554.蘇る者達
「……初めまして、《龍意のケンシ》のレギオンリーダー」
“神秘の館”前にやって来た《ザ・フェミニスターズ》達、そのリーダーが前に出て声を掛けてきた。
水色と白のドレスを着た紺色ショートの女、タマコが。
「いや、初めてではないだろう」
“荒廃の大地の村”で、一度顔を合わせている。
「まさか、俺を殺そうとしておいて忘れたわけじゃないよな?」
「なんの事かしら? 貴方、妄想癖があるの?」
「一度殺そうとしておいて仲間を生き返らせて欲しいと頼んだ手前、会わす顔が無いから出会った事実をなかった事にしようとしているわけじゃないよな?」
「……ウッサいし」
女王然としてたのは、半分くらいは演技か。
「そんなアホみたいな事しなくて良いから、早く済ませよう」
「な!?」
無駄にプライド高そうだな、この人。
男に対して色々拗らせている理由は聞いたけれど、俺が配慮するような問題じゃないし。
「男のくせに、タマコ様に向かって生意気だぞ!!」
「「そうだそうだ!!」」
「男はやっぱり……全員野蛮」
タマコの取り巻きが騒ぎ出す……男という括りで一纏めにしないで欲しい。
「おーい。話が進まないんだけれどー」
「メルシュさんの言うとおりですよ、タマコさん」
「す、すみません、ヒビキお嬢様」
ヒビキさんに対して畏怖している……というより、これは怯え?
その姿を見て、少し悲しそうになるヒビキさん。
「そう言えば、見返りに色々スキルやアイテムを融通してくれていたらしいな。礼を言っておくよ」
「フン! ほとんど地味な強化系のアイテムやスキルカードばかりよ。余っていた分の半分を恵んであげたに過ぎないわ」
「そっか」
根は悪い人じゃないんだろうな。男を極度に嫌ってるだけで。
「クオリア、チョイスプレートを」
「はい、コセ様」
タマコ達から頼まれていたのは二人。俺とクオリアがそれぞれ一人ずつ生き返らせている。
クオリアがチョイスプレートを出すのと同時に、俺も○ミキコを実体化しますか? を表示。○パンパンを実体化しますか? と一緒にYESを押す……パンパン?
すると、チョイスプレートの奥、一メートル程離れた場所に光が二カ所に収束していき……二人の美少女となった。
「…………あれ?」
「私……生きてる?」
呆然としている二人に対し、背を向けておく。
「ミキコ……パンパン…………良かった」
「た、タマコ様? なぜ泣いておられるのですか? ――て、貴様は!!」
ミキコの気配が、明らかに俺に向けられている。
「貴様、なぜここに居る! というか、なぜ背を向けている! その程度で私が気付かないとでも思っているのか!!」
「いや、そういうわけじゃ……」
「男なら、こっちを見てハッキリと言え!!」
肩を掴まれて、強引に向きを変えられる!
「おい、こっちを見ろ! 何を顔を背けている!」
「ミキコ……貴女、今……裸よ」
「…………へ?」
タマコの指摘により、ようやく自分が裸で男に掴みかかろうとしていたことに気付いたらしい。
「――――キャアああああああああああッッッ!!!!」
●●●
「な、なるほど、遺言機能のせいで……」
私が死んだ際に持ち物は全てタマコ様に献上するよう設定していたため、生き返った私達は裸だったと。
などの説明を、奴等から離れた場所で仲間たちから聞いていた。
「私達は現在、三十八ステージに居るわ。数日以内に四十ステージまで行くから、それまで貴女達二人は、彼等と行動を共にして貰う必要があるの」
「は、はあ……」
私が生き返ったのは四十ステージ扱いで、今はあの男の奴隷……だから、あの男から離れていると傍に強制転移されてしまうため、仕方なく奴等と行動を共にする必要があると。
「“隷属の印”を持つ者を引き取るには、同じステージに居る必要があるそうです」
破廉恥な踊り子のような格好のチエリが、丁寧に教えてくれる。
「数日……」
私の裸を見た……一度は殺し合いまでしている相手と数日……。
「なにかあれば、ヒビキお嬢様を頼りなさい。あの方は、一応信用できるから」
「タマコ様がそう言うのであれば……」
大多数が女とはいえ、数日ものあいだ男と一つ屋根の下で暮らさなければならない……のか。
○○○
「役得だったわね、コセ」
アヤナに弄られる。
「ほとんど見てないって」
チラッと見てしまった時……エロい胸してるなとは思ったけれど……クソ、ムラムラしてきた。
「そんな事より、早くアオイ達を」
ルイーサに急かされる。
「ああ、そうだな……あれ?」
「どうかしたのか?」
「いや、何故か実体化出来る人間がもう一人居て……」
ミキコとアオイ以外に、“命の砂時計”を使った憶えは……ないはず。
「ああ、それは私の仕業です」
トゥスカがさも軽い事のように、見ず知らずの人の人権を、俺に黙って踏み躙ったと言いやがった。
「もしかして、フェアリーエリアで?」
「はい、シャドウ・グリードが現れた際に」
あの時、トゥスカがパーティーから離れていた時があったような……。
「……ま、良いか」
契約してしまっている以上、無視するわけにもいかないし。
「それじゃあ、生き返らせるぞ!」
アヤナとフェアリーを実体化!
「……あれ? 身体が痛くない……なんで?」
「――アオイ!!」
「うわ、お姉ちゃん!?」
勢いよくアオイに抱き付くアヤナ。
「良かった……良かった」
「お姉ちゃん……泣いてる?」
アオイの存在を噛み締めているアヤナの姿に、ホッとする。
双子であるアヤナがアオイをアオイと感じているのなら……俺が危惧していたこと、生き返った人間は再現されただけの存在……クローンのような物という俺の仮説は、間違いだと証明されたと判断して良いだろう。
「本当に良かった……アオイ」
ルイーサも、心のつっかえが取れたみたいだ。
「…………これ、どういう状況?」
翅が生えた銀髪ショートの女の子、フェアリー族のセリーヌが困惑している。
身長……百三十センチくらいしか無さそう。
「蚊帳の外にしてごめんな。俺はコセ――」
――一瞬で羽交い締めにされて、短剣を首に当てられる。
「テメーら!! いったいなにもんだ!!」
……いきなりの豹変ぶりに、思考を放棄しかけた。
見た目可憐なのに、もの凄いギャップだ。
「コイツを殺されたくなきゃ、状況を説明しろやッ!!」
かなり感情的になってるな。
「その手を離しなさい、フェアリー族――殺しますよ」
トゥスカの濃密な殺気に、俺まで気圧されてしまう!
「ま、待て、トゥスカ! 俺から説明する」
★
「つまりなんだ……お前を殺せば、俺様も死ぬってか?」
羽交い締めにされたまま一通りの経緯を説明し終えた……一人称、俺様なんだ。
「だったら、俺様の奴隷を解除しろ! そうしたら見逃してやんよ」
「ああ……一つ説明し忘れてたな――“命令”、俺を解放しろ」
「――な!?」
羽交い締めを解いた自分に、驚きを隠せないセリーヌちゃん。
「悪い、手っ取り早く理解して貰った方が良いと思って」
「俺様になにをした!!」
強気な態度は崩さないか。
「クエストで生き返った人間には、“隷属の印”というスキルが強制的に持たせられているらしい」
“空白のスキルカード”でも、無くす事は出来ないそうだ。
一生涯、逆らうことの出来ない奴隷として生きていくしかない最悪のこのスキルは。
「――クソがッッ!!」
「もし君が、この人なら信用できるって思った人間がいたら、その人に譲渡しても良い。それまでは、君の人権には俺が責任を持つよ」
「……ふざけやがって」
トゥスカが気紛れで生き返らせた少女、セリーヌ……これからどうなる事やら。




