539.冒涜者達の思惑
「食らえよ!」
二人組の男のうち、一人が雷の鞭を両手で繰り出している様子。
でも、レミちゃんの刀腕は問題なく鞭を払いのけ、男に接近――回し蹴りと見せかけたギロチン蹴りで首を刎ねた。
「――ぅぁぁあああああああッッ!! テメー、よくもぉぉぉッッッ!!!」
仲間が殺されて激昂した男が、大剣を振り上げる。
「――“噴射”!!」
片刃の大剣裏から何かが噴き出し――レミちゃんの盾腕に大きく斬り込んだ!?
「レミちゃん!!」
「問題ありません、クオリア様。私には、“痛覚耐性”がありますので」
隠れNPC、ミュータントが持つという固有スキルの一つ。
もう一つのミュータントの固有スキル、“組換え武器”がプレベールが持つ種族スキル、“変質四肢”との相性が良いという事で、レミちゃんにメルシュ様から渡された物。
身体を変化させる速度が僅かに上昇するうえ、変化にバリエーションが増えることになるんだとか。
「離れろ、下郎!!」
左腕で刺突を見舞うも、離れて避けられてしまう。
「お前ら全員、纏めて消し飛ばしてやるッ!! ――“爆雷ほ――グゥぅッッ!!?」
レミちゃんのお尻から生えた鞭のような尻尾が男の首に巻き付き、言葉を発せられないようにしている!
「我々は忙しい。さっさと退場して頂こう」
男の身体を持ち上げて身動きを取れなくしたのち、レミちゃんは右腕を剣に変えて――胸を貫いた。
「では参りましょう、クオリア様、クレーレ様」
「うん!」
レミちゃん……頼りになりすぎ♡
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「いきなり獣人エリアに来られたのは、幸先が良いな」
「ありましたよ、ザッカルさん!」
コトリ、ケルフェ、アルーシャと共に、《獣人解放軍》メンバーの墓を探していた俺達。
「よく見付けられたな、コトリ」
石のプレートから十字架が生えている墓、それが見渡す限り続く場所の中から、よく探し出せたもんだ。
「隣同士の頭文字が一緒で、アルファベット順になっているのに気付いてさ。後はどっち方向に目当ての名前があるか見極めれば良いだけだから」
「……解るか、ケルフェ?」
「いえ、ちょっと私には」
「だよな」
やっぱ、コトリは地頭が良いらしい。普段はバカっぽいのに。
「よし、さっそく掘り返すぞ!」
“冒涜者のスコップ”を取り出し、俺とコトリで墓の前を掘り返していく。
見張りは、視界の広いケルフェと魔法特化のアルーシャが担当。
土の道は、向かいの墓までの幅がおよそ五メート。
大立ち回りが出来る程度の広さはある。
「敵襲!」
「数は七!」
アルーシャとケルフェの警告に、掘り返す手を止めて武器を取る。
間もなくして俺達を囲んだのは、黒尽くめの……人間?
「“ウィクショナリー”という、近接戦が得意な人型モンスターです。気を付けなさい、コイツらは高度な連携を取る!」
アルーシャがそう叫んだ時には、奴らはその手の武器で仕掛けていた。
「コイツら、早い!」
手にしている武器は、暗殺向きの小回りが利く物ばかり。
「“超高速”!!」
愛しの“レーザーソード”で、すれ違いざまに胴を両断!!
俺が二体仕留めると奴等の陣形が崩れ、コトリ達が一気に優勢に。
「あ、逃げ出した!!」
「聞いていた通りか」
三十ステージより上は、良くも悪くもモンスターが逃げたりするらしい。
『――“飛王剣”』
逃げ出した二体の黒尽くめが、一撃で葬られる。
「……なんだ、お前らか」
仕留めたのは、白い面を付けた男、キクルだった。
後ろにはバロンのミレオ、翠の人魚グダラ、ホーンメイドのディアが。
『もう来ていたか……レイナ達は?』
「遭ってねぇな。つうか、アイツらはガキを生き返らせるのが目的だから、こっちには来ねーだろう」
『それはそうだが……』
「なんだ、そんなに心配なのか?」
『……まあな』
「ん?」
半ば冗談で口にしただけなのに、妙にしんみりとした空気に。
「なんだ? なんかあんのかよ?」
『まあ、クエストが終わった頃には分かるだろう』
「あん?」
問い詰めようかと思案した時、離れた位置にあった墓が突然光り出して……消えた。
『どうやら、別のステージの奴等が“命の砂時計”を使ったらしいな』
「チンタラしていられないわね」
グダラの言うとおりだ。
『俺達は、アルファベットの逆順から生き返らせていく。じゃあな』
「おう、気を付けろよ!」
……つうか、何気にアイツも、コトリみたいに墓の並び順に気付いてんのかよ。
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スケルトンナイトの集団を叩きのめした。
「今更ながら、不思議な気分ね」
「何がっすか?」
赤人魚の武闘派、マリンに尋ねる。
「人魚、獣人、エルフ、異世界人が、当たり前のように一緒に戦っている事がよ」
「そう言えば……確かにそうっすね」
猿獣人の私に、人魚のマリン、エルフのラフォルと異世界人のミドリ。
このイカレタ世界に放り込まれる前なら、別種族同士が共闘するなんて考えられなかったっす。
「……」
「どうしたっすか、ラフォル?」
「この墓を見ていたら……こんなにも同胞が亡くなっていたのだなと」
ここはエルフエリア。並ぶ墓全てがエルフの物。
エルフは特に、同族意識が高いって聞いたことあったっすね。
「すみません、早く異世界人エリアに向かいましょう」
「そんなに慌てなくても大丈夫っすよ、ラフォル。それに、砂時計が四つもあるんすから、誰か生き返らせれば良いじゃないっすか」
「いえ……私は、せっかく安らかに眠っている同胞に、再び生き地獄を味わわせる気にはなれないから……」
ラフォルは、生きることを苦しみだと思ってる……って事っすか。
「それに、急いでレイナ達と合流した方が良いでしょう」
「ラフォル……レイナ達に何かあるのですか?」
マリンが尋ねた。
「レイナママに何かあったら……私」
ミドリの情緒が、一気に不安定に!!
「私はキクルさんから聞いたのですが、実は……」
「よし、この墓だ! 急いで掘り返せ!」
突然の男達の声に、私達の会話が途切れる。
「エルフにしちゃ、かなりオッパイがデカかったよな、この墓の女は」
「“隷属の印”で言うこと聞かせ放題とか、このクエストは最高かよ!」
「絶対に三人は手に入れるぞ、お前ら!」
どうやら、仲間を生き返らせようとしているわけじゃなさそうっすね。
「あ、クソ!!」
男達が掘っていた墓が輝き、消えてしまった。
「先を越されたか!」
「次だ、急げ!」
「やっぱ、俺達以外にもエルフ狙いの輩が」
最低な奴等だ。
よく見ると、アチコチでプレーヤー達が墓を掘り返し始めている。
女も多いけれど、男の方が圧倒的に多い。
「イケメン! イケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンッ!!」
一人の女が、一心不乱に掘り返している。
「……すみません、皆さん。私は――」
「手伝うっすよ、ラフォル」
「種族に関係なく、他者の人生を弄ぼうとする連中を許せないのは私達も同じよ」
「殺せば良いの? じゃあ、早く殺そう――“悪魔召喚”」
ミドリがAランクの上位悪魔を三体呼び出して、男達に仕掛けさせてしまったっす!
「「「ギャァぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
……やっぱりミドリは、レイナが傍に居ないと危なっかしいっすね。
「――私の男の墓になにをしているのかしら?」
「……ぁぁ…………」
怜悧な声が聞こえてきたと思ったら、イケメン連呼してた女に棘の鞭が巻き付いて……全身を穴だらけにして殺した。
「……ユウコ……さんすか」
私が知っているユウコさんより、雰囲気がだいぶ暗い。
傍らに居るのは、噂に聞いたエルフの使用人NPCと、大樹村の隠れNPCであるハッグって言う魔女精霊っすかね?
「貴女達、協定を忘れたわけじゃないわよね?」
「も、もちろん、覚えてるっすよ!」
そうだった。私ら、ユウコさんと手を組んでるんだった。
「“命の砂時計”、不要な分は全て寄越しなさい。そして、私の男達の墓を全て曝くのよ。まだ見ぬイケメンエルフのもね!」
この人、さっきのイケメン連呼女と大して変わらないじゃないっすか。




