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54.兎獣人リンピョン

 石畳が、どこまでも続いている。


 川が流れていて、その上には石の橋が掛かっていた。


「広すぎるな」


 どの建物にも入れるみたいだし、探す範囲が広すぎる。


 しかも、普通の民家に入っても別になにかが手に入るわけじゃない。


 情報は手に入るけれど既にメルシュから聞いたことばかりだし、特に目新しいネタは無し。


 石橋の下を覗いたり、迷路みたいな路地を歩いたり。


「居ないか」


 もう大分経つけれど、メシュは見付からない。


 分かっていたことだ。メシュがこの街にいたとしても、見付けるのは難しいと。


「さすがにメルシュも、特定のNPCの所在までは知らないみたいだし」


 メルシュは、他の隠れNPCの入手方法も知らないらしい。


「……のどかだな」


 川の流れる音。吹き抜ける風。NPCが生み出す生活音。


「ここで暮らしたい気もするけれど、ペナルティーがなー」


 Lvが上がらないまま十日経つと、有り金の半分が消えるらしい。


 その十日後にはまた半分。


 探索場は途中で戻る事が可能だけれど、そうすると経験値以外全て消えて無くなるらしいし。


「村より物価も高いし、宿に泊まらないとリザードマンに夜襲われる。探索場は一度クリアすると入れないし」


 留まれば金が無くなり、遅かれ早かれ進まざる終えなくなる。


「ダンジョンを脱出しようとしない人間に待つのは破滅……か」


 まあ、このNPCだらけの街に一生っていうのもつまらないしな。


「変化は、恐ろしくも刺激を与えてくれる」

「詩人ですね、コセさん」

「うおっ!!?」


 いつの間にか、魔性の女が背後に立っていた!


挿絵(By みてみん)


「…………えと……」


 名前が出てこない。


「もう! サトミですよ! サトミ!」

「ああ、はい」


 基本、覚える気無いんだよな。


 だってさ、人の名前覚えるって屈辱じゃん!


 俺の人生に、他人がズケズケと刻まれる感じがして嫌なんだよ。


 トゥスカを俺の人生に刻む事に関しては、一切の抵抗は無いけれど!


「どうです、この帽子! 似合います?」

「ええ、まあ」


 緑の、いかにも魔女が被る感じのトンガリ帽子。


 実際、その魔性の雰囲気にはよく合っていた。


「コセさんお一人ですか?」

「ええ、別行動です」


 早くどっか行ってくれないかな。


 かなりの黒髪美人だけれど、だからこそ……その雰囲気と相まって恐怖を感じる。


 協力者と考えると、悪くはないんだけれど。


「サトミさんは?」

「実は……」


 急に気を落とすサトミさん。



「……私の仲間は、全滅しました」


 

「え?」


 あり得ることなのに、驚いている自分が居る。


 いつ誰が死んでもおかしくない……この世界でなら尚更。


「そうでしたか」

「はい……」

「!?」


 ――サトミさんが、俺に抱き付いてきたー!?


 彼女の手が、俺の胸をさすっていく!


「怖くて……偶然コセさんを見付けて……声を掛けてしまったんです……迷惑ですよね、彼女さんが居るのに」



「――そうですね」



 サトミさんを引き離す。


「嘘でも本当でも、貴方のしていることは(たち)が悪い」

「あれ、バレちゃいました?」


 あっけらかんと笑って離れるサトミさん。


 半信半疑だったけれど、胡散臭かったんだよな。


 手で身体をさすってきたところで、嘘ではないかという疑念が強くなった。

 

「さっすが~。その辺の男なら、今のでイチコロなのに♡」


 可愛らしく首を曲げ、自分の唇に触れ、妖しく微笑むサトミさん。


「怒っても良いですか?」


 さすがに、仲間の死の虚言なんてやり過ぎだ。


「まあまあ。ちなみに、私のお友達は全員、無事に第三ステージに来てますよ♪」

「ちょっと、サトミ様! 勝手に居なくならないでくださいよ!」


 現れたのは、白い兎耳を付けた青髪ツインテールの美少女。


 格好は――ほとんど裸の青い服!


 この服、トゥスカに服を買ってあげるときにリストにあった”獣人の勝負服”じゃないか!!


 穴だらけのライダースーツみたいなデザイン。


 ……こんな物を着るなんて、この子は痴女なのか?


「この子、村で買った兎獣人のリンピョンちゃんていうの♪」

「だ、誰だ、貴様!?」


 リンピョンという名の美少女が、小さな盾くらいの十字の手裏剣のような物を構える。


 あの手裏剣、左腕のアームカバー? にくっ付いているらしい。


「落ち着いて」


 露出カ所が多すぎて目のやり場に困るから、動かないで欲しい。


「やめなさい、リンピョンちゃん。この方がコセさんよ」

「コイツが!!」


挿絵(By みてみん)


 さっきより襲ってくる気満々になってるんですけど!?


「――リンピョン?」


 サトミさんがリンピョンの顎を掴んで、彼女と至近距離で目を合わせる。


「やめなさいと言ったわよね?」

「はい、ごめんなさい♡」


 羞恥に頬を染める兎獣人。


 もの凄い百合オーラが出てる!?


 この二人の関係って……。


「ごめんなさいね。この子、私が男の人と仲良くしてるとすぐに暴走しちゃうの♡」


「……その格好は、その子の趣味なんですか?」

「――み、見るなぁぁ!!」


 すぐに身体を丸め、全力で隠すリンピョン。


 どうやら彼女の趣味ではないらしい……ちょっと安心した。


「とっっっても――エロ可愛いでしょ?」


 サトミ、やっぱりアンタの趣味か! 

 しかも、もの凄い目をキラキラさせている!


「リンピョンちゃんも気にいっているわよね?」

「さ、サトミ様がそうおっしゃるなら……気に入ってます♡」


 本当は嫌なのに、サトミさんの命令だから着ているのか。まさしく魔性の女の所業だ。


 しかも男女関係ないとか、本当にヤバイ女だな!


「俺、用事があるからこれで」

「あ、待って、コセさん!」


 身の危険を感じ、俺は二人から逃げるようにその場を後にした。



●●●



「フンフフフーン♪ フンフフフーン♪」


 キメラをさっさとぶっ倒して戻ってきた。


 まだタマもジュリーも戻って来ていないから、NPCしか居ないギルド内で喜びのダンスを踊っている!


「あーしたは結婚式♪ あーしたは結婚式♪」


 アイテムのためという建前だけれど、コセと結婚出来るー♪


「ユリカ、結婚すんの?」

「へ?」


 ……――アヤとメグミ!!


 二人とも、装備が前よりも良い物に変わってる。


「ふーん、結婚するのか」

「ねー、誰と結婚すんのー?」


 メグミとアヤに退路を断たれた!?


「えーと……」


 抵抗虚しく、洗いざらい喋らされてしまった……クソ!



●●●



 ジュリー達三人は、無事に宿まで戻ってきていた。


 結局、俺もトゥスカ達もメシュを見付ける事は出来ず。


 そして一夜が明け、教会前に移動したのだけれど……。


「……なぜ居るんです?」


 サトミさん率いる四人組が、なぜか教会の前に!


「そんな事はどうでも良いではありませんか♪」


 良くねぇよ!


「まさか……四人も一緒に婚姻の儀を行うとか言いませんよね?」


「残念だけれど、メグミちゃんとアヤちゃんは参加しないんだって~」

「つまり……」


 昨日の兎痴女に視線を向ける。


「フン!」


 結局、二人追加かよ!


「ジュリーちゃん達の許可は取ったわよ?」


 ジュリーを睨むと、瞬間的に顔を背かれた。


「……ごめんなさい」


 謝ってきたのはユリカ。


「私が……喋っちゃった」

「……そうですか」


 コイツ、やっぱり嫌いだ!


「まあまあ、お金はちゃんとこっちで払うから♪」


 とんでもない事になっってしまった。


 なにが悲しくて、六人と同時に結婚しなくちゃいけないんだ!


 同時じゃなければ良いって事じゃないぞ?  俺はトゥスカ一人だけで良いんだからな!


「さあ、早く式を始めましょうよ♪」

「そうですね、サトミ様」


 サトミさんを始め、皆が教会内部に入っていく。


「それで良いのか、お前ら……」


 俺、安っぽい女は嫌いなのに!!


作者は昔、ハーレム物が嫌いでした。


リンピョンのAIイラストですが、本来はヘソや肩など、たくさんのカ所がちょっとずつ露出するイメージでした。

試行錯誤を繰り返しましたがなかなかイメージ通りにいかず、妥協した次第です。

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