53.武具ランクに泣く
「ワイズマンのメルシュ……」
奪われたこと、気にしていないと言えば嘘になる。
でも、今からでも彼女を手に入れる方法はある。だから、一応は許せてる。
隠れNPC同士は、トレード出来るから。
「第四ステージで、隠れNPCのアマゾネスを手に入れれば」
けれど、簡単に応じてはくれないだろう。
どうにかして第四ステージまで一緒に行動し、素早くアマゾネスを手に入れ、トレードに応じてくれるだけの人間関係を築いておく必要がある。
昨日一日、ベッドの中で苦悶しながら考えた苦肉の策!!
「そ、そのためなら……ゲーム上での、け、結婚くらい!!」
……こんな羞恥に耐えて手に入ったのが、”低級の婚姻の指輪”だったらどうしよう。
いや、別に良いだろう! そもそも、私達は一度は殺し合った仲なんだから!!
でも、仲良くならないとトレードに応じてくれないだろうし……。
「くぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッ!!」
思わず、シャワー室で奇声を上げてしまった。
●●●
「色んな指輪を手に入れたんだな」
「場面次第で使い分ければ、地味に役に立つよ」
”水魔の指輪”に“雷魔の指輪”、“解毒の指輪”や“鉄耐性の指輪”。
今日手に入れたアイテムを、自室で三人一緒に確認していた。
「“金剛拳使い”のサブ職業と“魔武の指輪”、“金剛の腕の指輪”は私が使うね」
「おう」
メルシュが言うのだから、問題無いだろう。
「……もうちょっと構いなさいよ」
「ん?」
「なんでもなーい」
「ハイハイ」
メルシュの頭を撫でてやる。
年齢は十五歳という設定になっているけれど、小柄で童顔だから、小、中学生に見えなくもない。
「んー……さすが♪」
なんか嬉しそうだ。
「これってどういう物なんですか?」
トゥスカが禍々しい腕輪を摘まんで、メルシュに尋ねる。
「“凶狼の腕輪”。身体強化系で魔法耐性もアップ。ただし、装備すると上級魔法を使えなくなる“上級封魔”の効果があるよ」
「“生活魔法”さえ使えれば充分ですね」
トゥスカは戦士だし、攻撃に有用な魔法は修得していない。そもそも下級魔法しか持っていない。
「”煉獄魔法”は上級だから、俺には合わないな」
「では、私が使いますね♪」
トゥスカがウキウキと左腕に装備する。
好きなんだ、ああいうの。
「トゥスカが手に入れた“暗黒石”は、様々な闇系装備の作成に使える優秀な素材だよ。ヴァナルガンドの素材と合わせると、結構凄いのが出来る。まだ材料が足りないけれど」
「そういえば、ワーウルフの森から戻るとたくさんフルーツが手に入って居ました。明日にでもタルトにしますね♪」
「他にも色々作ろうよ! フルーツの蜂蜜漬けとか♪」
テンション上がってるな、女子二人。
でも、取り敢えず生を味わってから加工してほしい。
「メルシュ、この”滅剣ハルマゲドン”っていうのは?」
禍々しいデザインの黒い大剣。刀身の中心には厳かなブラウンの金属板がくっついている。
ただしこの剣には刃が無く、溝が、波のように湾曲した刀身の周りに入っていた。
明らかに斬る事を放棄している鈍。
「……なんでこんなレア武器が? 大剣のサブ武器としては最高峰だよ!!」
ここ、まだ第三ステージだろ? 全部でなんステージあるか知らないけれど。
「制限条件が大きい程、手に入る武器のレア度は高くなる設定だったけれど、なんでSランク武器が?」
「Sランク?」
「最高位の装備って事だよ!」
でもこれ、使えるのか?
「”終末の一撃”っていう効果が強力なんだよ。それだけしか取り柄が無いけれど、一撃の威力は絶大。なにせ、総TP・MPの半分を消費するからね」
使いどころが難しそうだ。
「普通に振るった場合は?」
「ただの鈍器だよ。中身が空洞の。しかも脆い」
本当に使いどころが難しそう。
「ちなみに、“強者のグレートソード”のランクは?」
「Bランク。単純な性能はBの中でも上位ってところだね」
「……うん?」
俺……今日ジュリーに、”A級武具ランダム袋”×3を渡してしまったぞ!!
「A級武具って……俺達持ってる?」
「武具は……一つも無いね」
……疲れてたんだよ。うん、疲れてたの。
限界まで肉体と精神を酷使した上に、左手の指が吹き飛んだんだぞ。
更に言うと、“兇賊のサーベル”がぶっ壊れて消滅してしまった事に、地味にショックを受けてたし!
「ご主人様……そういえばジュリーに……」
「……ごめんなさい」
一番渡しちゃいけない相手に、強力な武具を渡してしまった!
「なんの話し?」
「ご主人様が、自分の命を狙ってきた相手にA級武具入りの袋を渡してしまったんですよ。それも三つも」
「……アホだ、コイツ」
メルシュに面と向かってアホだって言われた!! メシュに似た顔で!!
「まあ、宝飾品ならAランク以上も所持してるよ。”大地の盾の指輪”とか、“魔武の指輪”とか。私の専用装備であるこの服はS級だし」
「そうなの!?」
「二人が持つ武器、“強者のグレートソード”と”荒野の黄昏は色褪せない”は特殊な武器で、装備者によって能力が強化される”成長解放”効果があるし、ある意味Aランクよりも貴重だよ」
「へー、だからグレートソードの名前が変わった……のか?」
「これの名前も変わる……」
トゥスカが見詰める“荒野の黄昏は色褪せない”……どう変わるのか想像できないな。
「一応言っておくけれど、ランダム袋から出るのはそのランクの中でも下位の物である可能性が高いから」
てことは、“強者のグレートソード”より少し上くらいの性能か?
武器によっては、大剣であるグレートソードより威力は低いかも。
「”鉄の剣”のランクは?」
「最低ランクのFだよ。一応上位」
第一ステージで”グレートソード”が手に入ったのは、奇跡なのかもしれない。
「”A級武具ランダム袋”から、都合良く使えるアイテムが手に入るわけではないだろうし」
フラグを立てた……わけないか。
話しを変えよう。
「サブ職業の”古代竜”っていうのは?」
「上位クラスのサブ職業だよ。どうやって手に入れたの?」
「さあ? 倒したら手に入ったけれど」
痛みで確認している余裕はなかった。
「最高クラスのサブ職業の……この情報はまだ開示出来ないか」
ステージが上がれば、メルシュから得られる情報が増えるのかな?
「コレを装着すると、強力な“古代竜魔法”とかが使えるよ」
強そうだけれど、どんな魔法か想像出来ない。
「魔法なら、メルシュが使うべきか?」
「うーん……私はサポートメインになるだろうし、このサブ職業はマスターが使う方が合っているかな」
トゥスカは上位魔法を使えないし、メルシュ以外だと俺か。
「それじゃあ、私はそろそろ隣に行くよ」
「「おやすみー」」
……なんだかんだで気にしてたのかな、メルシュ……俺とトゥスカの営みを。
★
探索場での戦いから一夜明け、早朝の宿の前に俺達六人は集まっていた。
「”煉獄のネイルステッキ”!」
ユリカが、炎と爪を模した格好いい紫と黒の杖を翳す。
「“群青の大槍”!」
タマが、群青色の大袈裟な穂先を持つ大槍を構える。
「“パチモンのトールハンマー”……なんで私だけ」
ジュリーだけ、本人に合っていない武器が手に入ったらしい。金色の巨大ハンマー。
しかも、パチモンって名前に入ってるし。
「じゃあ、気を付けてな」
「私がちゃんと弱点とか伝えて置いたから、大丈夫」
そのために、昨日は向こうに泊まったのかな? そうだと思いたい。
「じゃあ、行ってくるわ!」
「行ってきます」
「……」
ジュリーだけが、沈んだ顔を浮かべている。
「ジュリー!」
声を掛ける。
「ん?」
「行ってらっしゃい」
「い、行ってきます……」
俺以上に、ジュリーの方が殺し合いをした事を気にしているのかも。
「……面倒くさい奴」
「じゃあ、私はトゥスカと一緒に必要な物を買い揃えれば良いんだよね、マスター?」
「ああ、頼んだよ。行ってらっしゃい」
「「行ってきます!」」
二人は、これから食糧などの購入に。
俺はというと、一人でメシュを探しにいく。
今日一日探し回って見付からなければ、俺とトゥスカは諦める約束をしていた。
この街にメシュが居ても居なくても、虚しい想いをする事に変わりは無いだろうけれど……探さないという選択肢は、俺達には無かったから。
ジュリー達を活躍させたかったのか、いつの間にか一緒に行動させる方向の話に。
第2章の執筆を始めた時は、三人だけで攻略を進めさせるはずだったのですが……