオイの魔法が決まり、壁の中で毒漬けにされる酒呑童子。
何気に絡め手が多いな、この双子。




