544.死者への冒涜
「“光輝棒術”――シャイニングブレイク!!」
“戦乙女の天馬”で空を駆けながら、すれ違いざまに巨大な黒怪鳥、“デミ・ケツァルコアトル”をぶん殴って首をへし折る!
黒棘の白金棒、”生を視ること死の如し”に三文字刻んでの力技!
「――“悪穿ち”!!」
力無く落ちていく黒怪鳥に、ザッカルさんが剣槍を投げ付けて仕留めた。
「コトリが引き付けてくれて助かったぜ」
「ですね。ベルハウンドとウィル・オ・ウィスプが同時に仕掛けてきた時は、どうなることかと思いましたけれど」
ケルフェ達も片付けたみたい。
「サンシャーもお疲れい!」
『シャー!』
アルーシャの”砂漠大鮫の指輪”で呼び出され、“鳥獣戯画”で擬人化した砂色ワイルド美女とバトンタッチ! ならぬバトンヒレ!
サンシャーは、擬人化しても指が無いタイプみたい。
「よし、さっさと開けちまうぞ」
“カリスマリーダーの指輪”を装備したザッカルさんが、棺桶を私と一緒に開ける。
「おおー、格好いい!」
私が目を付けた、黒二本角のホーン族美人。
髪はショートで、黒っぽい紫。肌の色は褐色。角は目のすぐ上から直上に伸びてる。
「お前が生き返らせろよ、コトリ」
「へ、私?」
「お前が言い出したんだ、お前が責任持て」
「ええー……」
全然そんなつもりじゃなかったのに。
「ま、いっか」
“命の砂時計”を使って、Lv74魔法使いを私の奴隷として生き返らせた。
「それで、なんでその女を選んだんだ?」
「リストに載ってる人の持ち物ってさ、たぶんメインで装備してた武器が最初の方に表示されてるっぽかったんだよね」
「そんで?」
「この人の一番上の武器? の名前が、“万物よ灰燼に帰せ”……だったんだよ!」
「「ああー」」
この独特なネーミングセンスのおかげで、一発で伝わったみたい。
「参謀ってさ、どう考えても神代文字を使える人間を優遇してるっしょ」
「参謀? ああ、メルシュの事か」
リョウ達に対する扱いを見ていれば、おのずと察しはついちゃうよねー。
「これからどうします、ザッカルさん?」
ケルフェが尋ねた。
「まだ一時間以上ある。なにが起きるか分からねーし、取り敢えず体力温存だな。誰かと合流しておきてー所だけれど」
「だね」
「妥当な判断だ、ザッカル」
厳しいアルーシャも納得みたいだね。
前の大規模突発クエストでも、一時間ごとにイベントが起きた。
「さてさて……残り一時間になった時、果たしてなにが起きることやら」
●●●
「まさか、こんな種族が存在するなんて……」
中途半端に掘られていた墓を気紛れで掘り返しただけだったけれど、自分の“命の砂時計”を使って彼女を生き返らせることにした。
「……何してるんだろう、私」
少し頭を冷やすだけのつもりが、フェアリーエリアを超えてその他エリアまで来てしまうなんて。
「エレジー殿」
「……サザンカさん」
後を付けてきていたのには、気付いていたけれど。
「近くにキクル殿達が。マスター達も、じきにこちらに来ます」
「……分かりました。ここで待ちます」
頭に来た勢いで、バカな真似をした。
最近……心がグチャグチャになることばかりで、自分が解らなくなる。
「モンスターが迫っています。先にキクル殿達と合流しましょう」
「……はい」
強くなるって決めたのに……こんなんじゃ。
●●●
「――ぁぁぁああああ!!」
青銅系統の武具で身を固めた男の腕を、切り飛ばした。
「“真空魔法”――バキュームレイド!!」
ザ・アビス系装備の男を無数の真空刃で切り刻み、絶命させるグダラ。
俺も、脳天に“変幻蟲の巨剣斧”を叩き込んでトドメを刺す。
「まったく、胸糞悪い奴等だ」
「ですね」
憤るグダラに同意する、メイドのディア。
「リストに載ってないから人が少ないのを見越して、その他エリアで女漁りか。考えたよね~」
ミレオの他人行儀な反応。
掘り返された後がアチコチにあるし、あれらは全部男なんだろうな。たぶん。
『さて』
奴等が最後に掘っていた場所、その奥の棺桶の中身を拝む。
『……綺麗だ』
青味を帯びた白い着物に身を包んだ、黒髪の女性が眠っている。
頬の左右の髪を、赤い紐で結っているのが特徴的……まるで、日本人形が擬人化したみたいだ。
とはいえ、これ以上の情報は無し。
『身体的な特徴が無いと、なんとも言えないな……ん? どうした?』
不可解な物を見るような視線に気付き、その主であるグダラ達に尋ねる。
「アイツが綺麗とか口にするの、初めて見た」
「私も」
「そうなのですか?」
そんな事で怪訝そうな雰囲気になってたのか。
「それで、“命の砂時計”を使うのか?」
『ただ、どんな種族か見てみたかっただけなんだがな……』
あてが外れてしまった。
「女なら許容してやろう。キクルが気に入ったなら、役に立ちそうだ。色々情報も欲しい所だし、いざというときは捨て駒にすれば良い」
『お前は相変わらず、口だけはドライだな』
露悪的に振る舞っても、結局損をする役を選ぶくせに。
『なら、お前が生き返らせたらどうだ?』
この四人の中でNPCじゃないのは、俺とグダラだけだし。
「良いだろう」
本当に“命の砂時計”を使ってしまうグダラ……。
『マジか……』
絶対に使わないと思ってた。
「キクル様、サザンカ殿とエレジーさんです」
ディアが教えてくれる。
『二人だけ?』
暗い道を、二人だけでこちらに歩いてくる。
『レイナ達はどこだ?』
●●●
「……不自然に空いたスペースが多い」
フェアリーエリアにやって来た俺達が見たのは、穴を掘りまくっている集団。
異世界人エリアに比べてかなり狭いフェアリーエリアにおいて、あまりにも人の比率が多い。
「可愛い可愛いフェアリー族。なんでも言うこと聞かせられるとか、サイッコウー!!」
「グヘへへ! グヘへへへへへへへ!!」
「おい、コッチは終わったから手伝うよ」
「ありがとう」
「さあ、私達でもっと、合法ロリと合法ショタを救うわよ!!」
「「「おおーー!!!」」」
「……なんだ、この妙な熱量」
このエリアに居る二十人以上、全員が仲間なのか?
「――ぁぁあッッ!!」
女が悲鳴を上げたと思ったら、ソイツらが掘っていた場所の墓が消えていった。
「私が狙ってた子がぁぁぁぁ!!!」
痛々しいというより、見苦しい悲痛な叫び。
「狙ってた……か」
ヒビキさんみたいに上のステージから落ちてこない限り、四十ステージから参加した人間がフェアリー族に会えるはずがない。
つまり、ここに居る奴等の中に、知り合いや仲間を生き返らせようとしている人間が居る確率はほぼゼロ。
「フェアリー族は、愛玩目的で攫われる事も多いと聞きます。攫われた者は、エルフ族よりも酷い目に遭うという噂も……」
トゥスカの反応で、嫌な想像があながち間違いじゃないと気付いてしまう。
死は救済……か。
専用アイテムのスコップに、冒涜者なんて名前が付いている理由が理解できた気分だ。
「――身体が……動かない?」
「な、なんだ?」
「どうして急に?」
いきなり動けなくなったのは、どうやらこのエリアに居る全員らしい。
『これより、クエスト制限時間が残り一時間になった際の特別ルールを発表する』




