570.久し振りの三人
「らっしゃい」
○以下から購入が可能です。
★鉄の古刀 1000G
★隕鉄の古刀 600000G
★鉄の剣 1000G
★鉄の太刀 1000G
:
:
気紛れに、“明けの鬼京”にある武器屋を訪れた俺とトゥスカとメルシュ。
「”鉄の太刀”と”鉄の古刀”って別物なのか」
「”鉄の古刀”を素材にした武器は全て古代属性になってしまう分、高ランクの武具ばかりなんだよね」
久し振りのメルシュの生解説……まあ、魔法の家の領域では毎日のように聞いてはいるんだけれど。
「古刀と名の付く武器の最大の特徴は、“不壊”の効果だね」
「絶対に壊れないということ?」
トゥスカが尋ねる。
「絶対ってわけじゃないけれど、武器や武具破壊とかの効果による補正を無効にするから、他の武器に比べて壊れづらいかな。ちなみに、“鉄の古刀”を買えるのは“明けの鬼京”だけだよ。ランクは高くないから、今後ランダムに手に入れる事はあるはずだけれど」
「じゃあ、好みの刀身に調整出来るのはこのステージだけなのか」
鉄の武器だけは自分好みに大きさや形状をある程度調整でき、素材にした場合は作製した武器に形状が反映される場合もある。
「三日前、ユイは相当拘って選んでたらしいよ。シレイアが辟易するくらいには」
「ボーッとしてるようで、凝り性な所があるからな」
暇つぶしの店巡りを続ける。
“明けの鬼京”には北東から南西、北西から南東へと伸びる斜め十字路があり、それぞれ出入口が設けられていた。
十字路によって別けられた四つの区画、東区には宿屋や遊郭、北区には武器などの金物の売り場や鍛冶屋、南区には布製や食糧、西区には神社など色々な施設が集中している。
「西区は大きな建物が集まってるな」
「鬼京城も西区でしたね」
「マスター達がサブ職業を選んだから、改めて契約のアイテムを手に入れられると思ってたんだけれど……」
「まさか、アテル達がヤクシャを手に入れて契約を済ませてしまうなんてな」
隠れNPCヤクシャは、今現在アテル達と行動を共にしているはず。
「フフ」
白い石が敷き詰められた十字路をジャリジャリ歩いていると、自然と笑みが溢れてしまった。
「どうかしましたか、ご主人様?」
「いや、この三人でゆったりしているのが懐かしいっていうか……落ち着くなって」
二十ステージまではトゥスカとメルシュが傍に居るのが当たり前だったからか、本当に感慨深い。
真っ赤な夕焼けが眩しくて、妙な気分になってるのかな?
「これからも頼むな、二人とも」
「……ええ、もちろん」
「うん、最後まで一緒にね」
二人の幸せそうな笑顔に、あたたかな感情が胸の奥から込み上げてくる。
「なにイチャイチャしてんだよ、こんな往来で」
「……到着は明日になると思ってたぞ、ザッカル」
夕陽をバックに、黒い剣槍を担ぐザッカルがドッシリと立っていた。
その背後には、見知ったコトリやケルフェ、エレジー達の姿も。
「「ギルマス!!」」
嬉しそうに抱き付いてくるコトリとケルフェ!
「えと……久し振り」
感覚では、初めましてと言いたい気分だけれど。
「ギルマスだ~、生ギルマスだぁ~♡」
「この前の決闘でもお見掛けしたのに、何故か“始まりの村”以来の再会な気がしてしまいます!」
二人のこの好感度マックスな感じ……ちょっと苦手だ。
「エレジー、お疲れ」
「……」
無視……か。以前と違って、気まずそうな感じではあるけれど。
「思っていたよりも可愛い顔をしているな、軍団長殿は」
黒い二本角を生やした女が、偉そうに評してきた。
「エトラだっけ?」
「私の名前を覚えているとは、良い心掛けだ」
まあ、神代文字が使えない事で度々うちでは話題に上がっているからな。
「ぎ、ギルマス様……へと、あの……こ、こんにちは!」
「こんにちは、リエリア」
ホーン・マーメイドのリエリア。彼女には自然と好感が持てる。
「……あれ、もう一人居るはずだよな? バレンタインの隠れNPCっていう……」
「私が契約したホイップです。彼女はキクル達と別れる際に、一足先に“林檎樹の小屋”へと戻りました。すみません」
ケルフェが説明してくれる。
「いや、良いんだ。皆だって疲れてるだろうし」
レンやホイップは元プレーヤーだった隠れNPC。メルシュ達と違って疲れてもおかしくない。
現に、薔薇騎士の隠れNPC扱いとなっているクリスは普通に疲れるみたいだし。
「全員、今日はゆっくり休んでくれ」
三十九ステージの道のりは、シンプルに疲れるしな。
「コセ。キクル達が明日の朝、話したいことがあるってよ」
「話したいこと?」
なんだか嫌な予感がするな。
●●●
「クリスが……オルフェの姪?」
ザッカル達が四十ステージまで辿り着いた日の夜、たまたま二人きりになった浴場でクリスに打ち明けられた。
「一応、ジュリーには言っておこうと」
ネイティブな発音が無い事に、彼女の本気具合が窺える。
「話してもさして意味の無い事だったので、どうしようかずっと迷っていましたが……一応、コセとメルシュには伝えてあります」
「……そう」
きっと、最初の大規模突発クエストで知ってから、ずっと抱えていたんだ。
「……」
彼女に、なんて声を掛けるべきだろうか……私には何も思い付かない。
「オルフェ叔母さんは、日系アメリカ人。だから、デルタに逆らうような手段に出たんだと思います」
「日系アメリカ人……」
彼女には、ほとんど一方的に話を持ち掛けられたような感じだったけれど……私の言動によって、彼女の裏切りがバレた可能性もある。
覚悟の上だとは言っていたけれど……今頃、どんな目に遭っているのか。
「ジュリー……なにがあっても、コセとメルシュをゲーム最奥まで送り届ける……そう、約束してください」
「……言われるまでもなく、そのつもり」
それが、私に計画を持ち掛けてきたオルフェとの約束を果たす事に繋がるのだから。
「クリスは……大丈夫?」
「……ええ。今までレプティリアン達、ネガティブ系の生命体によって犠牲になってきた人達の事を思えば……これくらい」
「無理、しなくて良いから」
湯船の中で、彼女の頭を抱き寄せる。
「すみま……せ……すみませ……んッ」
クリスが啜り泣き始めてくれた事に、少しだけ罪悪感が洗われる自分がいた。
……嫌な女だな……私。




