561.不細工なリエリア
甲板上にある広い部屋へと案内された私とサンヤは、固定された椅子に座り、ツェツァ達とテーブル越しに対面する。
「その……久しぶりだな、ツェツァ、ルフィル」
対面側に居るのは三人。箒を持ったメイドみたいなのは、ツェツァが契約したと聞いていたシルキーの隠れNPCだろう。
「ええ、お久しぶりです」
「……うん、久しぶり」
ルフィルは相変わらずの坦々とした雰囲気で、ツェツァは……どこか申し訳なさそうだった。
もっと、険悪な態度を想像していたけれど。
「……怒ってないのか? 私が勝手に、パーティーの方針を変えたこと」
「私は、なんだかんだで今の居場所が気に入っていますので」
「リューナが男に股を開いた事には怒りが抑えられなかったけれど……もう、私も人のこと言えないし」
見せつけてきたツェツァの左人差し指には、私と同じ”最高級の婚姻の指輪”が。
「ああ……アテルって奴と……か」
「うん……まあね……♡」
幸せそうな顔をしやがって……そんな顔されたら、戻ってこいなんて言えないじゃないか。
「リューナ……サンヤも一緒に、《日高見のケンシ》に来ない? 文字を刻める二人なら、きっとみんな歓迎してくれるわ!」
まだ、やり直したいとは思ってくれていたのか。
「そっちの最終目的は言わば、全ての人間を巻き込んだ集団自殺だろう? 私は……コセと未来を生きたいんだ」
「…………そう。やっぱりもうダメなのね、私達」
ツェツァの態度が硬化したのが解った。
「お前は、未来を自分の手で摘む気なのか?」
「私が故郷で……チェルノブイリ原発の地下で何を見たのか、リューナには教えたわよね?」
「それは……」
スヴェトラーナという少女の根幹を形成してしまった……あの話か。
「当時はよく分からずにロシアを恨んだけれど……あの場所から私達を助けてくれたのは、ロシア兵だった。もしかしたら、リューナのお父さんもあのとき居たのかもね」
「ツェツァ……」
「私はね、今でも許せないのよ。あんな世界を許容した人類も――神だって」
ツェツァは完全に……アテル一派に傾倒してしまっている。
「お願い、リューナ」
私に手を伸ばしてくるツェツァ。
「サンヤと一緒に来て。前みたいに一緒に、全てを滅ぼしましょうよ!」
私は――この手を取れない。
「すまない、ツェツァ。私は……幸せが欲しいんだ」
「……」
「サンヤはどうです?」
ルフィルがサンヤに尋ねる。
「私のスタンスは知ってるっしょ? リューナの進む道が、私の行くべき道っす」
「サンヤ……」
ドアの方から、ノック音が聞こえてきた。
「なに?」
「モンスターが出始めたから~、一応伝えとこ思て~。私らで対処する気やけど~、念のため注意してな~」
今のは……京都弁?
「分かった。ありがとう、ヒフミ」
「フフ、気にせんといて~」
柔らかな雰囲気だったが、気配はなんというか……重鎮。
「……いずれ、私達は敵対することになる」
「……そうだな」
もう、決して避けることは出来ないだろう。
「今の私の仲間は強いわよ、リューナ」
「それは、こっちのセリフでもある」
私達は、完全に袂を分かった。
それを確認できただけでも、この話し合いには意味があったのだろう。
コセのライバル……アテルか。
いったいどれ程の男なのか、この目で見定めてみたいな。
●●●
三十ステージの一番下とされる樹の中、魔法使いの方々が暗がりに浮かぶ青白い球体に触れていく。
「リエリア、貴女の番です」
「は、はい!」
私の新しいご主人様であるエレジーさんに言われ、私も球体に触れる。
○“三重魔法”が進化し、“四重魔法”になりました。
「あ、成功した!」
「なんでそんなに驚いてんだ、お前?」
私達のおっかないリーダー、ザッカルさんに声を掛けられてしまう!?
「わ、私は……前にもここに来たので……」
「ホーン・マーメイドである貴女は、もしや第九ステージで売られていたのですか?」
エレジーさんに尋ねられる。
「第九ステージ? 私が最初に居たのは、えと……名も無き王国の廃墟という場所です」
「あそこに、奴隷を売っている場所なんてあったのですか?」
「そういや、夜な夜なオークション形式で奴隷が売られるって誰かが言ってたな。ヒビキの奴も、そこで買われたはずだ」
「たぶん、私が特殊な種族だったからでしょう」
人魚の母と、ホーンの父との間に生まれた異端児。それが私。
「だから、ここに来るのも二回目と。お前、どのステージまで行ったことあるんだ?」
「えっと……確か、三十四ステージです」
夕暮れに街を彷徨っていたら、突然現れたモンスターの大群に…………。
「ほう。なら、そこまでの道のりは当てにできそうだな」
「あ、はい! 任せてください! 私、ダンジョンではいつも先行させられていましたから!」
「「…………」」
「あれ?」
役に立てると思って嬉しくなったのに、お二人から可哀想な物を見るような目を……。
「……お前、前のパーティーではどういう扱いを受けてたんだ?」
「ほとんど雑用ですね。料理とか一通り出来るので、皆さんのお世話は私がしていました!」
私の料理、結構好評だったんですよ!
「何を嬉しそうに……」
「やたら高ランクの武具を持っている理由を聞いたら、パーティーリーダーが複数の武器を使い分けるからとは聞いていましたが……」
「ああ、“連携装備”って奴でか」
頭を抱えるエレジーさんとザッカルさんに、見捨てられてしまうのではと不安が込み上げてしまう!!
「わ、私、見た目も心も不細工で鈍くさいですすけれど、一生懸命頑張りますから!!」
ちゃんとアピールしておかなきゃ!
「ブサイクって……お前、喧嘩売ってんのか?」
「へ?」
「そうですね。貴女がブサイクなら、この世の人間のほとんどがブサイクになってしまいます」
「……どういう意味ですか?」
私が居たパーティーの女の人達から散々不細工と言われていたので、私はとんでもない不細工人間のはずですけれど?
「……よし、良いこと思い付いた! エレジー、俺に協力しろ」
「ザッカルさん、悪い顔してますよ?」
「クククク! コトリにも相談してみっか」
「あ、あの~……」
私、いったいなにをされちゃうの?




