522.ゴーストシップ探索
「もしクエスト開始時に下層に居たなら……あの子は、死なずに済んだかもしれないのですか」
“湖の城”にて、ラフォルさん達の話を聞いたホナミさんが、自嘲気味な反応を返す。
「どうして上層に?」
グダラさんが尋ねる。
「あの子は散歩が好きで……上層は人が少ないから、比較的安全だと思っていたの。攻略に積極的な人達は、大抵は中層でトラブルを起こすから」
この大樹村で暮らしてきた人達ならではの情報。
「私のように、子供だけを失った人は居ないのね」
どちらも生きているか、私が目撃したようにどちらも死んでいるか。
「リストの中にお子さんがいらした以上、必ず生き返らせる事が出来ます」
「ええ、そうね……ごめんなさい、私の都合に巻き込んでしまって」
「いえ、良いんです。他に生き返らせる予定の人達も居ますし」
《獣人解放軍》のメンバーを生き返らせるのは、私達の役目となった。
「ただ、私のパーティーはお子さんを最優先で探しますので」
今のところ、十六人を四つのパーティーに分けて攻略する予定。
「本当にありがとう、レイナさん……でも、無茶はしないでね」
「はい、みんなで生き残りましょう」
自分の優しさから紡いだ言葉が……どこか残酷にも思えた。
●●●
「思っていた以上に不気味な所だな」
ゴーストシップの前方デッキへと辿り着いた俺達が見たのは、穴だらけでボロボロの船の姿。
けれど、小さな一軒家くらいなら余裕で置けそうなほど幅広い。
ナターシャも、すぐに“ジェットウィングユニット”でやって来る。
「装備セット2」
すぐに銀の背部ユニットを消し、槍ではなく“ロイヤルロードキャリバー”に持ち替えるナターシャ。
俺も、大剣から“偉大なる英雄の光剣”へと持ち替えておく。
「さっそく頼む、ナターシャ」
「畏まりました――“鋼の騎士団”」
ナターシャと同装備の金属マネキン、四体が出現。
「トゥスカとクレーレは、二体を引き連れて甲板上の探索。俺とナターシャで船内を探索する」
“鋼の騎士団”のおかげで、実質八人で探索可能に。
人海戦術により、この巨大帆船を短時間で探索し、終わらせる予定だ。
「先に失礼します、ユウダイ様」
船内に向かう階段を、騎士団員を最前後に配置し、ナターシャ、俺の順に下りていく。
中は暗くて、人がすれ違える程度はある通路が伸びている。
先頭の騎士団員が扉を開け、俺かナターシャが中を探索していく。
○“海賊のマスケット銃”を手に入れました。
○“海賊のカットラス”を手に入れました。
○“とある王国の貨幣コイン”を手に入れました。
今のところ、大した物は見付かっていない。
「船員の寝室、といったところか」
一つの部屋の両脇に、ベッドが二つずつ縦に並んだ部屋が幾つも。
「武具はBランクばかりですね。貨幣コインは、高値で売れるはずです」
「まあ、そう簡単に高ランクアイテムは手に入らないか」
別の部屋では“海賊のスカーフ”、“海賊のサーベル”、“船員”のサブ職業、“ギルマンのスキルカード”なども手に入るが、いずれも微妙。
「ユウダイ様」
「思っていたよりも遅かったな」
通路の前方より、海賊風の骸骨――“パイレーツアンデッド”が押し寄せてくる。
更に後方、探索を済ませたはずの部屋からも次々と。
「死体は無かったのに、どこから出てきたんだか」
「“鎮魂歌”――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ナターシャの歌声によって広がった光により、パイレーツアンデッドが一掃される。
「アンデッド相手だと、やっぱり“鎮魂歌”の効力は凄まじいな」
“キングファントム”ですら、ほんの数秒光を浴びただけで倒せていたし。
逆に言えば、円柱状の光に触れさえしなければ、どれだけ歌声を響かせても意味が無いということ。
「……もう少し、私を褒めてくださっても……」
「どうした、ナターシャ?」
少し睨まれていたような……ナターシャに限って、そんなはずないか。
●●●
「ここは……食堂?」
デッキ後部を探索したのち、メインマストの手前にある部屋へと足を踏み入れる私達。
「これだけの広さなら、三十人くらい余裕で食事できそう」
「トゥスカ姉、食材やお酒なんかがいっぱいだよ!」
警戒していないのか、さっさと厨房に入って漁っているクレーレ。
「まったく……気を付けなさいよ、クレーレ」
やっぱり、姪というより手の掛かる妹という感じがする。
厨房とは逆側の壁には棚があり、本が並んでいた。
揺れで落ちないようにするためか棚板の下側にガードが付いていて、一度、上部分を斜めにしてからでないと取り出せない。
「“魚影図鑑”に、“セイレーンの恋唄”……こっちは小説?」
本は数十冊はあったけれど、アイテム扱いなのはこの二冊だけみたい。
「デッキ後部には“鍵縄”とか使いどころがよく分からない物ばかりだったけれど、この本は悪くないかも」
「手当たり次第に回収してきたよ、トゥスカ姉!」
「食糧以外になにかあった?」
「“三枚下ろし包丁”ってのがあったよ。あとは、料理のレシピが幾つも。中は見て無いけれど」
武具なんかは、やっぱり船の下か。
「じゃあ、最後にメインマストの上を確認しましょうか」
マストの上部に、部屋らしき物が一つくっ付いていた。ジュリーが言っていた場所は、間違いなく――
「……今頃出て来たか」
「うわ、デッカいネズミ」
丸々と太ったような人の頭くらいあるネズミが、壁や天井の穴から次々と!
『チチィ!!』
殺気だって襲い掛かってくるも、二体の鋼の騎士達が剣で仕留めていく。
「数は多いけれど、大したことないみたいだね!」
斧の二刀流で、次々と飛び掛かってくるネズミを切り殺していくクレーレ。
「“黄昏の影繰り”」
私は兄さんから譲られた斧、“荒野の黄昏に背を向けて”の力で伸ばした影で突き刺し、確実に仕留めていく。
程なくてして、数百匹は居たであろうネズミの駆除が終わった。
「スタンピードラットに比べれば、全然だったわね」
「……」
「なに、クレーレ? そんな不思議そうな物を見るような目で」
「トゥスカ姉ってさ……ギオジィが居ないと、雰囲気が結構変わるなって」
「……へ?」
「もしかして、自覚無かったの?」
「言われてみると……」
ご主人様の前だと、従順な雌になってしまいがちな気も……。




