573.六度目の婚姻式
「いやー、この年で結婚かー! 緊張しちゃうなー!」
メタリックグレーの肩出しウエディングドレスを着たコトリが、ケルフェと共に嬉しそうにやって来る。
そのケルフェはというと、毛皮のような材質の濃いブラウンのドレス? みたいなのを着て髪をアップにしていた。
ケルフェのは地味さと可憐さが同居していて、常にギャップを見せ付けられているような不思議な感じがする。
「似合ってるじゃん、二人とも」
付き添いのマリナが二人を褒める。
「出来れば、三人で式を挙げたかったですね」
「ずっるいよねー、一人だけ先に。合体まで済ませちゃってるし」
「下品過ぎだから、コトリ。それと、抜け駆けした事についてはとっくに謝ったでしょ」
普段どんな会話してるんだろう、この三人。
「……」
二人のすぐ後にやって来たのは、エレジーとリエリア。
リエリアは、自身の鱗の色に近い灰色がかった水色のドレスを身に着けていて、普段は付けていない玉のイヤリングのせいか、童顔なのに大人っぽく見える。
エレジーはというと、持ち前の清廉な美しさと凛々しさもあり、緑と白のドレスを自然体で着こなしていた。
「……二人とも、似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「……どうも」
リョウの死を伝えて以来、エレジーとどう接したら良いのか分からないのだけれど、取り敢えず無視されなくて良かった。
「に、似合ってるって言われちゃいました~♡」
リエリアは、何故か頬を押さえながら身悶えている……リアクションがオーバーな人だな。
「リエリア、行きますよ」
「は、はい!」
神主の方へと歩いていくエレジー。
形だけの結婚とはいえ、正直エレジーが承諾するとは思わなかった。
今後も攻略に参加してくれるらしいし……でも、彼女が何を考えているのかは全然読めない。
「待たせたな」
黒い綺麗な二本角が印象的なホーン族のエトラが、動きいやすそうな濃い灰色のドレスでやって来た……何故かドヤ顔で。
「形だけとはいえ、この私が伴侶となってやるんだ。光栄に思えよ?」
偉そうな感じが壊滅的に酷いが、滲み出るアホっぽさのお陰か、特に気に障る事もない。
「うん、よろしく」
「ハハハハ! 良い心掛けだ!」
なんというか、アホな子ほど可愛いという言葉の意味を、十二分に理解させてくれる奴だ。
モモカやクレーレと張り合うレベルの精神年齢だし、こうまで本能が、目の前の人間は自分より下だと告げてくるのも珍しい。
「ん?」
エトラの後ろからキョロキョロしながら現れたのは、バレンタインの隠れNPCであるホイップ。
今朝、神社の境内で初めて顔を合わせた相手。
「誰か探してるんですか?」
「へ? ……い、いや、違う! ……ち、違いますよ?」
緑と赤の変なドレスを翻しながら、奥へとそそくさ行ってしまう。
”神秘の館”の方に来たがらないみたいだし、何かあるんだろうか?
「大旦那様、お待たせしました」
何故かヒョウ柄のドレスを着て現れたのは、ザッカルの使用人NPCであるワイルド系美女、アルーシャ。
「直にイチカさん達も参ります」
「ああ、ありがとう……なぜヒョウ柄?」
「うちの主が黒豹獣人なので」
ドヤ顔をザッカルに向けるドSメイド。
「アルーシャ……テメー」
「まあ、あれだ。愛好の意という奴だ」
「どこがだ、このクソメイド!」
性格設定の半分は俺にも責任があるから……なんかゴメン、ザッカル。
「お待たせしてしまったようですね」
濃いオレンジと白がアクセントのドレスを着たイチカさんを先頭に、黒光りしたドレスを着たレン、ミニスカートタイプの白いウエディングドレスを着てきたのがフミノさん。
フミノさんは、てっきり着物を選んでくるかと思ってた。
「ウフフ! どうでしょうか、コセさん。私達の結婚装束は」
フミノさんに尋ねられる。
「よく似合ってます。レンは、ちょっと着られてる感あるけれど」
「うっせ!」
文句を言いながら、イチカさんの後ろに隠れるレン。
初めての邂逅から既に半月が経っても、未だに怯えられているらしい。
まあ、二度に渡って俺に殺されたようなものだしな。
「良いからとっとと済ませんぞ!」
「すみません、コセさん」
まるで保護者のようにレンを追うイチカさん。
「アイテムのためとはいえ、よく結婚する気になったな」
「私もですけど、レンちゃんも、また死ぬのはごめんみたいですから」
近付いてきて、屈んでから上目遣いになるフミノさん!
「どうですか、この胸元とか脚とかがよく見えるウエディングドレスは?」
「ど、どうって……」
胸元の布を少しだけめくり、からかってくるフミノさん。
「コセさんが和装を選ぶと判ってたら、私も着物にしたのに」
「へ?」
神社なのもあって、いつもの洋服タイプから変えてみたんだけれど……。
「それじゃあ、行きましょうか」
「ああ……はい」
フミノさんは、会えば会うほどよく分からなくなる人だな。
●●●
「……」
「いつまで見てるの、それ?」
「あ、す、すいません!」
“最高級の婚姻の指輪”をボーッと眺めていたら、フミノさんに指摘されてしまった!
「イチカは最高級かぁ……良いな~」
ソファーでグダっているコトリさんに羨ましがれる。
式が終わったのち、私達三人はコトリさん達に誘われて“林檎樹の小屋”にお邪魔させて貰っていた。
「今日の面子で、最高級はイチカさんとエレジーだけですもんね」
誠実なケルフェさんまで、少し恨めしそう。
「わ、私は、コセさんと何度か死線を共にしているので……」
お互いに愛し合ってないと最高級は出ないとは聞いたけれど……私に、他人を愛する能力なんて本当にあるなんて……実感が湧かない。
「ホイップが低級なのは、まあ仕方ないとして……他に低級だったのはエトラだけだね」
コトリさんがからかう。
「う、煩いぞ! というか、《真竜王国》の面子のほとんどが低級だったぞ! 一部は高級も居たけれど、最高級なんて一人も居なかったし!」
「じゃあ、最高級ってやっぱり凄いんだね。私の周りにも、高級がたまに居るくらいだったけれど……レンちゃんが低級じゃなかったのは、ちょっと意外」
フミノさんまで、レンさんをからかいだす。
「ッ!! ……知るかし」
壁際のチェアを揺らしながら、そっぽを向くレンちゃん。
いつもなら、ちゃん付けすんな! って怒ってくるのに。
「私も、最高級になれるように頑張りたいです~♡ ……なれるかな、私なんかに」
急にヘラりだすリエリアさん!
「皆はランクが高い方が嬉しいみたいだけれど、どうしてエレジーは複雑そうなの?」
リボン裸女であるホイップさんが、何の気なしに誰ともなく尋ねる。
エレジーさんはというと、魔法の家に戻るなりどこかへと行ってしまって今は居ない。
「もしかして、コセさんとエレジーちゃんは昔付き合ってたとか?」
フミノさんの言うとおりであれば、最高級の指輪が出つつ、エレジーさんが悲しそうだった理由に説明がつく。
「いやー……理由に心当たりがある私達も、なんか意外だったっていうか」
「コトリ、それにケルフェ。これから一緒にやっていくわけだし、一通り話したら? 私も、当時その場に居なかったから説明して欲しいし」
マリナさんが話を促した。
「まあ、そうですね」
「でも、これって第三者が口出しするようなことじゃないから、エレジーに横槍いれないって約束してよ?」
コトリさんの注意ののち、私達は二人の特殊な関係性について色々聞くこととなった。




