574.口悪フェアリーのセリーヌ
「本当にそれで良いの、セリーヌ?」
「ああ、気に入った」
メルシュからAランクの鈍器、“倍打突きのザグナル”を二つ譲って貰う。
「”倍打突きのザグナル”の”倍打突き”は、同じ武器で連続攻撃するほど威力が倍々になっていく強力な武器ではあるけれど、その間に別の攻撃を挟んだり躱されたり防がれたりすると効果がリセットされてしまうから、結構使い勝手悪いよ?」
「まあ、そこは試してみてのお試しってな」
前のレギオンでは、ろくに武器を持たせて貰えなかった。
俺様は、愛でられるだけのフェアリーじゃねぇんだよ。
「そんなに攻略に意欲的なら、結婚して指輪を手に入れれば良いのに。低級でも、あるのとないのとじゃ全然違うよ?」
「ふざけんな! 誰がフェアリー以外の男と結婚なんてするか!」
コイツら、屁理屈っつうか……メリット、デメリットで結婚云々を決めやがって! 気持ち悪い!
廊下側のドアが開き、リビングの中へと入ってきたのは……コセ。
俺様に好き勝手命令できる唯一の男。
「ちょうど良かった。セリーヌちゃんに話があったんだ」
「あ?」
コイツ、またちゃん付けを!
「《ザ・フェミニスターズ》に移って、このステージに残る気はないか?」
……いきなりなに言ってんだ、コイツ?
「アイツらとは空気が合わない。だから、暫くはお前らと一緒に行動してやるよ」
このクソッタレなゲームを仕掛けたデルタ共に、一泡吹かせてやりたいし!
「……そっか」
「なんだよ? 俺様が付いていったら迷惑とでも言いてぇのかよ」
「いや……モモカとバニラを、このステージに置いて行こうと思ってて」
あのガキ共か。
「ただ、二人を守ってくれるような強い人間が居ないと突発クエストに巻き込まれるのが心配だし……その点、《ザ・フェミニスターズ》はイマイチ頼りないし」
同盟相手なのに容赦ねぇのな、コイツ。
「それ、モモカは承諾してんのか?」
「いや、まだ何も……」
「戦場に子供を連れて行くのが怖いってのは解るけれどさ……目の前で失うより、手の届かない所で失う方がやりきれねーぞ」
「……セリーヌちゃん……」
「まあ、あれだ! 目の届く所でしっかり守れって言ってんだよ!」
隙を見せれば、あっという間に残酷な手を伸ばしてくる……デルタっていうのはそういう連中だ。
「……ありがとう、セリーヌちゃん」
「礼とか要らねーよ。気持ち悪い」
コイツらは、どちらかというと利他主義者だ。
そういう奴等は、守るべき者が近くにいたほうが良い。
じゃないと、簡単に命を武器に変えてしまうから。
●●●
○コセのパーティー:トゥスカ、メルシュ、ナターシャ、セリーヌ。
○ジュリーのパーティー:サキ、モモカ、バニラ、クレーレ。
○ユリカのパーティー:ヨシノ、レリーフェ、タマ、スゥーシャ、バルンバルン。
○ユイのパーティー:シレイア、ザッカル、アルーシャ、カナ。
○ルイーサのパーティー:フェルナンダ、アヤナ、アオイ、ノーザン。
○サトミのパーティー:クリス、リンピョン、メグミ、エレジー、リエリア。
○クマムのパーティー:ナノカ、ナオ、ウララ、バルバザード、カプア。
○コトリのパーティー:エトラ、マリナ、ケルフェ、ホイップ。
○エリューナのパーティー:サカナ、サンヤ、ヒビキ、クオリア、レミーシャ。
○イチカのパーティー:フミノ、レン、チトセ、エルザ、ヘラーシャ。
「総勢55名。これが、現段階の《龍意のケンシ》メンバーだよ」
夕食後の食堂にて、皆の前で白いボードに書き出していた物をメルシュが発表する。
アテル達の現在の総数は37名。数では圧倒的に俺達が有利。
「パーティー分けされているようですが?」
ノーザンが尋ねた。
「私なりに、交友関係、能力の相性、人数、職業や特化属性、使用武器が被らないよう色々バランスを考慮して決めたけれど、異論があったら受け付けるよ?」
……特に異論は無いらしい。
「で、数日くらいパーティー内の能力把握をして貰おうと思うの。隠れNPCが中心となって色んな戦術、装備のアドバイスをするから」
本当に色々考えてくれてたんだな、メルシュ。
「それで、せっかくこれだけの人数が居るから、模擬レギオン戦を何度かやろうと思っている」
「模擬レギオン戦?」
言いだしたジュリーに尋ねる。
「同じレギオン内での模擬戦だよ。片方だけで三パーティー以上、持ち家三つ以上、人数も十五人以上必要だから、実質その倍が必要なんだ」
今までは、やりたくても出来なかったってわけだ。
「どうかな、レギオンリーダー? SSランクとの戦いに慣らす、良い機会にもなると思うんだけれど?」
「レギオン戦なら、死んでも死なないからか」
この前のアテルと俺のように、本気の殺し合いという名の訓練が出来ると。
「良いぞ。俺も、まともにレギオン戦をやった事はなかったし。《日高見のケンシ》とは、レギオン戦で決着を付ける予定だしな」
九ステージでは、建物奥に引っ込んでるだけで面白くなかったし。
「ハイ! ハイ、ハイハイ!」
コトリが、手を伸ばして凄いアピールしてくる。
「なんだ、コトリ?」
「勝った側は、負けた側になんでも命令出来るって言うのはどう?」
――なんか、空気が変わった。
「……どうかな、レギオンリーダー?」
冷静を装ったジェリーに尋ねられる。
「ええと……」
なんでかな、大半が目の色を変えたような気が……。
「限度を弁えるなら……ちゃんと、俺とメルシュ、ジュリーの三人から許可された命令だけという条件で」
「「「よし!!」」」
なにこれ、怖い。
●●●
「ま、負けた」
ジュリー、ユリカ、ユイのパーティーVSルイーサ、コトリ、イチカのパーティーによるレギオン戦が、物の二十分で終わってしまった。
「“忍者屋敷”への戦力の寄せ方があからさま過ぎたね。どこに軍団長のエンブレム像があるのか、丸分かりだったよ」
軍団長役をやったルイーサの動きが丸分かりだったのもあるけれど、ジュリーの方が何枚も上手だったね。
「まさか、“崖の中の隠れ家”に攻め入った瞬間、レリーフェさんだけを残して“森の戸建て”からも全員が攻めに転じるなんて」
「レリーフェ一人だけをパーティーとして登録して、大半のメンバーが“砦の城”のエンブレム像に登録しておいてたとはねー」
「あの電撃的な動きに翻弄されて、慌てて“忍者屋敷”に戦力を展開したのが敗因か」
イチカ、コトリ、ルイーサがパーティーリーダーとして各々反省している。
「ルイーサ側は、バカ正直にパーティー三つ、そのままで挑んでたからね。内情を知ってるジュリー相手じゃ、簡単に色々バレちゃうよね~」
「じ、ジト目を向けるな、メルシュ。確かに、今回は私が無謀過ぎた」
「経験の差が一番大きい。ルイーサだって、すぐに色々戦略を打てるようになるよ」
ルイーサを慰めるジュリー。
「そ、そうか?」
「それじゃあ、今度はパーティーとレギオンリーダーを入れ替えて、もう一戦してみよう。次の組み合わせは……」
そんなこんなで、この日は模擬レギオン戦を十回以上繰り返して貰った。




