579.帳の片隅より現れし者
『――グペ!!』
杖の先端を喉に突き入れて青鬼の動きを止めた瞬間、逆手に持っていた鋭利な爪の短剣、“万能のドラゴネイルエッジ”で喉を裂く。
「今ので最後か?」
数体は通してしまったが、まあ、それくらいは向こうの獣人かフェアリーでどうにかするだろう。
「エトラって、割と強いよね~」
私の主となっているコトリに、おかしな事を言われる。
「おいおい、私のLvは《龍意のケンシ》ナンバー1だぞ?」
まあ、元六十四ステージに居た私と四十ステージに居るコイツらのLvがほぼ同じっていうのが……そもそもおかしいわけだが。
「……なんか来るね、大っきいのが」
三体の“黒鬼”が広場に飛び出してきて、祭壇脇を目指して牢へ向かおうとしているようだ。
「アレはかなり硬い奴だったな――“古代兵装/六門竜砲”!!」
竜を模った黒金の砲門六つを、両肩辺りに二門ずつ、太股横に一門ずつ浮かべる!
「へ、それ使っちゃうの!?」
魔法使いLv75で解禁される、私の最強の古代兵装!
「――ファイア!!」
私の意志で照準を調整――六門から、火竜の息吹を一斉放射!!
三体が綺麗に消し炭となったのち、後から現れた二体も余波を食らい、大ダメージを負わせた。
「ククク! 一発、総MPの十分の一を持ってかれるとはいえ、やはりコイツをぶちかますのは気持ちいい」
六門から一斉に放っているから、実際には六割持ってかれているんだが。
「ほぼ攻撃手段がMP頼りのくせに」
「ほらほら、手負いの黒鬼は任せたぞ、コトリ」
「調子良いな~」
などと言いながら、トドメを刺しに行ってくれる。
「……生きてんのかな、ボス」
ギルドで確認したところ、私が所属していたレギオン……《真竜王国》は無くなっていた。
おそらく、なんらかの理由でレギオンの維持条件を満たせなくなったためだろう。
「あのボスが……死んでるはずないもんね!」
私が死んだ六十四ステージまで行って、真相を確かめる。
それまでは、全力でこのレギオンに協力してやろう!
●●●
『グァァ!!』
『――オッも!?』
黒鬼の大刀の一撃を、この俺をもっとも手こずらせてくれたヘルナイトから手に入れた両肩部の爪腕、“ノワールクローユニット”で止めたてやった!
『“逢魔剣術”――オミナスブレイク!!』
“万の巨悪を討ち滅ぼせ”を振り抜き、腹の肉をゴッソリと抉り散らす。
『“二重武術”――“斬爪拳術”、ブレイズスラッシュ!!』
大剣の重みが無くなった両肩爪腕で、鬼の屈強な肉体を斜め十字に切り裂いて終わらせた。
精神力の消耗を押さえるために“獣化”を使って倒してるが、これ以上黒いのが増えたら、神代文字無しじゃ対処しきれねぇな。
『来たか』
木の皮で出来た鎧? みたいなのを着た黒鬼と、普通のが二体現れやがる。
『とっとと片付ける――“万悪穿ち”!!』
黒の剣槍を無数の槍に変えて放ち、二体の鬼の身体を穴だらけに。
『チ!』
神代文字無しとはいえ、木の鎧を着た奴は鎧をボロボロにしただけで五体満足とは、なかなか頑丈な鎧――
『あの鎧、まさか再生してやがんのか?』
散乱した木の破片はそのままに、内側から見る見る修復されていきやがる!
『面倒な』
こうなりゃ、文字の力で――
『“泥土斧術”――ベリアルスラッシュ!!』
独特な形の赤い斧、“爆炎のバルディッシュ”を胸まで斬り込ませたのは――“獣化”状態の山猫獣人、サンヤ。
『“爆炎月下斬”!!』
炎を刃から衝撃と共に撒き散らしながら黒鬼を両断し、内側から焼き殺しやがった。
『やるじゃねぇか。あの鎧を簡単にぶった切るとはよ」
脆いからこそ、威力を相殺される感じだったのに。
『“木樵”のサブ職業のお陰で、斧でなら植物系モンスターや武具を問答無用で斬れるんすよ」
「そんなサブ職業もあんのか」
色々ありすぎて、戦術を考えるのが面倒だぜ。
●●●
「“斬鉄”――」
十二文字刻んだ大太刀、“波紋龍閃の太刀”で――青白い鎧を纏い、高速で動き回る黒鬼の腕を装甲ごと切り裂く。
「その鎧……ザッカルさんのに……似てる?」
ま、今はどうでもいっか。
“斬鉄”のお陰で、金属は問題なく斬れる。
『ガルル……“超高速”』
龍の大太刀を鞘に収め、再び高速で動きだした鬼に対し居合いの構えへ。
「“抜刀術”――――紫電一閃」
背後に回り込んだ黒鬼へと即座に向きを変え――紫の剣閃にて両断して見せた。
「これで四体」
……取り敢えず、北西から来るのは一段落かな。
「さすがユイさん」
ノーザンさんがやって来る。
「あの黒鬼が切り札なら、そろそろこのクエストも終わりそうですね。青鬼の方が厄介だったけれど」
「……嫌な予感がする」
「へ?」
「たぶん……まだ何かある」
じゃなきゃ、わざわざコセさん達を牢に封じてまで仕掛けた理由が解らない。
「牢に触れられるとゲームオーバーは、たぶん囮」
観測者の狙いは、もっと解りづらい部分にある。
姑息な二重三重の手を仕掛けてきたにしては、詰めが甘すぎる気がするから……。
◇◇◇
『一人……一人殺せば、私は生き残れるんだ……』
手箱を配置したのは、欲をかかせるためだけじゃない。
高ランクのアイテムを多く用意する事で、難易度の高いクエストの審査をトライアングルシステムに通させるため。
EXランクに関しては、難易度よりも罠の意味合いが強いけれどね~!
『SSランクが確定で手に入る賭けにまで出たのだから……何が何でも、あのトカゲ共には勝って貰わなきゃ!』
●●●
「ハアハア、キッつ」
さすがのアオイも、随分へばっているな。
「黒鬼十六体は全部倒したし、向こうの援護に行く?」
「お姉ちゃん……やる気あり過ぎ」
「逞しくなったでしょ?」
二人の軽いやり取りに癒される。
「取り敢えず、回復が最優先だ。息だけでも整えておかないと」
青い回復水、“ソーマ”を口にしておく。
――――背を向けていた門の方から、凄まじい悪寒を感じた。
「……なに……この感じ」
「前にも似たような……」
アヤナとアオイも気付いたらしい。
私は、静かに“ヴリルの祈りの聖剣”に十二文字を刻む。
今まで出来なくなっていた十二文字をすんなり刻めたのは、研ぎ澄まされた本能が余計な事に気を取られるなと告げているようで……背中の汗が余計に冷たい。
《感じるぜぇ、お前達の俺への恐怖をよぉ》
声が頭に響いた次の瞬間、現れたシルエットの右腕には――巨剣のような白銀槍。
「……アルファ……ドラコニアン」
コセを含めた何人もが、死力を尽くしてなんとか倒せた……最悪の敵。
《せいぜい楽しませろよ――ノルディック共ぉぉ~》




