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59.神秘の館

 厳かな黒い両扉を開き、館の中へ。


 少し暗めで、落ち着いた内装。

 玄関の前には長めの通路があり、左右と奥に扉が一つずつ、奥の扉の横には上へと続く階段。


「なんだあれ?」


 通路の真ん中に、石……いや、機械の台か?


「ああ、この家のメインコンソールだよ。調度品や嗜好品とか、色んな物をお金で買えるよ。合鍵もね」


 コンソールに触れてみると、掃除用品、衣服、お菓子、お酒、飲料水、漫画、小説などのジャンル選択が表示された。


「これは……」


 ”館の主専用”というジャンル枠があったため選択すると、合鍵、精力剤やエロコスプレが表示されて――ふざけんな!!


 さっさと25000G払い、合鍵を五つ作ってリストを消し、全員に手渡した。


「良いのかい、私達にも渡して?」


 ジュリーが尋ねてくる。何を今更。


「構わない。三人の事は、一応は信じられるから」


 ジュリーとユリカの頬が赤くなる。

 タマも、どことなく嬉しそうだ。


「取り敢えず、部屋を決めてしまおう」

「三階中央の一番良い部屋がマスターとトゥスカで良いとして、私は……」


「私も、自分の部屋は欲しいですよ?」


「「「「「へ?」」」」」


 俺を含めた五人全員が、トゥスカの言葉を疑った。


「なんですか?」

「なんですかって、どうせトゥスカは毎晩コセとヤ……一緒に寝るんでしょう? 他の部屋なんて要らないでしょ」


 ユリカが、俺が言いたい事を代弁してくれる。


「私の部屋が無かったら、他の人がご主人様と寝たいときに困るじゃないですか」


「「そうだね!」」


 ユリカとメルシュが凄い勢いで肯定した!!


 ……コイツら。


「……部屋は、自由に決めて良いから」

「合鍵があれば部屋を登録できるから、登録が終わったら居間に集合で」


 メルシュが、通路の奥の扉を指し示す。


 向こうが居間か。


 ……せっかくマイホームが手に入ったのに、安らげる気がしない。



             ★



 廊下の奥の扉の先に広がっていたリビングは、広さ二十畳くらい。


 部屋の入り口から見て左側にキッチンがあり、そこから九十度左には居間よりも広い食堂に繋がっている。


 玄関傍の左扉から入ると、この食堂に繋がるようだ。


 右側の扉の先には風呂やトイレ、道場らしき物や倉庫用と思われる部屋が複数あり、離れへの道もそこから続いている。


 三階中央の部屋を“神秘の館の鍵”でさっさと登録し、一通り見て回り終えた俺はキッチンに立っていた。


「なにをしているんだい?」


 声を掛けてきたのはジュリー。


「お茶菓子の準備だよ」


 ヤカンで湯を沸かし、卓上ポッドに注ぐ。


 和風の盆に緑茶、紅茶、ほうじ茶、ドクダミ茶、甜茶、プーアル茶の茶葉が入った容器と、卓上ポッド、コーヒー、ミルク、蜂蜜を乗せ、リビングのテーブルへと持っていく。


 さっき、コンソールと”低級アイテムの交換チケット”を使って用意した物だ。


 ジュリーは察したようで、手を洗い、居間脇の食器棚からカップとティースプーンを人数分出してくれる。


 この感じ、トゥスカと居るときみたいだ


 言わずとも、伝わっているような感覚。


 カチャカチャという食器を置く音が、不快に感じない。


 この音だけで、生活音を抑え、物を優しく扱おうとしているジュリーの心遣いが伝わってくる。


 もし先に出会ったのがジュリーだったら、彼女を選ぶ未来もあり得たかもしれない。


 そう思えるくらいには、この何気ない時間に心地良さすら感じてしまっていた。


 茶葉以外にもクッキーの詰め合わせや煎餅、チョコレートをコンソールで出現させており、既にテーブルに置いている……ちょっと高かったけれど。


 これで、俺の所持金はほとんど無くなった。


 トゥスカとメルシュがそれなりに持っているから、無一文というわけではない。


「ご主人様、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」


 居間に入るなり、トゥスカが申し訳なさそうに言ってきた。


「気にしなくて良いよ」


 家事全般、女である自分がやらなければならないと思っている節があるからな、トゥスカは。


 たまには、俺だって手料理を振る舞いたい!


 洗濯とかも、”生活魔法”のクリーニングで一瞬で綺麗になるから、俺が家事で手伝える機会なんてほとんど無いし。


「今晩は、俺も一緒にご飯作るから」

「い、いえ、料理は私が!」

「なんなら、今日くらい俺が一人で準備しても良いぞ?」

「そ、それだけはやめてください!」


 トゥスカにとって、家事は生き甲斐になってるんだろうな。


 複数の急須を用意し終えた頃、残り四人も居間に顔を出した。


 テーブルの窓に面している側を除き、三方には豪奢なソファーがあり、一番大きなソファーに俺は座らされる。


 その両隣にトゥスカとメルシュ、右のソファーにジュリー、左にユリカとタマが。


 なんだか、ジュリーが孤立しているように見えるな。


「伝統の山村は、長く留まるとペナルティーによるLvダウンが発生するから、明日か明後日には先へ進むのが良いと思うんだよ」


 メルシュからの情報。


「なにか意見がある人は?」


 尋ねるも、誰も反応無し。


「関係のない話しだけれど……私から一つ良いかな?」


 ジュリーが手をあげた。


「言ってくれ」


「私は……このダンジョン・ザ・チョイスというゲームを、以前にプレイしていた事がある」


 以前にも?


「……どういう事だ?」


「以前にもと言ったが、私がプレイしたのはオンラインゲームの話しだ」


「「オンラインゲーム?」」


 トゥスカとタマは、わけが分からないという顔をしている。


 トゥスカ達の文明レベルじゃ、オンラインゲームを理解するのは難しいだろうな。


「架空の物語を、自分の手で展開させていくとでも思えば良い」


 ジュリー、それで伝わるのか?


「「……はあ?」」


「このゲームのオリジナルを作ったのは、私の両親なんだ。二人で細々と、私が生まれる前から運営していたゲーム」


 だからジュリーは、俺達よりも色々詳しかったのか。


「どうしてそのゲームが、こんな誘拐からのデスゲームに?」


「デルタって組織が、このダンジョン・ザ・チョイスに目を付けたらしい。私の両親のゲームを異世界に再現して、本当の死が存在する最悪のゲームにしたって……私をこのゲームに参加させた人間から聞いたんだ」


 デルタ……昔トゥスカ達の祖先を侵略し、現在も支配しているという組織と同じ名前。


「奴等はなんでこんな事をするんだ? なんの意味がある?」


 そもそも、なぜこのタイミングでカミングアウトした?

 

「彼等にとって、私達の戦いは娯楽。観測者達に常に見られている」

「見られてる?」


 常にって……まさか、俺とトゥスカのアレとかも?


「この魔法の家内部は見えないようになっているから、観測者に見られる心配はないらしい。だから、ようやく皆に話すことが出来た」


 道理で、やたら家を買わせようとしていたわけだ。


 わざわざ値段の高いこの家を選んだ理由は分からないけれど。


「それも、ジュリーを送り込んだ奴からの情報か?」

「ええ、私と彼女の目的は一致しているから。だから……私達は共犯者になった」


「その目的とはなんですか?」


 トゥスカが尋ねる。


「ダンジョン・ザ・チョイスを……私の両親が作った、私の大好きなゲームの悪用をやめさせる。そのために……私はこのゲームに参加したんだ」


 それが、ジュリーが抱えていた物。


「その方法に、メルシュ……ワイズマンが必要って事か」

「さすがだね、コセ」


 あれだけ必死に、“ワイズマンの歯車”を手に入れようとしていればな。


「私達の目的を達成するには、ダンジョン・ザ・チョイスの最深部まで進んで、そこにあるメインシステムにワイズマンを接触させる必要があるらしい。だから、私が隠れNPCを入手したらメルシュとトレードしてほしいんだ。頼む」


 深々と頭を下げるジュリー。

 隠れNPC同士って、交換出来るんだ。


「無理だよ」


 口を開いたのはメルシュ。


「どうやら貴方の協力者は、デルタの中でも下っ端みたいだね。メインシステムがどういう物なのかを知らないんだから」


 メルシュの雰囲気がいつもと違う。


「どういうこと?」

「ここに居る全員が不思議に思っているはず。なぜデルタという奴等が、世界の法則を捻じ曲げる事が可能なのか」


 異世界への転移。オンラインゲームを現実のデスゲームとして再現。それにトゥスカの話しでは、昔はLvなんて物は存在しなかったらしい。


 つまり、デルタという奴等は、世界の法則に直接干渉する(すべ)を持っている。


 それが……俺達の敵。


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