587.極光の聖女の覚醒
《が……ぁ……》
「あんな状態になっても、まだ生きてるのか」
人間と同じ臓器があるのかどうか知らないが、心臓や肺やらが吹っ飛んでいるような状態だろうに。
「ルイーサ、やったね」
「いや、最後まで油断するな」
珍しく浮かれ気味のアオイに、無情と思いつつも気持ちを律するように促す。
光に変わるまでは油断するな……私達がこれまでの経験で、何度も身に染みたはずの考え。
「良いわ、私が終わらせてあげる。“光線魔法”」
《しゅ、”瞬間再生”》
――身体が一瞬で元通りに!!
「ハハ……そう言えば、前の奴も使ってたか」
あの時は更にパワーアップまでしてたし……あの頃のコセ、いや私達……よく勝てたな。
「……最悪なんだけど」
「今回ばかりは、姉ちゃんに同意……」
二人の消耗は私以上。
「アヤナとアオイは、少し休め」
時間を稼ぐだけなら、私だけでもなんとかなるはずだ。
「ちょ、本気で言ってんの!?」
「……五分で良いから」
やはり、アオイの方が冷静だな。
「ああ、任せろ――オールセット2」
“古代王の聖剣”から、もっとも慣れ親しんだ双聖女の白銀剣に変え、“高位騎士の聖鎧”に”ジェットウィングユニット”を装着した状態へ。
”ヴリルの聖骸盾”と聖剣に十二文字ずつ刻み――本気の戦闘態勢へ。
「“後光輪”」
クレーレとトゥスカがゴーストシップで手に入れたというSランク、黄金の放射線状の金属棒が、同じく輪っかで括られた“降臨の後光輪”を背中側に浮かせる。
《俺達の真似でもしているつもりか? ――ノールディックぅぅぅッッ!!!》
剣と槍を再び“連結”させ、自身の身体を浮かせて高速突撃してきた!?
「“浮遊”――“後光噴射”!!」
”降臨の後光輪”の二つの効果を使用。身体を浮かせたのち――後光の推力を利用して突撃!!
《死ねよぉぉッ!!》
「――“超噴射”」
剣に不可視の力を纏わせているのを感知し、巨剣の薙ぎ払いを、鎧左脚に取り付けられた“ジェットウィングユニット”のスラスターを吹かし――右回転するように回避!! アルファ・ドラコニアンとすれ違う!
“浮遊”と“後光噴射”と合わせて姿勢を制御し、即座に背後から斬り掛かった!!
《しゃらくせぇぇーーッ!!》
ただ左腕を薙ぎ払っただけで、激しい衝撃波に襲われる!!
《――くたばりやがれぇぇ!!!》
空中上段からの振り下ろし!!
「“守護武術”――ガーディアンランパート!!」
最近世話になりっぱなしの障壁を展開――神代の力を流し込み、半ばまで斬り込まれた所でなんとか奴の剣を止める!
《ウザってぇ!! “分離”》
三度剣と槍に分け、槍だけを手に障壁を上から回り込んで来た!!
「――“猪突猛進”ッ!!」
スラスターを最大まで吹かし、気を抜いたアルファ・ドラコニアンへと全速力で激突――空へと一気に昇っていく!
《こ、こんな事をした所でぇッ!!》
急上昇による気圧の変化、圧力、ドラコニアンの念による多方向からの衝撃波を無視し――ぶち込んだ盾を翳したまま昇り続けるッ!!
《――――ギャァぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!?》
見えない天井に直撃――尚も押し込み続けていく!!
もう誰も――アヤナとアオイを奪わせない!!
――――身体の左右から、さっきまでとは比べ物にならない衝撃波を……叩き付けられた。
《う、動かなければこっちのもんなんだよ》
意図せず、急上昇し続けることで衝撃波による直撃を……避けていたのか。
身体から……力が……。
「――ガハッ!!!?」
――お腹に何かが激突して、重しのように私の身体を急降下させていく!!?
《只の落下死なんて面白くねぇ――俺に蹴り潰されて、グチャグチャの肉塊になれぇぇぇぇッッ!!!》
このままだと、地面に落下と同時に踏み潰されるッ!!
《お前を殺した後はあの女二人――そして、同胞を殺したあの男を、この爪で切り刻んでやるよぉぉッッッ!!!》
《――させない》
――疲労と熱で火照った身体に、清らかな冷水が流れ込んでくるかのように……痛みが消えていく。
《――な!?》
無様に地面へと墜落した、アルファ・ドラコニアン。
なんて事は無い。衝突の直前に、この身体を分解して地上で再構成しただけの話し。
《ここ……》
だいぶ、祭壇に近付いてしまったようだ。
《そ、装備セット1》
またも巨剣槍を手にするアルファ・ドラコニアン。
《……すぐに終わらせる》
彩藍色の文字を、盾と剣に十五文字ずつ刻む。
《何が五次元の力だ……ぶっ殺してやるッ!!》
奴の怯えが、手に取るように解る。
《可哀想な子》
《……は?》
《低周波の存在は、本来腰抜けだ。自分よりも弱い存在にしか強気になれず、他者の優しさに付け込んで操り、搾取する事しかできない――どうしようもない出来損ない》
それが、低周波存在へと堕ちた者達の本質。
一部、例外があるとすれば…………目の前のは違うが。
《シーカーによって作られた戦闘種族であるお前達は、戦闘に不要なものは可能な限り除外されている》
怯えはしても、感情に任せて逃走するという選択肢を取れない。
コイツらの不退転は、決して勇気じゃない。
肥大して植え付けられた、くだらない自尊心への執着。ただそれだけでしかないのだ。
《俺を……見下すんじゃねぇ》
《強力で逃げない、都合の良い便利な戦闘奴隷。それがお前達の真実だ》
《――――奴隷はお前らだ、ノルディックぅぅぅぅぅぅッッ!!!!》
豪快な振りの巨剣を避けながら、ゆっくりと聖盾に“ヴリルの祈りの聖剣”を収める。
《“抜剣”》
十五文字を刻んだ聖剣を、万象の輝きと共に――聖者の骸より引き抜く。
《ぅわああああああああッッ!! 死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!》
巨剣と共に叩き付けられる衝撃波を、こちらも念で生み出した衝撃波で相殺。
《その念能力は本来、お前達如き、未熟な精神性存在が使用して良い力ではない》
《――死んでくれよぉおぉぉッッ!!!!》
翳した左手の平から念を放ち、奴の念能力を纏う巨剣を――奴の身体を完全に止める。
《劣化コピーはお前達、低周波存在のお家芸だな》
《ぁぁぁぁぁああああッッッ!!! 黙れぇぇ!! 黙れぇぇぇぇぇぇッッ!!!》
それは私のセリフだ。
《“極光剣術”――オーロラブレイド》
最強の劣等種の身体を両断――一息の間にその身を切り刻んだ。
《お前達の声は、酷く耳障りだ》




