546.ブラックエリアの騎士
「恩に着るよ、お前達」
クオリア達三人が協力してくれたおかげで、獣人のムダンを救う事が出来た。
「そういう協定ですから」
「私達は、とっくに目的を果たせてるしねー」
気の良い奴等だ。
「本当にありがとう――さぁて」
謎のエキゾチック人形メイドとマズダー、オゥロが交戦していた、隠れNPCシャドウ・グリードとやらを見据える。
「コイツらを片付けて、クエストを終われるようにしないとな」
どことなく奴に似ている気がするが、あの異形の強さとは比べるべくもなく弱い。
「どんどん数が増えてる。どうする?」
後退してきたマズダーに尋ねられる。
「二人に訊きたい。コセという男なら、こんなときどうする?」
「「ブラックエリアで本体を叩くでしょう」」
信頼されてるな。
「よし! 私達もブラックエリアに向かい、コセ達を援護する! マズダー、オゥロ、後ろは任せた!」
「「おう!」」
「武器交換――“隆起のグランドアックス”」
“ガリバーの眼”から、重厚感のあるブラウンの斧へと持ち替える。
「――“隆起の大地”!!」
最大MPの半分を消費し、墓場に四メートルを超える崖を一瞬で作って――シャドウ・グリード達をまとめて空高く打ち上げた!
「予想通りだ」
空高く打ち上げられたシャドウ・グリード達が、見えない天井にぶつかって消滅する。
“橋の砦町”での王国兵狩りと同じで、ほぼ即死するほどのダメージを受けるギミック。
少し触れるだけならともかく、勢いよく叩き付けられればあっという間にHPはゼロになる。
「“悪夢魔法”――ナイトメアミスト」
クオリアの放った悪夢の霧が、前方に残っていたグリードを捕らえて動きを止めた。
「じゃあね」
“レーザーライン・グリップ”付きの“レーザーアックス”で、次々と仕留めていくクレーレ。
コセの仲間達は、本当に頼りになる。
彼らは攻略に積極的なようだし、レギオンに入れて貰うのも悪くないか。
若干、メルシュによってネタバレされがちなのがネックではあるけれど。
「マズダー、突入の安全を確保しろ!」
「了解、マスター!!」
私の契約隠れNPCが突出し、アスラの固有スキルである“六腕”を発動。鋼鉄の四本腕が、肩を起点に浮き従う。
「“三重武術”――颶風拳!!」
巻き起こした烈風で、黒の門から出て来たばかりのグリード達を押し込むマズダー。
「“三重武術”――爆裂拳!!」
門を超えた先で、マズダーがシャドウグリードを更にぶっ飛ばして光に変えた。
「さすがに凄い数だ」
ブラックエリアというだけあり一面が墓場よりも暗いが、それ以上に不気味なのは……目の前を覆い尽くすほどのシャドウ・グリードの数。
「密集しているぶん、纏めて倒しやすいってもんだよ!」
確かに、クレーレの言うことにも一理ある。
ここからでは見えないが、反対側辺りから戦闘の気配も感じる。おそらくコセ達だろう。
「――あれは!?」
シャドウ・グリードの群れの中に見え隠れするあのシルエットは――
「デスアーマー……あんな物まで」
しかも、ここから確認できるだけで四体。
向こう側にも、おそらく同数は存在しているはず。
「あの不気味な鎧がどうかしたの?」
クレーレに尋ねられる。
「あれは、九十ステージよりも上で出ると言われていた幻のモンスターだ」
ハッカーが流出させたと言われていた開発データの中に、イラストと共に記載されていたのを昔見たことがある。
私がこっちの世界に飛ばされた五年前は、まだ七十五ステージの街までしか実装されていなかったけれど。
「へー、じゃあ強いんだ」
「シャドウ・グリードの本体は、おそらくあの巨大キューブ」
その周囲を守るのがデスアーマーの役目なのだろう。
デスアーマーの一体が――こちらへと動きだした!?
「私がアレで薙ぎ払う! 後は任せたぞ! 武器交換――“愚かしきは縋り付くかつての栄光”」
機械感が強いブラウンの両手斧へと持ち替え――最大の十二文字を刻む。
「まさか、この前のアレを?」
目が見えぬクオリアでも、察しが付いたか。
これを放てば、疲労が蓄積している今の私は……暫くまともに戦えなくなるだろう。
「食らえ――――“神代の戦略砲”!!」
青白い大規模砲撃を紫の巨大キューブに向かって放つと、まるで守らんとするかのようにシャドウ・グリードが密集して盾となる!?
「ハア、ハア、ハア、ハア」
大斧持ちのデスアーマー一体を巻き込んで数を減らしたとはいえ、まだ少なくとも三体以上……しかも、キューブの周りの黒い靄から次々とシャドウ・グリード達が生まれていく。
私達だけでは、厳しい状況だな。
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『“可動”!』
”変幻蟲の巨剣斧”を躍動させ、チョコレート女さん達の影を二方向に薙ぎ払わせるキクルさん!
『“重力魔法”――ヘビープレッシャー!!』
重圧でチョコレート影さん達の動きを止めてくれた!
『やれ、レイナ!』
「はい! “六重詠唱”、“晄竜魔法”――サンライトドラゴキャノン!!」
銀杖である“勇ましき愚者の行軍”に六文字刻み、力を流し込んで威力を底上げした巨大竜弾により――チョコレート影さん達の姿が一気に減る。
『おい、エレジー。あの騎士、一体は仕留めろ』
キクルさんの、かつてないほど冷たく低い声。
私達が別れて行動していた理由を知ってから、キクルさんはエレジーさんに冷たく当たってしまっている。
きっと、キクルさんも頭では分かっている。
でもまだ、冷静な判断に感情が追い付いていない。
「……分かりました――“獣化”」
メルシュさんから受け取ったというスキルカードで得た能力で、白緑の鹿人獣となって飛び出していくエレジーさん!
「キクルさん! 悪いのは……」
本当に悪いのは……私なのに。
「悪いのは私さ。だから、私があの獣人の援護に入ってやるよ」
ホナミさんが、キューブへと向かう私達から離れていく。
『行くぞ!』
構わず突っ込んでいくキクルさん。
「罪作りな女だ、お前は」
グダラさんに指摘される。
「お前のために怒りを抑えられない男に、その感情を惨めにさせるような事を言うな。バカ」
「……それってどういう……」
「お前は男受けは良いが、男心は何も分かっていないな――キクル! 左の騎士は私がやる!」
『頼んだ!』
グダラさんも離れていく。
「マスター、ザッカル殿達です」
右側で、派手な攻撃が行われている。
左側では……黒棘の化け物、ユウコ・エルフ・ビッチさんが暴れ回っていた。
なんでだろう……あの人に対しては、存在そのものに黒い感情が湧き上がってしまう。




