518.魔神・水晶鮫
「三十七ステージのボスは、魔神・水晶鮫。弱点属性は古代、有効武器は銛、危険攻撃は“水晶魔法”のクリスタルバレットとなります」
説明してくれるナターシャ。
「ステージギミックは、ステージ両端の水槽。そこから海水が流れ込むと同時に“バイトシャーク”が無限に乱入して襲ってきます。床はすぐに浸水しますので、飛行手段が必須となります」
完全記憶能力があるためか、俺よりも細かく説明している気がする。
「よし、行こう」
青と藍色の紋様の妖精にお供えをしたのち、六人でボス部屋の中へ。
扉が閉まると、奥でギラギラした藍色ライン光が走って行く。
「ユウダイ様」
「武器交換――“雷霆の神剣”」
黄雷を打ち固めたようなSランクの大剣を、ナターシャへと渡す。
「“鋼の騎士団”」
ナターシャの金属製装備を纏ったマネキンのような物が、四体現れる。
「それでは、行って参ります――“超噴射”」
「気を付けてな!」
ナターシャが“ジェットウィングユニット”で飛び立った直後、両脇一面を覆う水槽に穴が開き、水が大量に流入して来た。
水槽には、いかにも凶暴そうな大鮫が多数見受けられ、徐々に大きくなっていく穴からいずれ、俺達が居るこの空間へと入り込むことになるだろう。
「……少し手伝うか」
“サムシンググレートソード”に九文字刻む。
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「とっとと仕留めさせて頂きます」
私の有用性を見せ付けるチャンスなのですから!
空を泳ぎ回る水晶鮫へと、編隊を組みながらの“超噴射”による急接近。
――さっそくの危険攻撃、鋭い水晶の雨を“ロイヤルロードシールド”で発動したパラディンブロックで防ぎながら――尚も接近を試みる!
「――“天罰の雷”!! ベクトルコントロール!!」
エルザが放った“雷鳥の天罰槍”が逆アークを描きながら飛翔――魔神・水晶鮫の腹部を下から貫く。
おかげで魔神の動きが止まったとはいえ、余計な真似を!
今夜、ユウダイ様のお情けを貰うのは――この私です!!
「“雷霆魔法”――ケラウノススプランター!!」
私を含めた五人分の雷を浴びせます!
「まだ、仕留めきれませ――――」
神代の力……ユウダイ様の力が、私に流れ込んでいる!?
「さすがです、ユウダイ様」
この距離で、他者に力を分け与えられるとは!
「“雷霆剣術”――――ケラウノスブレイク!!」
神代の力を乗せた俗物的神の雷を五つ炸裂させ――魔神・水晶鮫の身体を砕き壊し……光へと変えました。
○おめでとうございます。魔神・水晶鮫の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★水晶鮫の三角歯鋸 ★霊属性強化のスキルカード
★サブ職業:水晶魔法使い ★水晶鮫のトゥースガントレット
○これより、第三十八ステージの海上連結船に転移します。
今夜こそ、私はユウダイ様に抱いて頂けるでしょうか。
●●●
「キクル達が、第二大規模突発クエストに参加?」
海上連結船に転移後、すぐに戻ってきた俺達は、メルシュを交えてザッカルの話を聞いていた。
「キクル自身は元々出たかったらしいし、俺も、内容を知った今となっては悪くないと思ってるぜ」
ザッカルから、一枚の紙を渡される。
「大樹村にあった白いテントで貰ったもんだ」
「てことは、もう手続きしたんだな」
ルールは、参加手続きをした者にしか明かされないと明言されていた。
「大勢で参加した方が、有利そうな内容だったんでな」
○開催日時は、六月二十二日の04:11。
○参加するステージごとに別空間に転移され、強力なモンスターの襲撃に耐えながら生き返らせたい人間の墓を曝く。制限時間は三時間のみ。
○生き返らせた人間は強制的にパーティーリーダーの奴隷となるため、パーティーに空きが無ければ蘇えらせる事は出来ず、生き返らせるためのアイテム、“命の砂時計”は一人一つ、NPC以外の人間にしか与えられない。
○クエスト開始後はパーティー編成を変えられず、パーティーごとにランダムの場所に転移されます。
「パーティーの数を減らしすぎれば危険で、減らさなければ生き返らせられる人数も減る……か」
……まずいな。俺のパーティーはトゥスカ、メルシュ、ナタ-シャの三人が奴隷扱い。パーティーを分散する場合、クオリアとクレーレだけになってしまう。
そこまでしたとしても、NPCには復活アイテムが渡されない以上、生き返らせられるのは四人だけ。
キクル達が参加する事になったのは……運が良かったのかもしれない。
「どっちが誰を生き返らせるのか、決めておいた方が良さそうだな」
「ザッカル、例の物をマスターに見せてあげて」
「例の物?」
ザッカルの顔に、不穏な影が落ちる。
「これだ」
ザッカルが見せてくれたチョイスプレートに表示されていたのは、様々な種族の女性の姿。
「生き返らせられる人間のリストだ。表示を変えれば男も出せるが……見て欲しいのはここだ」
ザッカルが指し示した部分に書かれていたのは、身長や年齢などのプライバシーな情報と、その女性達が死亡時に所持していたと思われる所持品の名前。おまけにランクまで表示されている。
「Lv82? ……そうか、俺達よりも上のステージで亡くなった……」
「このプロフィールデータなんだけれど、どうやら、手続きしなくてもテントで貰えるらしいんだよね。クエストが終わるまでの限定らしいけれど」
「生き返らせた人間を奴隷に出来るって言うのは、NPCによる口頭で既に広まっているようだった。たぶん、他のステージでもそうなんだろうぜ」
「……なに?」
それってつまり……。
「単純に知り合いを生き返らせたいだけじゃなく、様々な理由で参加する人間が居るかもしれない……てことか」
死人が持つレアアイテム目当てならまだマシな方で、邪な理由で墓あらしをしようって輩が……アオイ達を生き返らせようとする可能性が出て来たって事に……。
「……こういう醜悪さに関しては、観測者の奴等は一流だな」
「ルイーサ……聞いてたのか」
「コセ……」
その隣にいたアヤナは、かつてない程に不安そうで……。
「……早いうちにルールを知れたのは行幸だった。ザッカル達も参加してくれる以上、アオイを生き返らせられる確立はむしろ上がった」
それに、今ならまだ……打てる手は色々ある。
「コセ……助けられる……よね?」
「……全力を尽くすさ」
アヤナに、大丈夫……とは言ってあげられなかった。




