533.随伴の黄昏は英雄と共に
「撒き実れ――“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”」
――“名も無き英霊の劍”に十二文字刻み、左腕から母なる大地の息吹を流し込む。
異形は空を駆けながらエルザの血龍二体を尻尾で切り払い……明らかに俺に狙いを向けた。
まるで、神代文字の力を振るう者を恐れているかのように。
「全員、援護に徹してくれ」
トゥスカ、クオリア、クレーレの文字と共鳴しているおかげで、自力で十五文字操っていた時よりも遥かに負担が少ない。
これなら、もう少し無茶が出来そうだ。
『ぁ゛ぁ゛……“時空魔法”――ムーブメント』
ワンパターンな奴。
『――グギェッッ!!!』
前回と同じ、後方の直上に現れたのに気付き、瞬時に生成した岩をぶつけ――崖に押しつぶす。
「“大地竜剣術”――グランドドラゴンブレイク!!」
十五文字の状態で“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”の効果武術を使用――押し潰した岩ごと、黒の異形へと叩き込む!!
「“偉大なる英雄の黄金翼”――“飛翔”」
派手に崩れる崖の中から現れるボロボロの異形に肉迫――六文字刻んだ脚甲で、喉に蹴りを入れる!!
コイツがプレーヤーである以上、口にしなければスキルの類いは発動できない。
転移されるのは面倒だからな。
「ハアッ!!」
互いに空中を踏みながら、爪と剣による攻防へ。
俺が転移を封じたいように、奴も俺が能力を使うのを阻むよう、息つく暇のない攻撃を繰り返してくる!
……まずい。
このSSランク武器の弱点は、異形と化した左腕でなければ使用できないこと。
今は両手で振るっているからなんとかなっているけれど、攻撃の手数が剣一本である俺に対し、奴は両手の爪と巨大なナイフのような尻尾、時折蹴りまで多用してくる。
互角に思えた攻防も、防戦へと傾き始めてしまう。
「“大地竜剣術”!!」
俺が武術を使うと判断し、後退する黒の異形。
だが、今の言葉はブラフで、岩の塊三つを奴を囲うように生み出し――圧殺する!!
けれど、この程度では奴は倒せない!
「舞え踊れ――“雄偉なる精霊と剣は千代に”!!」
大地母竜の大剣を、白き戯れの劍に変える。
「“竜王剣”! “大地王剣”! “波動王剣”! “振動切断剣”!」
浮遊する四振りの大剣を生み出し、こちらも手数を増やす。
――三度同じ場所への転移――どれだけ気に入っている戦法なんだか。
神代の力を流し込んだ竜と波動の剣により、奇襲へのカウンターを成功させる。
「“神代の剣”――――魔法を放て!!」
「“黄昏魔法”――トワイライトレイ!!」
「“氷砕魔法”――アイスクラッシュマウンテン!!」
「“悪夢魔法”――ナイトメアミアズマ!!」
「“光線魔法”――アトミックレーザー!!」
「“咒血竜魔法”――カースブラッド・ドラゴキャノン!!」
「――“黒精霊”」
四つのスキル武器と“雄偉なる精霊と剣は千代に”に、それぞれ魔法を吸わせた!!
『――――dkg4bwッッ!!!』
真っ黒なフォルムが獣のように変化し、より凶暴な姿へと変わる黒き異形。
『『グルルルルルルル――!!!』』
――速度は更に増し、一瞬で間合いを詰められる!!
けれど、増大した圧力により気配を感じやすくなったために――むしろ対応しやすい!!
「“二重武術”――ハイパワーブレイク!!」
“波動王剣”を右手で掴み、同時に両肩へと振り下ろして――呪われし狂血と鉄混じりの氷の魔法剣を炸裂!!
そのまま――今度は“大地王剣”と“竜王剣”を掴む!!
「――クロススラッシュ!!」
黄昏の光と滅却の光を交差させ、凶暴の異形を十字に切り裂く!!
「――――ハイパワースラッシュ!!」
最後の“振動切断剣”を掴み、悪夢の闇を持って――尚も再生しようとする異形の身体を真っ二つに切り裂いた。
「――ハアーッ、ハアーッ! ハアーッ、ハアーッ!」
呼吸が荒すぎて、喉が痛い……身体も、地味に濡れて余計に重く、体温が急速に下がっていく気がする。
「ご主人様!!」
なんとか、トゥスカ達の元まで戻ってきた。
「少し……無茶し過ぎた」
トゥスカに抱き止めて貰ってしまう。
“雄偉なる精霊と剣は千代に”が俺の手に帰ってくると、“名も無き英霊の劍”へと戻った。
「――――ユウダイ様ッ!!」
――俺達を庇って、ナターシャの左腕が宙を舞う。
「“悪夢魔法”――ナイトメアバットズッ!!」
クオリアが数で包囲しようとするも、奴は超スピードで逃れた。
「……アイツ、まだ」
中心点で真っ二つにしたにも関わらず、まだ生きているなんてッ!!
「ぅうッッ!!」
「ナターシャ!!」
「治療は私が!! レストレーション」
盾ごと飛んでいった左腕を拾ってきて、部位欠損を修復する魔法を発動してくれるイチカさん。
「俺のせいで……」
ナターシャの肩が、あの凶悪な尻尾によって食い千切られるように……。
「ご主人様のせいじゃ!」
「キャアアアッッ!!」
クレーレの身体が――宙を舞う。
「“悪夢魔法”……――“直情の轟発”!!」
神代の力を流し込んだ強烈な一撃をクオリアが無理矢理カウンターで決めるも、その衝撃で吹き飛ばされて……壁に激突してしまう。
「“咒血剣術”――カースブラッド・スラッシュ!!」
“吸血強化”を使用した状態のエルザが、クオリアによって大ダメージを受けている異形に、死に物狂いで畳み掛けている。
「…………ふざけんな」
アレだけ力を振り絞って、倒せないって言うのか。
「……ご主人様は、クレーレだけでも連れて逃げてください。あの子が、一番幼いですから」
「……トゥスカ?」
「勝ち目が無いのは明白。なら、一人でも生き残れる選択をしなければ――装備セット1」
トゥスカが“荒野の黄昏は大いなる導”に十二文字刻み……俺から離れていく。
「今この中で一番アレとまともに戦えるのは、私でしょうから」
「“串刺し皇”ッ!!」
エルザの切り札たる無数の血の杭も、あの異形にはほとんど通用していない。
「……ダメだ」
「ご主人様……お願いです」
「――ダメだッ!!」
こんなの、認められるはずが無い!!
「お前は、俺と死別するのが嫌だから……俺の奴隷で居続けようとしたんだろう?」
「それは……」
「でもそれは……俺だって同じだ!! お前と一緒に居られない未来なんて――要らない!!」
それだけが……トゥスカとの未来だけが、俺が唯一、本当に求めている物。
「今お前とここで別れて生き恥を晒すくらいなら――一緒に戦って死んだ方がマシだッ!!!」
自然と、“名も無き英霊の劍”に十二文字を刻んでいた。
「……はい――最後まで一緒に!!」
俺の剣とトゥスカの転剣に刻まれた文字が、想いが――――かつてないほどに共鳴していく!!!
「照らし抱け――――”雄偉なる黄昏は――英雄と共に”!!」