530.聖炎水の戦士イチカ
「“聖炎水魔法”――セイントバーン!!」
白い水が飛び出したと思ったら、白い大火となってスローターピッグ達を焼き殺していく。
「“鞭化”――“聖炎水鞭術”、バーンセイントラッシュヒット!!」
殺しきれなかった豚たちを、撓り伸びる銀の剣で打ち刻み、トドメを刺していくイチカさん。
なんというか……普段の言動に反して、戦い方に容赦が無い。
「お待たせしました。参りましょう」
共に歩いて進んでいく。
「今のは、ユニークスキルですか?」
答えて貰えるかは期待せずに尋ねた。
「はい、“聖炎水の卓越者”というサブ職業になります」
「……なるほど」
“星屑魔法”や“悪夢魔法”と違って、魔法だけでなく武術としても使用出来たのは、サブ職業の名前が魔法使いではなく卓越者だからか。
……それにしても、あっさり手の内を明かしてくれるとは。色々心配になってくる。
もしシンゴがイチカさんの貞操を求めてきたら、そのまま差し出してしまうのだろうか……こんな時に何を考えているんだか、俺は。
「そう言えば……イチカさん達は、黒髪おかっぱの女魔法使いには遭遇していませんか?」
トゥスカからの質問。
“ブラッディーコレクション”を持っていた女の印象が強すぎて、すっかり失念していた。
「私は知りませんね」
「私もだ。オゥロとマズダーは?」
「見てないね」
「……見たかもしれない」
ダウナーっぽいオゥロからの情報。
「一人の男とだけ喋って、色んな種族を兵隊みたいに操ってた……合ってる?」
「銀の大きな杖は?」
「大切そうに持ってた」
「決まりだな」
イズミとかいうSSランク使いは、既に三十九ステージへと到達していた。
「彼女達は、今も三十九ステージに?」
「三日くらい前に、この山に向かうのを見た」
四十ステージで、大規模突発クエストに参加する気かもしれない。
「となると、四十ステージで遭遇する可能性があるか」
けれど、これでメルシュやリューナ達が、俺のいない所であの女と接触する可能性は消えた。
「その女がどうかしたのか?」
「ご主人様」
「共有しておいた方が良いだろう。説明を頼む」
「分かりました」
実際に戦ったトゥスカに任せる。
「彼女は、“エンバーミング・クライシス”というSSランク武器を持っています」
「SSランク……まだ実物を目にしたことは無いな」
「死体恐慌。随分と物騒な名前ですね」
「イチカさんの言うとおり、使い手も含めて恐ろしい相手です。なにせ、その杖の力で――殺した人間を無制限に操るのですから」
「殺した人間を……」
「無制限に?」
さすがに、嫌悪感を隠せないらしい。
「人間だけでなく、その力はモンスターや一部のNPCにまで及びます。現に、バーサーカーの隠れNPCを操っていました」
「SSランク……他の武具も、デタラメな力を有していそうだね。ハッキリ言って、ゲームバランスが滅茶苦茶だ」
ゲーマーが言いそうな言葉を口にするホタル。
俺達は既に三つ保有しているけれど、今は黙ってよう。
「……何か居る」
いち早く気付いたのは、クオリア。
――音もなく現れた黒い異形の尻尾が、シンゴ達を狙う!
「――“瞬足”」
先端が爪のような尻尾がイチカの剣を折り、二人を庇った彼女の肩に――突き刺さってしまう!!
そのまま乱暴に振り捨てられ、地面に叩き付けられるイチカ!!
「――“超噴射”!!」
“古代の叡智の盾”先端を突撃しながら叩き付け、黒の異形を森の中へと突き飛ばす!!
「おい、すぐにイチカを治療しろ!」
命令する形となったため、また何かごねるかと思いきや……二人はただ、呆然と怯えるばかり。
――使えない。
「頼む、ナターシャ!」
「お任せを!」
すぐに魔法で治療を始めてくれるナターシャ。
「エルザ、敵の特徴を教えてくれ!!」
メルシュからは、あんな厄介なのが出て来るなんて聞いてない!
「……解らない。少なくとも、ライブラリに存在していない」
あれは、モンスターじゃないのか?
「使っているスキルや装備は!」
「ダメだ、なにも出て来ない!」
完全なアンノーンに襲われてるとでも言うのか!!
「――クレーレ!!」
この短時間で、吹っ飛ばした方とは逆の方向に回り込んだだと!?
「――“獣化”ッ!!」
一番反対側にいたクレーレの胸が貫かれる瞬間、常軌を逸した再生能力を持つ雪豹の人獣形態へ!!
『グッ!! ――掴まえたよッ!!』
胸を貫いた尻尾を掴み、逃げられないようにするクレーレ!! ――なんて無茶を!!
「“悪夢魔法”――“直情の激発”!!」
神代文字を流し込んだクオリアの一撃が決まり、異形の左半身が大きく吹き飛ぶ!!
「もう離せ、クレーレ!!」
『ごめん……ちょっと休む』
クレーレが手を離すと、尻尾を抜いて逃げようとする黒の異形。
「――――“神代の天竜”」
青白き竜を纏い、動きが鈍った異形に掴みかかり――森を抜けた場所まで突撃――土の地面の下敷きにする形で墜落した!!
「お前は……許さない」
ホタル達の手前、神代文字は極力使わない事にしていたけれど――コイツ相手には手を抜けない。
鎧にも“サムシンググレートソード”にも十二文字刻み、奴の一挙手一投足を観察。
『ガァ……ぁ』
「……まさか、コイツもか」
黒い影のような物を纏う内側で、人間の血肉のような物が蠢いて再生していく。
俺達が離れ離れになる切っ掛けを作った、靄から現れた異形の男と同じ……壊れたプレーヤー。
『“時空魔法”gk4っp――ムーブメント』
気配が一瞬で消えて、後ろ側の頭上に突然現れた!!
ほとんど反射的に振るった剣で、さっきまでよりも凶悪なフォルムとなった異形の爪を弾く!
十二文字刻んだ時の反射神経でも、対応が厳しい。
「長引くだけ不利か――なら!!」
鎧と剣の文字を十五文字まで上げ、一気に終わらせることにした!!
「“偉大なる英雄の黄金翼”――“神代の剣”――“飛翔”!!」
“飛翔”の推力を突進力として利用し、青白い刀身を纏わせた剣を突き刺す――鋭くなった両手の爪で止められているだと!!?
「――このッ!!」
連続で剣を振るうも、赤黒いオーラを纏い始めた異形の爪は俺の攻撃に耐え続けている!?
振るう度に粉塵が舞い、地形を変えていくほどの剣撃を、只の爪で受け続けられるなんて!!
「――しま!!」
剣の横っ腹を蹴られ、完全にバランスを崩されてしまった!!
「――“神代の戦略砲”!!!」
奴が背後に気を取られた瞬間、俺は翼の推力を利用し――必死に青白い砲撃を避けるッッ!!
爆音と衝撃波に包まれながら派手に吹き飛ばされ、地面を転がった先で見たのは……“ガリバーの眼”とは違う、機械斧に十二文字を刻んだ……ホタルの姿だった。




