おまけ 三人の出会い
「……戻ってきた」
私の持ち家、“古びた教会”に。
「……やっぱり、二人は……」
数時間前、ここで共にクエスト開始を待っていた二人の依頼者の姿は……どこにも無い。
「解ってはいても、中々受け容れられない物ですね」
装備を外し、ソファーに腰掛ける。
さっきまで抱いていた希望が、一気に地に落ちていくような感覚を覚える。
「お帰りなさいませ、イチカ様」
使用人NPCである猫獣人メイド、ニャモが姿を現す。
「お風呂の準備が出来ておりますが?」
「ごめんなさい……今は、そういう気分になれなくて」
重苦しい虚脱感に、気力が微塵も湧かない。
これでも、自分の正体を知ったあの頃に比べたらだいぶまし。
あの頃は何も喉を通らなくなって……三日後に空腹の限界が来て、泣きながら食べたっけ。
あのまま衰弱死できたら、どれだけ楽だっただろう。
「……」
何の気なしに、チョイスプレートを開く。
「フミノ……」
シンゴさんが復讐目的で生き返らせようとし、私が横取りした女性。
「そうだ、この人……私の奴隷になるんだ」
搾取する側で居るのが嫌で、傭兵なんて始めたのに……。
「ハァー…………へ?」
○以下から一つを選択出来ます。
★ヘルシングをパーティーに加える。
★退治屋のサブ職業を手に入れる
★怪物狩りのスキルカード・支援のスキルカードを手に入れる。
「そう言えば、本体を倒した人間は契約出来るって……」
頑張ったのはコセさんなのに……これじゃあ、まるで私が掠め取ったみたいに……。
「本当に最低だな……私」
隠れNPC……エルザさんみたいに、主の事を肯定し、サポートしてくれる人間なら……。
私は、隠れNPCヘルシングと契約し、成り行きで奴隷としてしまった彼女、フミノさんを実体化させる事にした。
「…………建物の中?」
長い青味を帯びた黒髪と白いカチューシャが印象的な女性は、上が白で下が紺色の……まるで剣道着のような格好をしていた。
「私は、死んだと思っていたのに……」
「……お母さ…………あれ?」
一緒に実体化した隠れNPC、ヘルシングさんは少し小柄で……腰までの黒い髪を乱雑にバックにしていて……不良みたいで怖い。
でも、隠れNPCだから私に乱暴な事しないよね?
その隠れNPCの割に、なんだか様子がおかしい気もするけれど。
「えと……初めまして、私の名前はイチカと言います」
「私はフミノです……それで、ここはどこなのでしょう? 私は確か、三十七ステージで巨大な化け物に食い殺された気がしたのですが?」
自分の事なのに、凄い他人事みたいに……。
「貴女が、ついさっきまで死んでいたのは確かです」
フミノさんに、第二回大規模突発クエストの詳細を語っていく。
「シンゴ達が、ふしだらな理由で私を……か。イチカさんには感謝しなければなりませんね」
「いえ……気にしないでください」
私は、感謝されるのが苦手だ……罪悪感を煽られるから。
「“隷属の印”……ですか。生涯奴隷ということは、貴女と私は一蓮托生という事ですね!」
どことなく嬉しそうなのは気のせいでしょうか?
「それにしても、隠れNPCですか。マズダーさんとサカナさん以外の隠れNPCは、初めて見たかもしれません」
ヘルシングの方に視線が向かうと、そこにはなにやら不機嫌そうな不良少女が。
「……私は、隠れNPCじゃねぇ」
「そうなの?」
「いえ、そんなはずは……」
「私はレン! ――プレーヤーだ!!」
「プレーヤー?」
「もしかして……死んだ人間の意識を隠れNPCに?」
「そういうモンスターとは、これまでに何度か戦った事がありますね」
フミノさんも、いわゆるプレーヤーモンスターとの交戦経験があったもよう。
「ていうかお前……なんか見覚えがあんだよな……どっかで会ったか?」
「いえ、無いと思いますけど?」
こんな不良少女、一度会ったら怖くてなかなか忘れられないはず。
「……そういや私、元の姿と全然違うじゃん。身長、百八十センチ以上あったはずなのに!」
「女性で百八十センチは大きいですねー」
フミノさんは、なんだか暢気ですね。
「つうかさ、私はまだ自分が死んだって信じられねぇんだけど。全然、死んだときの記憶ねぇし」
「最後に憶えていることは?」
「ああ……大規模アップデートの時に揉め事が起きて……黒い靄に落ちて…………そっからはよく憶えてねぇな」
小柄なせいか、だんだん可愛く見えてきた……かもしれない。
「そうなんですか……ッ!」
「お、おい、どうした!?」
「イチカさん、しっかり!」
フミノさんが、蹌踉めく私を支えてくれる。
「すみません……クエストで疲れてて」
思っていたよりも、疲労が凄いのかも……。
「無理しない方が良いですよ」
「はい……私はそろそろ休ませて貰います。ニャモ、二人のお世話をお願い」
「畏まりました」
「二人とも、分からない事があったらニャモに聞いてください……」
それだけ言い、フラつく身体を押して……私は二階のベットで深い眠りに落ちたのだった。




