562.海賊女王のメアリー
「うわ! ……凄い揺れ」
荒波に揉まれる“耐弾性クルーザー”の揺れは凄まじく、チトセが二階の操縦席で転びそうになったのを赤青メイドのヘラーシャが支える。
「怪我はありませんか、チトセ様」
「うん、大丈夫」
ヘラーシャを見たときのレリーフェの顔、今思い出しても忘れられない。ブフ!
などと考えながらクルーザーを操縦していると、次第に波が収まってきた。
『そろそろ敵が来るよ。全員、戦闘準備』
レシーバーで船内に連絡。
○このまま荒海を駆け抜ける を選んだ私達は、海賊団の縄張りへと足を踏み入れる事となる。
雨雲を抜け、一気に青天が射し込んできた瞬間に波は穏やかとなり――私達のクルーザーは三隻の海賊船に囲まれていた。
「へ、いきなり現れた!?」
私達のクルーザーより二回りは大きい帆船が三隻、帆に風を受けながら左右と前を塞いだ形で併走している。
――遠くで轟音が響いた次の瞬間、海中から大きな水飛沫が発生! 船に少なからず衝撃が伝わってくる!
「い、今のなんですか、メルシュさん!?」
「海賊船からの砲撃だよ――まずは包囲を抜ける。スピードを上げるから、振り落とされないように掴まってて!』
全員に伝えたのち、最大船速を叩き出して左側の船の前へと躍り出る!
「ヘラーシャ、操縦をお願い」
「畏まりました」
「チトセ。火力のある私達で、まずは一隻沈めるよ」
乗り込んで船を拿捕した方が旨味があるんだけれど、そっちは時間が掛かる上、こっちの船を沈められたらその時点でゲームオーバー。
クルーザーには一パーティーしか乗れないからこっちは人数も少ないし、乗り込むのは一隻分にしておいた方が良いかな?
「オールセット1――任せておきな、メルシュ!」
ガトリングを装備したチトセの変わりよう、まるでギャグみたい。
●●●
「来た来た来た! ――撃てーー!!」
”海賊王のカットラス”を掲げた私に従い、愛しの海賊船の左舷から十五門中八門の大砲が一斉に放たれる!
「クククク! 見事」
左舷から迫っていた船から幾つもの爆発が起き、メインマストがゆっくりと傾いていくのが見えた。
「なに自画自賛してんの、メアリー」
我が薄青髪美女マスター、ラウラが呆れた様子でこちらを見ている。
「良いだろう? 私の“海賊船”は、滅多に活躍の場が無いのだから」
こういう時でもないと、私の固有スキルは、“船長”も含めてまったく役に立たないのだ! ……悲しくなってきた。
「右から船が寄ってきてる! アイツら、体当たりする気よ!」
マスト上からサキの声が聞こえてくる。
「ならば――こちらからぶつけるまで!!」
舵を私の意思でカラカラと回し、右舷の海賊船に体当たり!!
だが、この私自慢の船には、傷一つ付かなーい!
更に船のロープを操り、敵船への道を作るだけでなくマストも畳む。
船を自在に操る力。これぞ、“船長”のスキルの真骨頂。
「空を飛べる者は前方の敵船へ! 残りは乗り込んで来るクソ野郎共を撃退し、右舷の敵船を拿捕せよ! ――開戦の時じゃあ!!」
「キャラブレブレか、お前は」
「私ものり込んで戦いたいところだが、まだ左舷の海賊船が沈みきっていないのでな!」
誰も居ない船倉より、大砲に自動で弾が装填されて二射目を発射! 追い討ちを掛ける。
はてさて、他の船の者達は上手く対処出来ているのだろうか。
●●●
「貴女の出番よ、ドゥルガー」
「はい、パドマ様」
私が手に入れたAIチップを使ったホーン族のバトルメイド、ドゥルガーが右舷から迫る海賊船を前に“回復反転の指輪”の青い宝石部を左に回し、赤色に変える。
「“六重詠唱”、“最上位回復魔法”――エリアヒール」
棚引く黒い髪と青い肌のメイドが、その手の虎柄の髑髏三叉、”虎柄の三叉戟髑髏“より魔法陣を展開。
海賊船全体に黒い光を降り注がせ、甲板上にいた海賊達を物の数秒で一掃して見せた。
すると、衝突する前に海賊船が光へと変わり出す。
「中も含めて全滅に成功したようです、パドマ様」
「サキから提示された戦術、上手く言ったようですね。所で、MPの方は?」
「半分以下に。“効力範囲増大の指輪”を二つ使用している分、全滅までのMP消費量が跳ね上がりました」
さすがに、あの大きな船全体をカバーするには問題がありましたか。
「との事ですが、残りはどうしますか、アテル様?」
「ツェツァ達には、引き続き浸水した海水に対処して貰うとして……一隻はヒフミ達に行って貰おう。残りは僕が行く」
「まさか、アテル様お一人で?」
「うん。手に入れたSSランクを試してみたくてね」
「なら、私も付いていって良いか?」
話に割り込んで来たのは、チェチャの友人だという曲刀使いのエリューナ。
「邪魔をしないのであれば、勝手に付いてくると良い――“五葉手の九鬼の黒翼”、“飛翔”」
五本指の手のようにも見える黒金の翼を生やし、前方を塞いでいる海賊船へと銀光を煌めかせながら飛び去っていく。
私のユニークスキル、“雷神の四本腕”やマサコ同様に、アテル様が自ら苦しんで生み出したSSランクの翼。
「勝手に、か。面白い! “空遊滑脱”!」
空を駆けてアテル様を追っていくエリューナ。
「敵情視察と気付いているでしょうに」
さすがの器です、アテル様♡
●●●
「“溶岩魔法”――マグマイラプショ~ン」
敵船に乗り込んだヒフミが指揮棒、“妍溢なる世界を瞻望す”から魔法を発動すると、マグマの奔流が勢いよく船上の海賊を直撃。
「おい、船を沈めちまうつもりかよ」
「あ、忘れてた~」
ユニークスキルの力を行使し、甲板に穴を開けて落ち始めるマグマを無数の玉に変えて浮かべるヒフミ。
黒ロングの正統派美人のくせに、おっとりドジっ娘属性持ち……やっぱコイツ、狡いわ。
私なんて、天パで髪ボッサボサ。全然女らしくないってのに。
「“真の魔法使い”だっけ? 相変わらず便利なユニークスキルだな」
自身の魔法を、自在に形態変化させる能力。
ヒフミがその気になりゃ、マグマを鳥にも龍にも変えられちまう。
「そういうアキラちゃんだって、ユニークスキル持ちでしょう?」
「アタシのは、お前のと違って色々面倒くさいの」
何にどう影響を及ぼすのか分かんねーと、大事な所で下手をこくどころか、それで死にかけた事なんて幾らでもあるし。
「じゃあ、船の中はアキラちゃんがお願いね」
「アタシ一人にやらせる気じゃねぇーよな!?」
「えー。だって~、私じゃ船を燃やしかねないし~」
「腰の軍刀があんだろうが!」
単純な接近戦の技術なら、アタシより数段上のくせによ。
ていうか、あんな物言いで全然ぶりっ子っぽくないのが本当……く!!
「ハー……もういい。とっとと全滅させて来るわ」
数が多いだけで雑魚ばっからしいし、一癖も二癖もある私の戦闘スタイルでもなんとかなんだろ。




