61.ハーレム宣言?
「ふあ~あ」
昼食の後、眠ってしまった。
「フニャフニャ」
隣には、気持ちよさそうに眠っているトゥスカ。
そういえば、人類ってそもそもまともな恋愛能力を有しているのはほんの一握りって話を聞いたことがあったな。
「俺のトゥスカへの想いは……本物だよな?」
トゥスカの可愛い寝顔を見ながら、芽生えてしまった疑問を否定する。
窓の外はまだまだ明るい。
「……夕食の準備でもするか」
トゥスカを起こさないように、静かに部屋の外へ。
部屋を出ると、窓の向こうに広がるベランダにタマの姿が見えた。
タマはデルタを敬っていたらしいから、メルシュの話はショックだっただろう。
「タマ」
「……コセさん」
悩ましげなタマの瞳が、俺を見詰める。
風が強く、タマの髪や尻尾が揺れていた。
「私……どうしたら良いですか?」
「知らない」
「……即答ですか」
そりゃあ、突然どうしたら良いと言われてもな。
「タマは、今までなんのために戦っていたんだ?」
「ただ漠然と……ジュリー様に尽くすことが、デルタ様に与えられた役目だと信じていて……」
そのデルタが酷い奴等だと分かって、どうしたらいいのか分からないか。
「デルタ様を崇めていた私は、間違っていたのでしょうか? デルタ様を疑うなんて、本当はあっちゃいけない事のはずなのに」
「タマのそれは、妄信だな」
「……妄信……そんな」
こんな風に言われても、認めたくはないよな。
タマにとって、生きるための柱を否定されたのと同じなんだから。
でも、俺は敢えて言おう。
今は仲間で、一応は奥さんなんだし。
「一度も疑わない信仰なんて、妄信と同じだ」
「そんな……ことは」
「神様って、自分の言うことに黙って従う人間しか許さないような、ケチくさい奴等の事なのか?」
「そ、そんなわけ!」
だんだん感情的になってきたな、タマ。
「俺は自分の意思で……自分の人生を歩んでいないような人間が、神様に愛されるなんて事ないと思うけれどな」
端から見たら、俺の妄想と言っても差し支えない論理。
「……コセさんは神様に愛されてるような人ですもんね。良いですよね、そういう人は」
タマから暗い感情が滲み出る。
「俺の生まれた国にも色んな宗教が根付いている。でも、自分を無信仰だと考えている人間は多い。俺も含めてな。だからって、神や目に見えない物の存在を、俺は否定しない」
「なにが……言いたいんですか?」
向かい合いながら、強くタマを見詰めた。
「信じたいなら……疑ってしまったのなら……自分の目で確かめれば良い」
タマの目が、より険しくなる。
「タマはもう、本当はデルタを否定している。でも、それを認めるのが怖いんだろう? だから、ずっと苦悶してた」
タマの目が開かれる。
「大事な事は、気持ちでも、理屈でも決めちゃいけない」
「だったら……どうやって決めれば良いんですか!!」
「心だよ」
感情でも、理論でもない。
「自分の心と向き合えば、答えはおのずと見えてくる」
偉そうに言っているけれど、俺自身ほとんど実践出来ていない事なんだよな。
「心で……――解りました!」
一瞬で笑顔になった?
「私、コセさんから色々学びます!」
「俺から?」
なんで?
「コセさんの今の言葉……凄く、心に響きました!」
「へ、へー」
なんか、急に恥ずかしくなってきた。
「私、コセさんの言葉ほど心に響いた事はありません! だからコセさんの傍で、コセさんをずっと見続けます!」
なんか、愛の告白みたいになってない?
「これから、末永くよろしくお願いします。コセさん♡」
「こ、こちらこそよろしく……」
タマが元気になったのは良いけれど、なにかまずいことになった気がする。
★
「ご、ごめんなさい、ご主人様」
トゥスカが、俺が夕食を作り終えた頃に起きてきた。
「いいさ、たまには」
「私とジュリー様も手伝いましたし♪」
タマが、もの凄くニコやかにそう言う。
「タマ、元気になったのね」
「トゥスカさん……いえ、トゥスカ様!」
タマが大きな声を出したことで、居間に集まっていた五人全員の視線が集まる。
「私、コセ様の愛人に立候補します♡」
…………はいー?
「ご主人様が、タマを愛人と認めるのなら構いません」
「トゥスカさん?」
女性関係に寛容なトゥスカさんが怖い!
「わ、私は愛人とか嫌だから!」
ユリカが手を上げて抗議してきた。
「ちゃんと養ってもらうためにも、私は第三でも第五でも良いから、夫人にしてもらうからな!」
アイツを少しでも認めた俺がバカだった。
「落ち着いて、みんな」
メルシュが冷静な声で諭してくれる。
「そもそもここに居る全員、既にマスターと結婚しているんだから。マスターには責任を取る義務があるよ」
「………………へ?」
おかしいな。生き残るために善意で、形だけの結婚をしたはずなのに、いつの間にかハーレム関係が義務扱いになっているぞ?
「お前ら、本当にそれで良いのか?」
「コセ、ここは現代日本とはまるで違う。いつ、誰に、誰が殺されてもおかしくなく、頼れるような組織もない」
黙々と料理を食堂に運んでくれていたジュリーが、エプロンを外しながら語り始めた。
「女は、少なからず男に頼りたい生き物さ。そして、コセ程信用できる男は他に居ない。このゲームに参加してから、いや、向こうの世界に居た頃も含めて、私はコセ程信じられる男を知らない」
今、面と向かって凄い事を言われたよな。
「マスター。女にここまで言わせておいて、それでも逃げるんですか?」
メルシュの一言に、ムカッと来た!
「分かった! ならこうしよう! このゲームを終わらせたとき、そのときになってもまだ俺と添い遂げたいって言うのなら、ちゃんと責任を取ってやる! それまで、俺はトゥスカ以外には手を出さない! 良いな!!」
……冷静に考えると今の、リア充が贅沢な我が儘を言っている気がしなくもない。
「フフフフフフ!」
ジュリーが笑い出した。
というか、全員俺をニヤニヤした目で見ている!?
「な、なんだよ……」
「そういう所が、君を信用させてくれるんだよ♡」
「私としてはちょっと残念だけれど……格好いいじゃん♡」
「コセ様がそう言うのなら、仕方ないですね♡」
ジュリー、ユリカ、タマにそう言われた。
「さすが、私が見込んだマスターだよ♪」
「暫くは、ご主人様は私の独占状態ですね♡」
よく分からないけれど、なんか凄く……居たたまれない!
「さ、さっさとご飯を食べるぞ!」
エプロンを外しながら、俺は誤魔化すように厨房から食堂へと移動した。
……ハアー、なんでこうなったんだ。