550.トマホーク祭りと殲滅の悪夢
「逢魔の剣! 怨霊の剣!」
指輪により連動する巨剣を呼び出したオゥロが、豪快な二刀流を持って盾持ちのデスアーマーを押さえ込む。
翼を持ち、浮遊するように羽ばたける鳥人ならではの戦法。
でなければ、あんな巨剣二本なんて使い余してしまう。
「数が多い――“駒召喚”、ポーン!!」
マズダーが、隠れNPCである”チェスのクイーン”の固有スキルを使用し、黒金の兵士八体を呼び出した。
他にナイト、ビショップ、ルークを二体呼び出せるが、同時に出せるのは一種類のみ。
その中でポーンは最弱。
けれど、隠れNPCであるマズダーは、チェスのクイーンのもう一つの固有スキルを使用する条件を満たしている。
「――“昇格”!!」
盾と短剣を持っていたポーンが、全て私に酷似した姿となる!
「行け!!」
八体の黒金の私が、凶悪な尻尾と斧を持つシャドウ・グリードを、その手の斧と鋭い盾で蹴散らし始めた!
「なんかアレ、ホタルっちに似てない?」
クレーレからの質問。
「“昇格”は、奴隷が自分の主をキングに見立てて使用するスキル。だから、キングへと昇格したポーンは、私とほぼ同じ性能を得る」
単純にパワーとディフェンスに優れた私は、“昇格”対象として理想的と言って良いだろう。
「“逢魔魔法”――オミナスオーブ!!」
右手の“オミナスロッド”から黒い球体を放ち、デスアーマーに直撃させるオゥロ。
「“怨霊魔法”――――エクトプラズムカノン!!」
浮遊する墓、“墓石に宿りしは怨霊の祟り”より九文字分の力が込められたプラズマ弾が撃ち込まれ……頭を吹き飛ばした。
「ハアハア……キツい」
オゥロはまだ、九文字を長時間維持できない。
今の私と同じく、疲労困憊のはず。
「ク、更に二体も来るか!」
クオリアと新顔のメイドは、シャドウ・グリードで手一杯なのに!
「そろそろ、コイツの番かな――オールセット2」
クレーレが、バカでかい金属の金棒? を装備した。
「それは……まさか」
天空遺跡で手に入る素材で作れるアイテムリストにあった……。
「“トマホーク……レールシューター”」
でも、天空遺跡のアイテムリストで作れるのって、全部イマイチだった気が……。
●●●
「やっぱ重……“獣化”」
雪豹の人獣となって、三メートルを超える金棒みたいなのを支える。
『”氷砕王斧”、”爆裂王斧”、”雷鉄王斧”! ――“投げ斧連結”』
三つのトマホークを出現させて、“トマホーク・レールシューター”にセット。
既にセットしてある“雄大なる雪原の風”、“雄大なる大地の風”、“首刈りの鉞”、“レーザーアックス”と合わせて、これで七つ。刃が外側を向き、柄部分が巨大金棒に収納される形で装着される。
本当は最大で十二、四方に三つずつ装着出来るらしくて、装着数と装着した投げ斧のランク次第で威力が上昇するらしい。
『――オりゃ!!』
力任せに振り回して、一体をズタズタに。
『もう一体は――』
薙刀の一振りが頭に迫るも、“偶発無敵”が偶然発動してくれたおかげで助かった!
『“氷砕武術”――アイスクラッシュブレイク!!』
受けようとした薙刀の柄ごと、黒い不気味鎧の身体をペシャンコに!!
『“闘気斧”――“投げ斧射出”!!』
青白いオーラを纏わせて威力を底上げしてから、放電一秒後に斧と金棒との連結が解除――七本全ての斧を高速で回転射出する!!
近場のモンスターに数秒間自動追尾する性質上、プレーヤー相手にはまったくと言って良い程意味が無い攻撃法だけれど、威力はメルシュ姉のお墨付き。
黒い不気味鎧は、二体ともズタズタにされて消えていく。
『ブイ!! 私の勝ち――ぁぁぁぁぁぁああああああ!!!』
黒い不気味鎧が消える際に出た青白い光の粉が――私の胸に流れ込んでくるッッ!!!
『なに……これ」
勝手に“獣化”が解けて、胸を中心に激しい痛みが……。
「クレーレちゃん!?」
「クレーレ様!!」
遠くから……クオリア姉とレミっちの……声…………。
●●●
突然叫び声を上げ、気を失われてしまったクレーレ様。
「来なさい、“プラズマロイド・B”」
メルシュ様より提供されし四足歩行機械獣を呼び出し、私の代わりにシャドウ・グリードと戦って貰う。
「いったいなにが……」
私の常識には無いクレーレ様の状態に困惑しながらも、取り敢えず肩を貸して起き上がらせる。
「きっと、コセ様と同じ症状です」
我が主は、何かご存知のよう。
「このままでは、いずれ物量に押し潰されるでしょう。後退を進言致します」
プラズマロイド系は、同系統装備のバトルパペットと比べると基本性能は高い物の、“不壊”の効果も無ければアイテムも装備出来ないため、総合的にはバトルパペットに戦力として劣る。
今やらせている時間稼ぎも、長くは続かない。
「ホタルさん達も、もうまともに戦えるのはマズダーさんだけ……仕方ありませんね」
「聞いていましたね、ホタル殿! 今から撤退を始めます!」
「それは……」
「後は、コセ様達にお任せしましょう」
ちょうど反対側で戦っているであろう、偉大なお方に。
「……クオリア様?」
地獄の番犬の上で、神代の力を刻々と練り上げておられる?
「敵を一掃します――私の全力を持って」
左腕の銀の装身具、“鬱屈なる感情の発露”に十二文字を刻み、尚も力を高めていく。
これが、我が主の真の力……どうやら私は、とんでもない方に仕えることとなってしまったようだ。
「“六重詠唱”、“悪夢魔法”」
六つの魔法陣を生み出した上、文字を十五文字に!!?
「――――“直情の激発”」
六つの黒の奔流が、見渡す限りのシャドウ・グリードを消し飛ばし――鎮座する濃紫の巨大キューブに直撃した!!
「――ハアハア、すぐに、ハアハア、後退を……」
まずい、クオリア様が弱り切っている!
「来い!」
プラズマロイドを呼び戻し、クレーレ様と共に跨がる。
「すみませんが、先に退かせて貰います」
「……ああ、後ろは受け持つ」
ホタル殿三人を置いて、私達は三人だけでブラックエリアを脱出した。
《『――ギュルァァぁぁぁぁぁあdfjvけ4ghdr4fjp!!!!』》
NPCである私が恐怖を抱くほどの、凄まじき化け物の産声に背を向けて。




