586.吉兆の戦士アオイ
「“鞭化”――“水銀武術”、マーキュリーラッシュヒット!!」
“双銀鳥の仕込み杖”の柄を鋭利な鞭に変えて、攻撃し続ける!
《ギャハハハハハハ!! ――んなもん意味ねぇよ!!》
見えない何か……半球状の壁が展開されてそう。
「頭に直接――汚い笑い声響かせんな!! “光線魔法”、アトミックレイ!!」
青白い光が、元私のと同じだった片翼銀杖、九文字刻まれた“凶兆片翼の銀鳳凰”から放たれる!
《――ぅおッッ!?》
あの威力でも、不可視の力で防いでる――けれど!
「“闘気剣”――“瞬足”跳躍”!!」
ルイーサお得意の、一瞬で距離を詰めての高速突きが――お姉ちゃんの逆側から放たれた!
《気付かねぇとでも思ってんのか!!》
銀の巨剣の一振りを二人の女性が描かれた盾で受けるも、ルイーサが吹き飛ばされちゃう――けれど!
《――チ!!》
懐に潜り込んだ私の“トリプル薬液スピアー”を、間一髪、剣の腹で止められる!
《その槍は、さすがに食らえねーなぁ》
溶解液付きだってバレてる……?
「観測者から、私達のこと色々聞いてたの?」
《戦いに関しては、クエスト中にタップリ見させて貰ってたぜぇ~》
意外と抜け目ない奴。
《“分離”》
巨剣部分と槍のように長い柄を切り離して――柄頭に付いた十字の穂先を繰り出してきた!!
避けようと動くも、完全に捉えられ――杖の鳳部分をぶつけて軌道をずらす!
《生意気だな!》
――衝撃波をぶつけられて、数メートル後退させられる!!
「私の妹に――なにしてんのよ!!」
“水星のアームロッド”に掴ませた“ヘビーバスターソード”を、上段からぶつけるお姉ちゃん!?
でも、重塊の剣を、難なく超能力で弾いてしまう赤トカゲ。
「“光線魔法”――アトミックレイ!!」
至近距離から、九文字分の神代の力が注ぎ込まれた一撃が放たれて――お姉ちゃんが反動で吹き飛ぶ!?
私が死ぬ前からは考えられないくらい無茶をするようになったな、アヤナお姉ちゃん。
《チ! 壁を突破されるとは》
アイツ、巨剣を逆手に持ったまま盾のように使って防いだ!?
「“大鬼の手”」
《おっと》
拘束に使おうと大きな灰色の手を呼び出した瞬間、見えない力で消し飛ばされた!!
《オラ、正面からぶつかり合おうぜぇ!!》
槍の猛撃を、空中ステップを織り交ぜながら回避し続ける!
姉ちゃん達が王の墓で手に入れたっていうAランク装備、“水銀妖精のワルツ軽鎧”。
この鎧のお陰で、私はつま先のみによる“空中散歩”が可能。
《おちょくってんのか、テメー!》
走ったり歩いたりは難しくて、つま先で蹴るようにじゃないとまともに使えない能力。
だから、傍目には空中でステップを刻んで遊んでいるように見えてしまう……割とキツいのに。
鎧の下の新しい黒バンドみたいな恥ずかしいSランク衣服、“パーフェクトバランサー”が動きやすくて助かる。
「ハッ!!」
神代の力を纏わせた白い槍を、また剣の腹を盾に防がれた!
このトカゲ、武具で防げる攻撃には能力を使ってこない。
前にコセ達が戦った個体より、戦い方が上手いかも。
《――ギャハハ》
ルイーサの背後からの不意打ちを避けて、尻尾で薙ぎ払った!?
「クソ!」
《貴様ら、視線で会話しすぎだぁ~》
コイツ、私の視線でルイーサの不意打ちに気付いたってこと?
《それにしても、なかなか崩せないなぁ~》
「ハアハア」
三人で攻めているようで、その実、攻めることで三人で三人をそれぞれ守っているような状態になっちゃってる。
「こちらを徐々に追い詰めて、甚振っているだけのくせに」
《ギャハハハハハハハハ!! ……バレたか》
ルイーサの指摘に笑ったと思ったら、一気に空気が張り詰めていく!!
《俺はな、ただ暴れて殺すだけじゃ物足りないんだ。お前達のような生意気なノルディックの――心を折るのが好きで堪らないんだよぉぉッ!!》
――姉ちゃんに強力な衝撃波を叩き付けて……吹き飛ばしてしまった。
「……――お前ッ!!」
私からお姉ちゃんを奪う奴は――絶対に許さない!!
――――“双銀鳥の仕込み杖”の形状が変化し、片方の翼がもがれ――優雅なりし“吉兆片翼の銀鳳凰”になる!!
「“銀風魔法”――シルバウィンドスラスト!!」
クロスする毒風の風刃を撃ち出し、九文字分の力を注ぐ!
《毒は面倒だ――ハッ!!》
簡単に衝撃波で霧散させられるも、そんなことは分かりきっていること。
「“二重詠唱”、“光線魔法”――アトミックシャワー!!」
吹っ飛ばされた姉ちゃんの魔法陣が上空に展開――私が神代の力を流し込んで威力を底上げ!
同時に、奴から見えない位置に“大鬼の手”を新たに作り出しておく。
《ギャハハハハ!! そうだ、好きなだけ抗え!!》
避ける素振りもなく、降り注ぐ光のシャワーを嬉々として防ぎ続けるトカゲ男。
「“抜剣”」
この重苦しい空気を、清く切り裂くルイーサの声。
三人の思考が――共鳴していく。
「“古王の威厳”――“古代剣術”、オールドブレイク!!」
“ヴリルの聖骸盾”により纏わせた“聖剣万象”と、神代文字によって強化された長大な斬撃が――逃げ場の無いアルファ・ドラコニアンに迫る!
《“連結”――“超竜撃”!!》
剣槍の力で対抗するも、アルファ・ドラコニアンは、こっちに向かってシャワーの中を吹き飛ばされてきた!!
「――“斧化”」
“吉兆片翼の銀鳳凰”の翼をノーザンの斧みたいに変え――九文字分の力を集約。
《“分離”》
「“水銀武術”――――マーキュリースラッシュ!!」
投擲された十字槍に頬を大きく斬られながら前に出て――アルファ・ドラコニアンの胴を深々と切り裂いた!!
《――下等種族がぁぁぁッッ!!》
「がぁッッ!!」
問答無用で衝撃波を背後からぶつけられて、ルイーサの傍まで吹き飛ばされる!
《よくも……よくもよくもよくもよくもよくも――よくもよぉぉぉぉッッ!!!!》
「――“水銀形の通り魔”」
目元だけを隠す銀の面を付けた、剣手の水銀人の怪物が――トカゲ男に追撃を掛ける!
「うっさいのよ、クソトカゲ!!」
姉ちゃん。神代の力で、自分の背後の地面から飛び出す通り魔を強化して襲わせてるんだ。
本当に器用になって……アオイは嬉しいよ。
「ハイヒール」
痛む身体を無視して、出血が酷い頬の傷を最優先に塞ぐ。
「“白骨火葬”!!」
ルイーサが灼熱の灰を放ったりと、トカゲ男に二人がかりで畳み掛けている――私も負けてられない!!
「“猪突猛進”!!」
薬液槍を強く握り締めて、正面から全力で突っ込む!!
アイツが槍を手放した今こそ、絶好のチャンス!!
《――――調子に乗るなぁぁッッ!!!》
全方位に放たれた強烈な衝撃波が私達三人を襲い――激しく打ちのめした。
「……ぅ」
やば……右肩……外れちゃったかも。イッた。
でも……。
《…………いつの……間に》
奴の背後、肩から身体の中心地まで切り込んでいたのは……私の“大鬼の手”が握る、お姉ちゃんの“ヘビーバスターソード”。
生き返った事でお姉ちゃんの奴隷扱いとなっている私は、“連携装備”のお陰で、姉ちゃんの装備を――自分の物として使える。
「“水銀武術”――マーキュリーブレイク」
灰色の手から“ヘビーバスターソード”に武術を遠隔発動して、トカゲ男の身体を中心部分から吹き飛ばしてあげた。




