593.妖怪モンスター
『キシャァァァァ!!』
「“神秘武術”――ミスティックハンマー!!」
首を伸ばして攻撃してきた“ろくろ首”の頭を、“倍打突きのザグナル”で吹き飛ばすセリーヌ……容赦ないな。
「“紅蓮魔法”、クリムゾンカノン」
飛び回る布の妖怪、“いったんもめん”を燃やし尽くすメルシュ。
「聞いていた通り、妖怪タイプのモンスターが出るんだな」
パーティーメンバーである犬獣人のトゥスカ、ワイズマンのメルシュ、NPCメイドのナターシャ、フェアリーのセリーヌの前で呟く。
「妖怪タイプですか……あまり共通点があるように見えませんが?」
トゥスカには、妖怪の概念が無いらしい。
まあ、日本の妖怪の概念て、外国だと悪魔や精霊に置き換えられるしな。
そもそも、妖精と精霊の区別なんかも曖昧だったりするみたいだし。
「俺がいた国モチーフのモンスターを、一括りにして妖怪って呼称してるってところかな」
「はあ……」
いまいちピンときていない様子のトゥスカ。
「ボロ屋が見えるようになってから、鬼じゃなくてその……妖怪ってのばかり出るようになったな」
セリーヌの指摘通り、安全エリアの茶屋でパーティー事に別れてからというもの、“ぬりかべ”や“子泣きじじい”といった妖怪モンスターしか出てきていない。
「進めば進むほど、妙に不気味になっていきますね」
「……だな」
俺もトゥスカと同じで、崩れた和風の長屋? がどんどん黒ずんでたり障子の破け具合が酷くなっていくさまに、薄ら寒い物を感じ始めていた。
「そろそろ強力な妖怪モンスターが出てくるから、気を付けてね」
メルシュがそう言うのを待っていたかのように、巨軀の不気味な猿が姿を現す。
「メルシュ、アレか?」
「ランダムで出てくる強力な妖怪モンスターの一体、“サトリ”だね」
「それって確か、一対一じゃ勝つのが難しいっていう……」
「うん、搦め手が必要なタイプだね。マスター、引きつけ役をお願い。ナターシャが仕留め役で」
「よし」
「畏まりました、メルシュ様」
恭しく返事をするナターシャを尻目に、“サムシンググレートソード”を構えて突っ込む!
『キキキ!』
「本当に捉えられない!」
高速で剣を何度も振るうも、余裕で躱される。
“サトリ”、相手の行動を読んで避ける事に優れた、倒すのが困難なモンスター。
「なら」
わざと攻撃の手を緩め、反撃を誘う。
「ダメか」
カウンター狙いなのを見透かしたのか、逆に距離を取られた。
「“大地魔法”、グランドクエイク!」
地面を揺らし、相手の行動を制限。
「ハイパワースラッシャー!!」
“飛剣術”で斬撃を飛ばすも、ボロ屋の屋根へと跳んで回避されてしまう!?
「これ、魔法のような面攻撃でもないと、ろくにダメージも与えられないな」
さほど強くないのに、倒すのに労力を必要とする敵……ゲームじゃなくても嫌な敵筆頭タイプだな。
「“偽命の腕”」
ボロ屋を素材にしたかのような腕が奴の足下の屋根から現れ、拘束に成功する。
「今です、ユウダイ様!」
「――ハイパワーブレイク!!」
『ギギーー!?』
動けなくなった“サトリ”は、呆気なく上半身を吹き飛ばして絶命した。
「地味に面倒な奴だったな。助かったよ、ナターシャ」
「お役に立てて何よりです、ユウダイ様」
いつも通り慇懃な態度のナターシャだが、頭を撫でると少し柔らかい笑みを浮かべてくれた。
うん、可愛い。
「イチャイチャしてないで、とっとと行くぞ。夜になるとマズいんだろ?」
セリーヌの言葉に、我に返る。
「日暮れになると、理不尽なくらい妖怪モンスターが出てきちゃうからね。まあ、時間には余裕があるけれど」
まだ昼前だしな。
「久々のステージ攻略、油断せずに慣らしていくとするか」
俺が四十ステージに到着してから、丸一ヶ月ぶりの攻略だからな。さっさと勘を取り戻さないと。
●●●
「“邪悪斧術”――ウィケッドスラッシュ!!」
空飛ぶ龍、“螭”を横に綺麗に捌いて仕留める、ヘルシングの隠れNPC、レンちゃん。
「強力な妖怪モンスターって言っても、やっぱこんなもんか」
つまらなそうに得物の大斧を担ぐレンちゃん。
「それはそうだろう。お前は、対モンスター特化の隠れNPCなんだからな」
指摘したのは、ヴァンパイアロードの隠れNPC、エルザちゃん。
「“怪物狩り”のスキルでしたっけ?」
「スキルだけではないですよ、チトセ様。ヘルシングの専用装備のほとんどが、モンスターに対してかなりの攻撃補正を持つ代物です!」
赤青メイドエルフのヘラーシャちゃんが、妙に得意げに解説。
「フン! 前にここを通った時だって、楽勝だったっての。相手は螭じゃなかったけれど……」
「そういえば、螭がかなり強いって、メルシュちゃんがさっき説明してたっけ」
茶屋の前でしてくれた注意事項を思い出す。
「空中を蛇のような動きで飛び回るうえ、硬い鱗と高い属性耐性まで備えているからな。レンがさっさと仕留めたから、さほど厄介には感じられないんだろうが」
同じ隠れNPCでも、レンちゃんと違って純粋なNPCであるエルザちゃんの方が。正確な情報を理解して説明してくれる。
NPCが一体でもパーティーに居てくれる有り難さを、実感せずにはいられませんね。
「イチカちゃんなら、ユニークスキルで仕留められちゃいそうですけれど」
私の言葉に彼女の様子を伺う。
「……へ? ああ、はい……そうですね」
注意力が散漫気味のイチカちゃん。
やっぱり、三日前の突発クエストの時にアルファ・ドラコニアンに言われた事……気にしているのかな。
●●●
「姉ちゃん……大丈夫?」
「だだ、だ、大丈夫よ……」
アオイの後ろに隠れるように怯えているアヤナ。
「最近は頼りになるようになったと思っていたのに、妖怪に対してはこの様か」
マクスウェルの隠れNPCであるフェルナンダが、わざとらしく呆れてみせる。
「だだ、だって恐いんだもん! 仕方ないでしょう!」
「まあ、確かにアレは、かなり不気味ではあるが……」
赤ん坊の死体を抱いた半裸の女。
肌は異様に白く、生気を感じさせない様は、妖怪というよりも幽霊。
「“姑獲鳥”だったか? 見た目が人間に近いせいか、下手な異形より恐いな」
日本のホラー映画って、海外のと比べてもかなり恐いんだよな。なんでだろう?
『子供を寄こせぇぇぇッ!!』
赤子の死体を投げ捨て、羽毛をまき散らしながらいきなり急接近してくる“姑獲鳥”!!
「“超高速”――“極寒断ち”」
盾を翳した私の横を猛スピードで通り過ぎ、幽霊女を青い斧で一刀両断する……牛獣人のノーザン。
「一撃で倒せましたか。呆気なかったですね」
「ノーザン……アンタ、恐くなかったの?」
アヤナの指摘に、私も同意する。
私ですら、あの異様な迫力で急接近してきた際にはゾッとしてしまった。
「盗賊狩りをしていたときとか、アレよりも酷い死体を散々見てますから」
「そ、そうなのか……」
死体が勝手に消えてくれるダンジョン・ザ・チョイスの仕様に、私達は地味に助けられているのかもしれないな……。
できたてホヤホヤ投稿!
少しのあいだ書き溜める予定です。続きはもう暫くお待ちください。




