545.隠れNPCシャドウ・グリード
『これより、クエスト制限時間が残り一時間になった際の特別ルールを発表する』
「特別ルール……」
まだなにかあるだろうとは思っていたけれど、わざわざモンスター達の動きまで止めてとなると……余程面倒な内容のよう。
おかげで、私は間抜けなポーズで“黒神茨の惨殺謳歌”を振るっているかのような状態――ゆるざん。
『これより、各々のステージに用意された”隠れNPCシャドウ・グリード”が、中心にあるブラックエリアから一斉に全てのステージに流れ込む』
前の大規模突発クエストに出た、隠れNPCモドキとは違うみたいね。
ブラックエリア。ショートカットのためではないと予想はしていたけれど……。
『奴等は際限なく現れ続け、シャドウ・グリードの本体を倒さぬ限り、制限時間を過ぎてもクエストは終わらない』
「本体……なるほど」
そのためのブラックエリアというわけ。
『本体はブラックエリアの中心地におり、その場所から動く事はない。故に、自ら赴いて討伐しなければならない』
「……厄介な」
私の目的は、失った男達を取り戻す事だというのに。
『ただし、本体を討伐したパーティーには大きなメリットもある。それは、種族に関係なく隠れNPCと契約できること!』
どうせ女なのでしょう、隠れNPCは全て。
大樹村で契約したハッグの隠れNPCも、クエストに挑むに当たって戦力が欲しかったから仕方なく契約しただけだし。
『契約する気が無い、出来る人材が居ないなら、固有のサブ職業のみを手に入れる事も可能。本体である隠れNPCは全て、今回のために用意した限定品だからね』
希少価値を高めてきたか。
『それではクエスト、今から再会よ!』
身体が動くようになる。
「いかがなさいますか、ユウコ様?」
使用人NPCのエルフ執事、ロメオが確認してくる。
「方針に変更は無いわ」
「私らは、普通にブラックエリアに攻め込みたいんすけど……」
キクル達の仲間が、訴え掛けてくる。
「……仕方ないわね」
手遅れだった分を除いて、私の男達は回収できた。
彼女達にこれ以上、まだ見ぬイケメンエルフ達を集めさせるのはさすがに申し訳ない。
「――た、助けてぇぇぇ――――」
男の悲鳴が、ブラックエリアへの直通門方向である南側から聞こえてきた。
「シャドウ・グリードが来た! 数は五……いや、どんどん増えてく!」
木の上から、ラフォルが知らせてくれる。
彼女、私を嫌悪している節があるのよね。
「こっちにも来たぞ!」
人魚のマリンへと襲い掛かったのは、隠れNPCシャドウが凶暴化したような影。
『ぁぁああああ!!』
金棒のような……泡立て器? を振り回している?
「食らえ!」
尾鰭に付けていた機械からレーザーの刃を伸ばし、胸部分を切るマリン。
『”猪古令糖魔法”――チョコレートバイパーぁぁぁぁ!!』
チョコで出来た大蛇を生み出した!?
「“紅蓮矢”!!」
「“爆炎魔法”――バーニングブラスター!!」
ラフォルとマリンによりあっという間に大蛇は討伐されるも、シャドウ・グリードの方はお仲間と共に再び仕掛けてくる。
「この強さと数、シャレになってないわね」
これ以上のまだ見ぬイケメンエルフとの出会いは、諦めた方が良さそう。
「良いわ、ハヌマー。本体の攻略を優先しましょう」
「助かるっす、ユウコさん!」
『『『“猪古令糖魔法”――チョコレートウェーブ!!』』』
三体でチョコレートの津波を放って来たですって!? ――良い匂い!
「“悪魔召喚”――ウァラク!!」
ミドリがユニークスキルで、二頭持つドラゴンに跨がる――無垢な天使のような子供を呼び出した!?
「レイナママに会いに行く――邪魔をしないでよぉぉぉ!!」
シャドウ・グリード達がチョコレートの津波ごと、双頭のドラゴンの尻尾によって薙ぎ払われていく……あの子、怖い。
●●●
「ギャぁぁぁぁッッ!!」
ルール説明終了後に現れたシャドウ・グリード達によって、フェアリー族目当ての冒涜者達が次々と殺されていく。
「あのシャドウ・グリード……」
デカい両刃の斧を振るって殺戮を繰り広げるあの姿はまるで……三十九ステージで遭遇した”黒の異形”を思わせる。
「ユウダイ様、いかがなさいますか?」
「本体を仕留めなければクエストを終えられないなら、行くしかないだろう!」
影が出て来る方向に、ブラックエリアへと続く道があるはず。
「行くぞ!」
まずは、シャドウ・グリードの性能を確認する。
“サムシンググレートソード”に三文字刻み、跳躍してから振りかぶって繰り出された一撃を――大剣で去なす!!
「ク!」
凄まじい圧力と破壊力――油断出来ない!!
「ハあッ!!」
俺の上段からの一撃を、巨大な斧を手放すことで回避――鋭利な尻尾で斧を掴んで、後退しながら回収していった!?
「器用な奴」
思っていた以上に動きが俊敏。
「集まって来ていますね」
イチカさんの言葉に周りに意識を割くと、既に囲まれ始めていた。
そして、次々と復活していくフェアリー族の墓。
四十ステージからの参加者だけでなく、他ステージからの参加者も次々と殺されているみたいだな。
『“支援”』
『『『“支援”』』』
緑のオーラを、周りの影に掛け合っている?
「来るぞ!」
エルザの言葉を合図にするように、一斉に襲い掛かってくる影の異形達。
「“大地讃頌”!! ――ハイパワープリック!!」
突っ込んできた三体の機先を制し、確実に一体を仕留める!
「“土の手”、“聖騎士武術”――パラディンセイバー!!」
俺と似たような戦術で仕留めるナターシャ。
「“剣化”――“飛剣・靈光”!!」
トゥスカが牽制した奴を、イチカさんが仕留めてくれる。
「僅かにだが、奴等の動きが確実に良くなっている。あの“支援”とかいうスキルの効果だろう」
エルザの見解。
このエリアの人間は俺達以外殺されたのか、襲ってくる数が一気に増えてきた気がする。
「多少無茶をしてでも、道を切り開いた方が良さそうだ――武器交換」
“サムシンググレートソード”を、“名も無き英霊の劍”へと持ち替える。
「撒き実れ――“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”」
異形と化した左腕で握った大剣の力により、岩の散弾を散蒔いて影の異形達を叩き潰していく。
「よし、行くぞ! ……トゥスカ、どうした?」
「いえ、なんでも」
何故か一人遅れたトゥスカだったけれど、怪我をしたとかでは無さそうだ。
「私が安全を確保する――”咒血竜技”、カースブラッド・ドラゴンブレス!!」
次々と出て来る影の異形ごと、門の向こう側にまで息吹を叩き込むエルザ。
「た、助かる」
大丈夫だとは思うけれど、万が一にもクオリアやホタル達に被害が出てたりしないよな……。




