528.古代戦士のホタル
「お連れしました」
ナターシャが、ホタルとアスラの隠れNPC、イチカの三人を連れて”神秘の館”の前へ。
「ようこそ。席に着いてくれ」
門の内側、玄関前に用意した外用のテーブルと三つしか用意していないイスへと案内。
「ワイズマン……まさか、お前が居るとは」
「メルシュよ、アスラ。そっちは?」
「ああ、そう言えば自己紹介してなかったか。マズダーという」
女の子っぽくない名前だな。
「元ネタから取ったんだ。アスラ・マズダからね」
前の大規模突発クエストで奪ったわけではないらしい。
「ところで、家の中に居るのは全員、女?」
ホタルに言い当てられる。
「ああ、小さい子も居る」
言外に、だから館に入れたくないと伝えた。
「気配が、思っていたよりも多いですね……」
その気配が全員女だと知ったからか、怪訝そうな二人。
「……何人か呼んで来ようか?」
ジュリー達に会えば、妙な疑念も解けるだろう。
「……いや、遠慮しておく」
「ええ、本題に入りましょう」
後ろめたい人間関係などないと、伝わっただろうか。
「コセ……その人達、だぁれ?」
「へ?」
いつの間にか、モモカが隣に!?
「……協力する予定の人達だよ」
「コセの新しいお嫁さん?」
「「…………」」
空気が凍った。
「いや、違う」
と言っているうちに、膝に乗ってくるモモカ。
「なるほど、そういう集まりか」
「ある意味、少し安心しました」
意図しない方向で人間関係が伝わったらしい……モモカに感謝すべきなのかどうか。
「ああ……こっちの準備は整った。明日の朝五時にダンジョンである山の麓に集合……で構わないか?」
「ああ、問題無いよ」
「はい、大丈夫です」
この二人は、信用できそうなんだけれど……。
「それで、先陣は俺達が担当する。獣による移動手段はあるか?」
「こちらは大丈夫だ」
「私の方も問題ありません」
これで、時間に余裕が持てそうだ。
「明日は、最低でもボス部屋手前のポータルまでは行きたい。強行軍になるのは覚悟してほしい」
三十九ステージの攻略についての話はあっという間に終わり、一時間と掛からず解散となった。
●●●
「すみません、遅れました!」
イチカ達三人が、予定より三十分も遅れてやって来る。
「ハアハア、クソ」
いきなり悪態をつくシンゴ。
コイツは相変わらずだな。
「……すぐに出発の準備を」
コセ達は、二頭と三頭の黒犬にバイオウルフを呼び出し、二人ずつで搭乗。
「“賢馬”」
私は“ガリバーの眼”の能力の一つを使用し、白い鬣持つミルクコーヒー色の馬を召喚。マズダーと共に跨がる。
イチカは指輪で呼び出した白い軍馬に、あの二人はランクの低そうな黒馬を呼び出して一緒に搭乗した。
「遅れた分を取り戻す!」
「言っておくけどな、急にこんな早くに出発とか言いだしたお前が悪いんだからな!!」
コセに食ってかかるシンゴ。
「すみません、私がもっと早く伝えていればこんなことには……」
シンゴを庇い、場を治めようとするイチカ。
「ふざけんな! 俺は恥をかかされたんだぞ! アイツが謝るのが筋だろうが!!」
コセのパーティーメンバーの空気が変わる。
まあ、遅れてきた奴が謝るどころか、逆に謝罪を要求しているのだから当然だろう。
「そ、そうよ、謝りなさいよ!!」
依存体質の腰巾着女が。
コイツらがイチカの雇い主でなければ、手を組む気など無かった。コセ達という協力者を得た今ならば、切り捨てても良いとすら思える。
……二人に助け船を出してやるか。
「なら、まずは遅れてきた事を謝罪するんだな、シンゴ。私達も、お前達に苛立っているのだから」
「く!!」
「すみません、ホタルさん。悪いのは全て私です」
そこでなぜお前が庇うんだ、イチカ。
「遅れた分は、道中の働きと私が手に入れたアイテムで補償しますので」
「……イチカ、お前」
なぜお前はいつも、そんなにも盲目的な献身に走るんだ……。
「さっさと進むぞ」
コセを先頭に、槍の陣形で出発する六人。
私は馬で、梟鳥人であるオゥロは自身の翼で、すぐにコセ達を追い掛ける。
「ガキのくせに偉そうに! 協調性の無い奴!!」
ブーメランを連発するのが好きな奴だな。
チョイスプレートに○この先、後戻り出来ませんと出た次の瞬間には、簡易な門のような物を通り過ぎていた。
「来たぞ!!」
前から現れる獣型モンスターをコセ達が蹴散らしながら、横合いから迫る奴等は自分達で対処。
「“雷撃”!!」
斧の先端から緑の稲光を放射し、右から迫るハレム・レオンの群れを退ける。
「“鞭化”」
得物の“万化のロングソード”を鞭にし、左側から飛び掛かって来る“シーモンキー”を打ち飛ばしていくイチカ。
あの二人は、怯えながらイチカに守られているだけ。
フレンドリーファイアされても困るから戦えとは言わないが、あの怯えようでよく先に進もうと思ったな、あの男。
それだけ死んだ人間を生き返らせたいという事なんだろうが、根性があるんだか無いんだか。
草木のないなだらかな道から、次第に険しくなっていく山道。
「あ、アレを登るのか!?」
シンゴが情けない声を上げる前で、岩場を指輪で呼び出したモンスターで登っていくコセ一派。
先陣を切ってくれているのもあって、頼もしい限り。
「こんなとこ、馬で登れんのかよ……おい、イチカ! 別のを出せ!」
「すみません。他に移動に適したモンスターは……」
「チ! こっちは大金を払ってるって言うのに!」
「使えない女」
あのクズ共……。
「ボサッとすんなし――“半鳥化”」
オゥロが姿を変え、その凶悪な鉤爪で二人を掴んで山の頂上へと飛んでいく。
「グッジョブだ、オゥロ」
「すみません、またご迷惑を……」
申し訳なさそうなイチカ。
「あんな奴等、今すぐ見切りをつけて私に雇われないか? どうせ、大した額は貰えないんだろう?」
収入より支出の方が圧倒的に多いのが見て取れる。
「一度契約した以上、約束を違える気はありません。お誘いは嬉しいのですが、今の契約が切れてから改めて依頼を出して頂ければと」
さっさと白馬で岩を駆け上っていくイチカ。
「……まったく」
あの二人がどうしようもない人間だと気付いているはずなのに、どこまでも尽くそうとするお前は……いったいなにを考えている。
このままではいつか、良いように使われるだけ使われて捨てられるぞ……イチカ。




