584.剣道戦士フミノ
「――オララララララララララララ!!」
ハッスルモードになったチトセが、二丁のガトリングから銃弾の雨を浴びせ、不気味なおどろおどろしい盾を持つアルファ・ドラコニアンを足止めしてくれる。
「ハアハア」
「ハアハア、アイツ……強過ぎんだけど」
クレーレが弱音を吐く……なんか意外。
「それでどうします? ジュリーさん」
「後退して皆と合流する?」
イチカとフミノに尋ねられる。
「アルファ・ドラコニアンが現れたにもかかわらず未だに援軍が来ないのは、どこも手こずってるからだと思う」
アルファ・ドラコニアンの出現に気付けない程激戦を繰り広げているのか、最悪……ここ以外にも、アルファ・ドラコニアンが現れている可能性も……。
「とにかく全員で畳み掛けて、奴の不可視の力を限界まで引き出し、力技で突破する。考えられる有効打は他に無い」
以前戦った経験から導き出した、もっとも効果的であろう戦術。
「絶対に神代文字を切らすな。切れた瞬間に死ぬと思え」
あの不可視の力に対抗するには、神代の力は必須。
「解りました」
「じゃあ、私から斬り込むかな」
フミノが、鏡の板で出来た竹刀状の武器に六文字刻む。
「待って、フミ姉」
クレーレが止める。
「最初は、私が仕掛けるから」
●●●
「“尖衝武装”」
鏡の竹刀、“只ひたすら打ち込むのみ”に、突きに特化した赤い四角錐の光を纏わせる。
「おい、そろそろMPが切れる!」
豹変チトセちゃんが限界を伝えてきた。
模擬レギオン戦でたびたび豹変ぶりを見ていたけれど……ちょっと未だに慣れない。
「準備……出来たよ」
「お、重い……」
クレーレちゃんとジュリーちゃんが、“トマホークレールシューター”という巨大武器を必死に支えている。
「”獣化”状態なら、これくらいわけないのに」
「い、良いから早く!!」
クレーレちゃんとジュリーちゃんの文字の力が、巨大射出鈍器にセットされた投げ斧全てに吸い込まれていく。
「いっくよ! “闘気斧”――――“投げ斧射出”!!」
十一の斧全てが高速射出――チトセちゃんの攻撃を防いでいるトカゲ男に迫る!
《何をするかと思えば》
奴を中心に、半径二メートル以内で全ての斧が止められた!
「――クレーレ!!」
「おうともさ!!」
二人の文字が共振して全ての斧から神代の力が炸裂――止まっていた斧達に再び暴威が宿――
《小賢しい!!》
不可視の槍か何かで攻撃されたみたいに、全ての斧を弾き飛ばされてしまった!!
でも、このタイミングなら!
「――ムーブメント」
突きの構えで、奴の背後に回り込む。
――気付かれぬよう、新たな攻撃能力を使わずに胸を狙う!
《――チ!》
二の腕に掠っただけで躱された!?
肉壁が無くなったため、チトセちゃんの攻撃を急いで躱――した先に、トカゲ男が回り込んでいる!!
「“聖炎水魔法”――バーンセイントスプラッシュ!!」
《――“法呑み”》
黒い盾に付いた口が開き、援護しようとしたイチカちゃんの魔法を食べてしまう!
――また来る!
《返礼してやる――“法吐き”》
避けようと動く私に盾の口を向け、燃える水をそのままの勢いで吐き出して来た!!
「――“魔斬り”!」
水を切り裂いて消失させる。
「“聖炎水剣術”――バーンセイントプリック!!」
イチカちゃんが背後から突きを仕掛けるも、念力で止められた!
「装備セット2」
左手にSランク武器、“アルティメット硬鞭”を装備!
「“殴打撃”!!」
わざと目立つ“只ひたすら打ち込むのみ”で攻撃し、念で止めさせる。
《……なんだ?》
私がコッソリ振るった硬鞭が、盾にぶつかった事を訝しむトカゲ男。
鏡の竹刀で急所を狙い、鋼鉄の棒で盾を狙い続ける!
《なにを狙って……盾が》
私の“アルティメット硬鞭”の“究極摩耗”は、ある程度強く接触させれば、武具を簡単に抉り削る事が可能。
一定以上の損傷を与えれば武器は強制的に装備が解除されるため、武具を使う人型モンスター、対人戦にて大いに有利に立てる武器。
まあ、鉱物系以外のモンスターには、只のランクが高いだけの武器になっちゃうんだけれど。
「余程頑丈な盾ね。Sランクかしら?」
Bランクくらいなら、耐久性に優れた盾でもとっくに装備解除に追いやれているはず。
《ク――ハハハハハハハハハ!!》
高らかに笑い出したと思ったら、盾を明後日の方向に投げ捨てた?
《どうも武器を扱うのは面倒だ――ここからは、一切の隙も見せない》
――イチカちゃんの剣による不意打ちを避け、私の攻撃にも対応し――尻尾の薙ぎ払いで二人纏めて吹き飛ばされるッ!!
《俺を、そこらの雑魚ドラコニアと一緒だと思うなよ?》
厄介に感じてた念力無しで、完全に手玉に取られてしまった……まずい。
「なら、切り札を使います!」
イチカちゃんが腰からその手に掴んだのは、銀の懐中時計!
「それって確か……」
「後はお願いします――“時止め”」
《く!!》
懐中時計から藍色の光線が放たれ、トカゲ男は躱せずに接触。
“時止め”、モンスターの動きを六秒間だけ止められる能力。
ただし、使用者はその間無防備になってしまうため、敵が一体で仲間が居るときでなければ意味が無いという、なんとも使い勝手の悪いアイテム。
Sランク武具は強力だけれど、一癖も二癖もある武具が多くて手が掛かるイメージ。
「“鏡面武術”――ミラーサーフィスストライク!!」
六文字分の力を集約した一撃を、喉を狙って放つ!!
「――――ゲフッッ!!?」
紙一重で躱された挙げ句、鋭利な右足の爪が腹部に突き刺さって……蹴り上げられた。
《“時止め”だか何か知らないが、俺には通用しないらしいな》
「まさか……」
コイツ……モンスターじゃないの?
「“天雷魔法”――ヘブンサンダラスレイン!!」
発光する雷が何重にも轟いて、トカゲ男を牽制する。
「次は私が相手だ、アルファ・ドラコニアン」
……黄昏の翼を広げ、舞い降りる天使がいた。
●●●
「イチカ、フミノの治療を! チトセ、適度に私を援護!」
アルファ・ドラコニアンはモンスター扱いじゃない……少し考えれば気付けた事なのに……事前に伝えることが出来なかったのは、この場の指揮を取っていた私のミス。
《お前は、俺を楽しませてくれるのか?》
「知るか」
奴の念能力も、無限ではないはず。
「盾を捨てた事を後悔しろ――“四重詠唱”、“天雷魔法”――ヘブンサンダラスレイン!!」
とにかく広範囲に、天の雷をばら撒く!!
《お前には頭が無いのか? 神代の力すら込めず、無駄にエネルギーを消費するとは》
なんとでも言え。
「天雷の金星球――“磁力”!!」
指輪から呼び出した金塊球に神代の力を込めてから――高速反発射出!!
「“天雷魔法”」
魔法陣を分かりやすく展開。避けようとすれば狙い撃つと知らしめる。
――奴は避けず、受け止める選択をしたらしい。
「ヘブンスプランター!! ――“回転”!!」
金星球に雷を吸収させると同時に回転を加えて、威力を一気に増強!!
《やってくれたなッ!!》
私だけじゃなくフミノとイチカの神代の力も加わり、回転速度は尚も増していく!
《――ぅおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!》
大気が弾け――金星球までもが弾き飛ばされた!!?
《ハアハア、ハアハア……本当に……やってくれたな》
両腕が肘近くまで消失し、残っている部分も焦げ付いているようだけれど……致命傷には程遠い。
「スティール……上手くいったよ、ジュリ姉!」
奴の盾の所有権を奪ったクレーレが、暢気に手を振っている。
《なるほど。最初の広範囲攻撃は、俺の注意を引くためか》
嫌でも注目させ、クレーレが盾を奪う隙と時間を稼いだ。
《フン! 既に、その武具に頼る気など失せていた物を》
「へ? ――――ぁぁああああああああああッッッッ!!!?」
壊れかけていた盾が赤い光になって――突然、叫びだしたクレーレの胸に吸い込まれていった!!?
「クレーレちゃん、まさかコセくんのように!?」
チトセは、あの現象を知っている?
「……や……ば」
クレーレが倒れ、蹲って動かなくなってしまう。
《“瞬間再生”》
アイツ、前のアルファ・ドラコニアンと同じく激レアなおまもりを!!
《貴様らに合わせるのはもうやめだ。全力で捻り潰してやる》
隙は見せないとか抜かしながら、楽しむのを優先していたということか――
「チトセさん! クレーレをお願いします!!」
“明星の遣いの嘆き”に無理矢理十二文字を刻んで、他の人間を狙わせないために――全速力で仕掛けるッ!!




