558.彼女が背負った十字架
「十年前の2025年の初め頃にコロナは流行し、その僅か一年後にはワクチンが作られ、多額の税金と引き換えに世界中で接種が開始されました。たった一年にも満たない期間で作られただけでなく、臨床試験すらしていないのに生後数ヶ月の赤ちゃん、妊婦に打たせようとするなんて、それまでの常識からは異常極まりない事ですが……世界中の人々は言われるがままに、もしくは同調圧力という名の脅迫に折れて……自ら打った」
私にとって、どこか他人事な記憶。
「マスコミも政治家も医療関係者も、こぞってワクチンは安全だとのたまい、企業らは社員らに圧力を掛け、教師は子供を洗脳し、ほぼ全ての権力者達が半強制的にワクチンを打つよう社会に促す」
ひたすら不安を煽り、間接的に脅迫。そうすれば、大半の人間を誘導出来ると彼等はよく知っているから。
「病院にはコロナによる多額の補助金、製薬会社にはワクチン利権による莫大な税金が投入され、政治家やメディア上層部は賄賂を受け取る。更に、不景気や食料不足を煽って中小企業を潰して大企業ばかりが生き残れるようにし、自分達は裏取引で儲けて、DS傘下以外のライバル企業を潰す。それが、コロナ騒ぎで起きていた真実の一つ」
「その中で起きた、ロシアとウクライナの戦争も含めてか」
リューナと呼ばれているアッシュグレイの髪の女性が、遠くを見詰めながら呟く。
「……ロシアは、ウクライナで行われていたDSのマネーロンダリングなどの証拠を掴もうとしていたそうですね。第二次世界大戦……いえ、大東亜戦争時の日本のように、DSに国が完全に支配されないための防衛戦争を先に仕掛け……敗北してしまった」
「「……」」
あの頃の私はまだ、報道や大人達が言うように、ロシアが悪く、野蛮だと認識していた。
「ロシアの最大の敗因は、洗脳されてしまった自国民……すみません、無神経な事を」
「いや……それが事実だと、私も知っている」
無神経だな……私って。
「じゃあさ、世界中で奇形児や精神障害、癌が全身に転移した赤ちゃんが多く産まれるようになったのも……」
アオイさんに尋ねられる。
「最大の理由はワクチンでしょう。ワクチンの中身には差異があり、症状は様々です」
「進行の早いターボ癌、思考を鈍化させるだけでなく5Gによって血栓を作って突然死させるナノマシン。生殖機能を重点的に潰す成分を目標地点まで届ける技術を提供したのは、日本のとある醤油会社という噂もあったな」
泰然とした様子のメグミさんが、私以上の知識で補足してくれる。
「それって……世界中の政府や国際機関、企業が一丸となって、人類を殺しまくったって事でしょ? そんなバカな話……本当だとしたら、とんでもないなんてレベルの話じゃない。わざわざそんなことする理由……」
「簡単な話です。この大虐殺の最終目的は、自分達の支配基盤の盤石化。そこに尽きます」
未だ信じられないと言うアヤナさんに、事実を突き付ける。
「……そんなことのために? そんなことのために、三十億人も殺したって言うの?」
怒りに身を震わせるカナさん。
「本来なら、五億人まで減らす予定だったそうですよ。自分達が管理しやすいように」
「な!?」
「想定以上に上手く行きすぎて三十億人に留めたとも、ワクチンによる死亡率が想定より低かったから四十億人も生き残れたとも言われています」
実際の所は分からないけれど、ワクチンに含まれていたナノマシンによって数十億人がロボット……聞き分けの良いゾンビにされてしまっているのは確か。
「それに、当時の総人口のおよそ五パーセント、DSの人間はワクチンを打っていません。医療従事者である父も、製薬会社で働いていた母も……私も」
私は……恵まれていた側だ。自分で打たない事を選んで回避した数少ない人達とは違う……最低な存在。
「病院上層部の多くも、芸能人も、政府機関の人間も、何も知らない下っ端を除いて、ほとんどの人はワクチンを打っていません」
そして、当時死亡した人のほとんどが三回以上接種した人達。
一回でも打てばなんらかのワクチン後遺症に苛まれ、それすらコロナ後遺症にすげ替えられて事実を隠蔽される。
「アメリカに権力を約束された私の一族は、誰も打っていないんです」
「そのアメリカを、世界中の国を意のままに操ってきたのがイギリス王室……いえ、子供を犯し、拷問し、人肉を喰らう名ばかりの知的生命体……――レプティリアン」
レプティリアンの名を出したのは、先程から言動が気になっていた金髪の女性……クリスさん。
「献血で集めた血を使って快楽薬物を作り、世界中から子供達を集めて悦楽目的で惨殺する悪魔崇拝ども」
私が断定できなかった情報まで言いきった?
そして、宇宙人……別次元の生命体が関わっているのなら、このおかしな世界の存在にも一応の納得がいく。
「つまり、このゲームに俺達を送り込んで、殺そうとしている奴等が、向こうでも好き勝手やってたってわけか」
コセさんの言葉に、この場の空気が一気に収束されていく感覚が!
やっぱり、この集団の要は……彼なんだ。
「コセさん……私の命、貴方に預けます!」
立ち上がり、頭を下げる。
「捨て石でもなんでも構いません! このゲームを終わらせられるなら、私は――死んでも構わない!!」
この罪悪感が少しでも晴れ……贖罪になるのなら。
「……捨て石云々はともかく、力は貸して貰いたい」
立ち上がり、私なんかに手を差し伸べてくれる……コセさん。
「ありがとう……ございます――ありがとうございます!」
今までの虚しい献身とは違う、明確な贖罪の道が……今の私には見える。
「……ところでイチカ、お前が言う民族とはなんだ?」
ホタルさんに尋ねられた。
「はい。私が知る限りでは、第二次世界大戦集結時に日本に残った在日朝鮮人だとか。それ以前から日本に居たという説もあ――」
――巨大な圧力と共に、私のすぐ眼前で剣戟の音が響い…………た。
その剣戟をもたらしたのは……レンさんと……ホタルさんの戦斧。
「……テメー、いきなりなんのつもりだ?」
明るく照らされ始めた心に……重たい泥水が流れ込んで来る気がする……。
凄まじい形相と殺意を携えたホタルさんが……私の命を狙っていたから。
「朝鮮人は――――全員死ねッッ!!!!」




