543.冒涜される冒涜者
『ブハハハハ!! 異世界人のくせに、やるじゃないか!』
俺のトゥスカを殺そうとした斧使いの豚野郎と、正面から斬り結ぶ。
イチカさんの方は、四角い包丁使いの相手をしてくれていた。
『ブヒヒ! どうした、どうした!!』
腕のリーチの差を生かしての、首を狙った回し込む攻撃!!
――盾のコの字の持ち手、側面の下側のボタンを押し、“古代の叡智の盾”を風船に空気を入れるかのように大きくしながら、肘打ちの要領で左腕の盾をぶつけてタイミングをずらす!
すぐに上側のボタンを押し、腕より一回り大きいくらいの最小サイズへ。
『ハハハ、面白い盾だな~』
……コイツ、単純に強い。
“獣化”状態だから隙だらけなんだろうが、そもそもが高い再生能力を利用し、肉を切らせて骨を断つ戦法らしい。
ふざけた気味の悪い言動が一種のブラフになって、奴の知性を覆い隠している。
気付かずに仕掛けていたら、隙を突かれて殺されていただろう。
『“業脚”!』
リューナの蹴りスキルに似た攻撃を身体を回転させながら避け――逆手持ちにした剣で、そのままデップリ腹に突き刺す!!
『グエッッ!!』
このまま、内側から吹き飛ばしてやる!!
「ハイパワーブレ――」
「“念動術”――サイコキネシス」
身体の動きを止められてしまう!? ――伏兵が居たのか!!
『これでおしまいだぁ~』
――鎧に神代文字を三つ刻み――纏わり付く見えない拘束力を吹き飛ばす!!
「――ハイパワーブレイク!!」
内側の刀身からエネルギーを暴発させ、奴の血肉をぶちまけさせた!!
『――グァァァぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
“獣化”状態の獣人は、この程度じゃ殺せない。
「“黄昏の影操り”」
トゥスカにより、不意打ちを仕掛けてきた何者かが拘束された。
「“聖炎水鎚術”――バーンセイントブレイク!!」
『ぅバアあぁぁぁぁぁッッ!!!』
金鎚のようになった“ヴァンパイアキラー”により、包丁使いの豚も大きく弾き飛ばされる。
『チ! 二重の不意打ちも失敗か』
『おい、あの斧! あれはヴァルカの野郎の!!』
トゥスカの斧、“黄昏に背を向けて”は、確かにヴァルカから譲り受けた物。
『まさか、あの女もヴァルカと同じ力を――おい、エスパー女!! 時間を稼げ!!』
『飢える豚の群れ!!』
斧使いの弟が、指輪により獰猛な大豚、スローターピッグを八頭も呼び出した!!
「――“念動力”」
女が身に着けていた小さなナイフが一斉に浮き、動きだす!!
「邪魔をしないで」
トゥスカの慈悲により、一瞬で絞め殺される女。
「ハイパワースラッシャー!!」
「“飛剣・紅蓮”!!」
俺とイチカさんの二人で豚を撃退したときには、あの双子共の姿は消えていた。
「クソ……厄介な奴等を逃がした」
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『別エリアまで来れば、ハアハア、大丈夫だろう』
『ハアハア、ハアハア。ふざけやがって、あの力が使える奴等となんて戦っていられるか!」
『まったくだな」
「フーン、あんたたちはまあまあ使えそうね」
私の可愛い死体達に押さえ込ませる。
「は、離せ!! “獣――ガボゴゴボ!!?」
死体達の腕を口に突っ込ませ、スキルの詠唱を封じた。
「アンタ達みたいな不細工、本来なら願い下げなんだけれど――あの女を殺すためには、もっともっと力を付けなくちゃいけないからねー――“死印契約”」
“獣化”持ち獣人、二人ゲットー~!
「あの犬女、いつか必ずぶっ殺してやる――アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!」
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「キクル、そっちはどうだ?」
『二人分は終わった』
「なら、《獣人解放軍》から頼まれていたノルマは達成か」
殺して奪った分の“命の砂時計”があるとは言え、俺達のパーティーは四人にプラス死人二人。
キクルのパーティーも同様で、これ以上の死人を生き返らせる空きが無い。
「後は、時間が経つのを待つだけ?」
「なんだか勿体ないね」
グダラとミレオは、どこかつまらなそうだ。
『いや、俺は今から、その他エリアに行こうと思う』
「キクル様、何か理由が?」
角メイド、ディアが尋ねる。
『リストにすら表示されていない種族……気になる!』
「「……ああ」」
グダラとミレオは、またかという顔をしていた。
「つっても、パーティーに空きがなきゃ生き返らせられないだろ。わざわざ確かめるためだけに墓を掘り返すつもりか?」
『そうだな。一応、“カリスマリーダーの指輪”はあるが』
「ああ、なるほど。パーティーの最大数を増やす奴か」
「一応、ザッカル様も所有してるからな。忘れてるだろうけれど」
「……」
アルーシャの容赦のない指摘。
「フー……じゃあ、俺も誰か生き返らせてみっか」
“命の砂時計”が勿体ねーし。
「誰か生き返らせたい人でもいんの、ザッカルさん?」
訊いてきたのはコトリ。
「いんや。強いて言うなら、コセの役に立つ女が良いな」
「じゃあさ、ちょっと目を付けてた人が居るんだけれど!」
コトリが、悪い顔をしている。
「どんな奴だ?」
「《龍意のケンシ》には、魔法使いが少なすぎる気がするんだよねー」
そういって見せてきたチョイスプレートに映し出されていたのは、生意気そうな黒二本角の女。
「気骨がありそうな良い女じゃないか。よし、今すぐホーンエリアに出発だ!」
『なら、俺達とはちょうど反対方向だな』
キクル達とは、また一旦お別れか。
「気を付けろよ、おまえら」
『そっちもな』
こうして俺達は、クエスト時間、残り半分というところで二手に別れた。
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「エスパーの隠れNPC?」
豚野郎共の命令に従っていたマジシャン風の女は、十二ステージの隠れNPCだったらしい。
「その証拠に、エスパーの固有スキルである“念動力”と“念動術”のスキルカードが手に入った。エスパー専用のSランク装備もな」
エルザが言うなら確かなんだろう。
「隠れNPCの装備は大半がSランク。悪くない収獲だな。“命の砂時計”まで手に入ったのは意外だったけれど」
俺達に遭遇する前に、あの隠れNPCは既にプレーヤーを殺していたらしい。
あの豚共、遺言機能を使わせてはいなかったようだな。
「ご主人様、あれを」
トゥスカの視線の先、天から光が降り出して……不自然に空いていたスペースにお墓が出来る。
「これは……現在進行形で死んだ人間の墓か?」
「いえ、クエスト開始時点で追加はされないはずです。おそらく、“命の砂時計”を使用した者達が死んだ事で、生き返る予定がリセットされたのかと」
ナターシャの指摘に、少し虚しくなる。
「どうする? “命の砂時計”と“カリスマリーダーの指輪”もある。イチカは今一人パーティー状態だから、砂時計の数だけ生き返らせられるぞ?」
エルザからの試すような言葉。
「……とは言ってもな」
生き返らせたい人間が他に居るわけでもないし、どんな人間か分からない以上、面倒ごとを増やす事になりかねない。
「では、未だレギオンに居ない種族を生き返らせるのはどうでしょう?」
ナターシャからの予想外の提案。
「なんでだ?」
「今後どこかで、特定の種族をレギオンに加えていないと進めない場所が出て来るはず。早めに親睦を深めておくのも一つの手かと」
「必ず奴隷を買わなきゃいけないなら、か」
確かにそれなら、Lvが高くて戦闘経験が豊富な人間を仲間にしておいた方が良いと。
……こういう理詰めで人と関わると、思わぬ失敗をする気がするのは俺だけだろうか。
「ここから近いのは、フェアリーエリアか」
反対方向はエルフエリアだから、フェアリーエリア一択だな。
「よし、取り敢えずフェアリーエリアに移動しよう」
とはいえ、本当にLvや装備で生き返らせる人間を決めても良いのだろうか……。




