523.メインマストの隠し部屋
「……暇だな」
エルザ様が、腕を組みながら辺りを警戒しておられる。
「この場所に留まらなかった場合は、どうなっていたのです?」
興味本位で尋ねてしまう。
「一隻に対し、三隻の海賊船に追われることになる。船ごと沈めれば大量の経験値が、乗り込んで全滅させればアイテムや資金が大量に。海賊に関係する武具ならどちらのパターンでも手に入るらしいが、後者の方が得らしい。一隻拿捕すればSランク武具が確定で手に入るそうだからな」
「その分、時間が掛かってしまうと」
急いでいる私達からすると、後者は選び難い。
「ですが、ならばここに留まらず、さっさと船を沈めてしまった方が早かったのでは?」
「それは――」
クルーザーに接近する気配を感知。
『『『キキ!!』』』
「“悪夢魔法”――ナイトメアミスト」
濃霧を作り出し、上空から飛来する小猿と思われる生物達を一網打尽――潰し殺す。
「容赦ないな、お前」
「必要ですか?」
「いや、無いな――デカいのが来たか」
離れた位置の海面が盛り上がり――無数の蛇……根元は繋がっている?
「イカのモンスター、クラーケンだ。近付かれるとあっという間に船を沈められる」
「ならば私が!」
本日ようやく、役に立てるチャンスです!
「アレは私が引き受けた。お前は船の守りを頼む! ――“咒血竜化”」
「そんな!!」
私の最大の見せ場が!
『船が沈められたら、パーティーメンバー全員が強制ゲームオーバーだ。任せたぞ!』
巨竜となって滑空し、クラーケンにさっそく仕掛けるエルザ様。
「任せたって……嬉しい」
プレッシャーでもありますが、目が視えない私が頼って貰えるなんて!
「――キャ!?」
突然の横からの衝撃により、転んでしまう!
「なにかが船に体当たりを! 鎌鼬!!」
指輪で呼び出した凶悪な鼬に、おそらく巨大魚と思われる海中のモンスターを任せる!
鎌鼬は自力で宙に浮けるため、この状況には打って付け。
“鳥獣戯画”が手元にあれば、擬人化による強化を施すところですが。
――なにかが、海中から船に乗り込んできた!
「船の側面から!」
翼を広げて後部から移動すると、槍――三つ叉の銛で突いてきた!!
「船に攻撃するわけには……」
おそらく人型と思われるモンスターに“反響のステッキ”を振るいながら対抗、左逆手で腰の“切り裂きジャックナイフ”を抜く。
船の壁を駆けながらモンスターを蹴り飛ばし、広い前方デッキへと追いやった――ここなら!!
「――――ハァッ!!」
左腕の装身具、“鬱屈なる感情の発露”に六文字刻み、刀身へと力を流し込んで――人型モンスターを金属の鎧ごと、漏れ出る光刃で両断した!!
「ハアハア。動き回るような立ち回りは、私には向いてな――」
さっきの人型モンスターと同じ気配が三つ、後部と左右両舷から!!
「――“串刺し皇”!!」
無数の杭が、瞬く間に気配を消してしまう。
「思っていたよりも、モンスターの猛攻が激しいな」
「エルザ様!」
もうクラーケンを倒して、戻ってきていたのですね!
「さて、暫くは退屈せずに済みそうだ」
「……ですね」
この気配……まだまだ休めなさそうです。
●●●
○“黒色火薬”×28を手に入れました。
○“大砲”×10を手に入れました。
○“砲弾”×40を手に入れました。
○“炸裂砲弾”×25を手に入れました。
「大砲なんて、どこで使うんだ? 良い的にしかならないだろう」
船の砲撃を行う場所にて、アイテムを手当たり次第回収したわけだけれど……今回も大した物は無いな。
「”大砲”や“砲弾”は、レギオン戦専用アイテムとなります」
隣の部屋から戻ってきたナターシャが教えてくれる。
「レギオン戦専用なのに、こういう形で手に入れる事もあるのか」
「はい。と言っても、この“大砲”は城などにしか配備出来ないタイプですね。大金を払えば、櫓などと同様に購入可能です」
九ステージでの模擬レギオン戦で、櫓と通信機だけはジュリー達がお金で揃えていた。
「レギオン戦か……」
レギオン戦もどきみたいなのは経験したけれど、人間同士の……本当のレギオン戦はまだ未経験。
と言っても、こっちからレギオン戦を嗾ける事はまず無いだろうし、たとえ向こうから仕掛けてきても、了承するくらいならそのまま殲滅した方が後腐れ無くて良い。
今後、本当のレギオン戦をする機会があるのかどうか。
「ナターシャ、そっちの収獲は?」
「“黄金のインゴット”や豪奢シリーズなど、金策になる物ばかりでした。一応、アクセサリー類の高ランクアイテムは色々ありましたが」
船内はろくな収獲が無いな。クレーレ達がなにか手に入れていれば良いけれど。
「残りは船長室か」
「はい、宝物庫の中に“船長室の鍵”がありました」
「よし、すぐに向かおう」
ここまでで大した敵は出て来て居ないけれど、気をぬくつもりは無い。
いつだって、万が一はあり得るのだから。
●●●
「おいしょ、おいしょ」
トゥスカ姉よりも先に、マストを登っていく。
叔母さん呼びは嫌みたいで、姉呼びするように言われちゃったんだよね。
騎士さん達は、マスト下で待機中。
「クレーレ、敵襲よ!」
「アイアイサ!」
腰に差して置いた銀の片手斧、Aランクの“レーザーアックス”を抜いて光刃を生やす。
更に持ち手の下側に追加装備している”レーザーライン・グリップ”部分を持って捻り――突っ込んでくる“ワイルドイーグル”に向かって思いっ切り振る!
すると斧の柄頭にくっ付く形で“レーザーライン・グリップ”から光の紐が伸び、数メートル離れた“ワイルドイーグル”を真っ二つにして仕留めた。
「百発百中~♪」
伸びたレーザーラインはゴムみたいに収縮するから、勝手に私の手元に戻ってくる。
「妙に機械っぽいと思ってたら、そういう武器だったの」
「格好いいでしょー。ちなみに、伸びた光の紐には切断力があるから、気を付けてねー」
天空遺跡って所で手に入れた、私のお気に入り。
順当にマストを登りきり、一番上まで辿り着く。
「開けるわよ」
「うん」
トゥスカ姉が床の扉を開けた瞬間、“氷砕魔法”のアイスクラッシュバレットを放ってから飛び降りる。
「……なぁんだ、何も居ないんだ」
拍子抜けだな~。
すぐにトゥスカ姉も降りてくる。
「……やっぱり、“捨てられた鏡”はないか」
「隠れNPC、メデューサと契約するためのアイテムだっけ?」
「ええ。割れた大きな鏡があると言っていたので、間違いないでしょう。念のため、なにか無いか探すわよ」
引き出しとかを開けて、まあまあ快適そうな円状の部屋を端から端まで見ていく。
○“攫われてきた娘のドレス”を手に入れました。
○“攫われてきた娘の下着”を手に入れました。
「なんで海賊船にドレスや女物の下着があるのかと思ったら」
まったく、胸糞悪くなるなー。
「名前からしてそんなに強くなさそうだし、なんの意味があるんだろう、この布アイテム?」
「クレーレ、そっちはもう調べ終わったの?」
「うん。トゥスカ姉は? 良いのあった?」
「指輪や髪飾りが幾つか。あと、こんなのもあったけれど」
「……なにコレ?」
トゥスカ姉が背後に実体化したのは、金色の棒が何本も輪っかから放射状に伸びている……良く分からない物。
「“降臨の後光輪”ていう装備アイテムよ。何故かSランクみたい」
「へー、これがSランクなんだ……ねー、それ頂戴!」
「メルシュに見せて、他に適性がある人が居なかったらね」
「ええー!! トゥスカ姉のケチ!」
「このレギオンはそういうスタイルなの。ほら、早く下りるわよ」
「ブー、ブー!」
滅多に言わない我が儘なのにー!




