514.爆炎人魚のマリン
「――“創光鎚”!」
魔法の杖としても武器としても性能が高い“武魔の聖杖”に、キクルさんが突発クエスト・虹の城で手に入れてくれたユニークスキルで青い光のラインによる大鎚を生成――“悪性の茎人”を蹴散らします!!
私の弱点、近接戦闘を補うためにキクルさんが譲ってくれた力。
『ギギ……』
「――“聖水鳥”!!」
再び動き出す前に、聖なる水で出来た大鳥をぶつけてトドメを刺す。
「“伸縮”――“八雲棒術”、クラウドブレイク!!」
紅い“如意棒”を伸ばして茎人にぶつけながら、武術スキルを炸裂させるハヌマー。
「――“咎の拳”!!」
黒く禍々しい拳を右拳に纏わせたのち、高速で撃ち出して倒してしまう。
「“爆炎鞭剣術”――バーニングウィップブレイド!!」
右腕の甲手から剣を鞭のように伸ばし、荒れ狂う炎を纏わせた刃で両断――一撃で倒しきるマリン。
「やはり、炎に弱いようね――ゲホッ、ゲホ!」
「マリン! ゴホ!」
「二人もっすか、ケホッ!」
三人とも、咳が止まらない。
「ああー、クソ。涙や鼻水まで出て来たっす」
「目が痒いのは、地味に厄介」
「二人とも、花粉ゲージは? 私は23%」
「27%」
「……32」
一番低いのが私で、一番高いのがハヌマー。
「やっぱり、接近戦が多かったハヌマーが一番……」
「ハヌマー、高い場所に避難した方が」
マリンが気遣いの言葉を発した瞬間――遠くから、誰かの名前を悲痛に叫ぶ女性の声が!!
「言ってられる状況じゃねぇだろ」
「……ですね」
このステージには、何故か女性と子供が多い。
おそらく、この世界に来てから産んだ子供。
『球根の数、残り40』
「……手分けして探しましょう」
危険を犯してでも、早急にこのクエストを終わらせなければ!
「よし! 私はこのまま真っ直ぐ! レイナは右周り、マリンは左周りだ。良いよな?」
「はい!」
「二人とも、気をつけて」
少しでも犠牲者を減らすべく、私達はそれぞれの方向へと駆け出す!
●●●
「伏せて――“風車魔法”、ウィンドミルトルネード!!」
緑の竜巻を放ち、十字路で母子に襲い掛からんとする植物人間共を――纏めて上空へ!
「ディア!」
「“混沌魔法”――カオスレイ!!」
黒と白の光線が混ざり合い、一つの光芒となって七体の“悪性の茎人”を消滅させた。
「た、助かりました」
「ありがとうございます!」
「まだ油断せず、家の中へ」
遠くの壁に、モクモクと花粉を吹き散らす球根が複数、一カ所に群生しいているのが見える。
「わざわざ、突発クエストに小さな子達まで巻き込むなんて!」
エルフではないとは言え、幼子が無力に命を奪われるなんて――許されることじゃない!!
「ラフォル様、花粉ゲージは?」
「へ? ……18%」
「私は21%。ですが、それでもお気を付けください」
「まだ、もう一波乱あるって言いたいわけですね。私も同感だけれど」
『球根の数が25まで減ったのを確認。益々の危機的状況下に置かれた“悪性の球根”達は――“悪性の大輪”と成る!』
視界に入っていた球根の群生が突如蠢き――黒いエキスを噴出して――腐った花のような頭を持つ人型の化け物へと変貌していく!?
「強化は……一度だけじゃなかったのか」
しかも、花粉を撒き散らす量が更に増した。
「一気に仕留める。ディア、援護を!」
「畏まりました」
“栄光の杖”を構える、ホーン族として造られたディア。
同族よりも頼りに感じられる事に、妙な気分が込み上げて来てしまう。
――壁を蹴って、“悪性の大輪”が高速で突っ込んできた!!
「“黒曜盾”! “大地盾”!」
ディアが二つの盾を召喚と同時にぶつけ、直進を阻んでくれる!
「“咎の一矢”」
弓に、黒の矢をつがえて狙う。
「――“風車弓術”、ウィンドミルブレイズ!!」
盾と盾の隙間を突き、胸を貫いて腐った身体の大半を飛び散らせた。
「咎はやり過ぎかとも思ったけれど、良い判断――」
『――ギギャァァァッッ!!』
――身体が、一瞬で再生した!!?
盾を潜り抜けて、こっちに来る!!
「“大地魔法”――グランドバースト!!」
樹木の橋のはずなのに、足元から大地が生えて上空に打ち上げた!?
「ラフォル様、今のうちに! “黒曜石魔法”――オブシディアンバレット!!」
黒石の槍が、無数に飛ぶ。
“咎の一矢”でダメなら、それ以上の攻撃力が必要。
「――“同系合成”」
キクルさんが、私向きだからと貸してくれたユニークスキルを発動する。
「“紅蓮矢”、“暴風矢”、“氾濫矢”」
同系統のスキルを銀の矢に重ね掛けし――強化していく。
「“泥爆弾”!」
指輪から泥玉を連続で撃ち出し、再び動きを止めてくれるディア。
「――――くたばれ!!」
“アールヴの風弓”より、三属性が込められた矢を放つ!!
『ギ――――』
「――お見事」
僅かな手脚だけを残し、“悪性の大輪”の身体を綺麗に消し去って……光に還した。
「……ありがとうございます、キクルさん」
少しずつかもしれないけれど……私、前に進めている気がする。
『下層の“悪性の球根”が、全て取り除かれました』
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『下層の“悪性の球根”が、全て取り除かれました。よって、下層は安全エリアとなり、クエスト終了まで中層とは行き来が不可能となります』
今までの偉そうな女とは違う、無機質な声が流れる。
「ようやく、光明が見えてきたようね」
右腕の“肥生な脆刃の剣甲”を鞭のように操り、“悪性の大輪”を牽制。
「“肥生”! “爆炎鞭剣術”――バーニングラッシュレイド!!」
甲手に収納された刃を肥大化し――連続で爆炎の鞭刃を叩き付ける!
「――“脆刃”」
刃が深く斬り込んだ瞬間に剣甲の効果を発動――燃える刀身が折れて、腐った植物人間を持続的に内側から焼いていく。
「“樹液弾”!」
足元に黄色の粘液を当て、樹の地面へと固定。
「“爆炎魔法”!!」
同時に左腕の赤き剣甲、”平然と浮かべられた笑顔を引き裂け”に全力で六文字を刻み――烈火の魔法陣へと力を流し込む!!
「――バーニングブラスター!!」
火炎の柱を浴びせ――コイツ、まだ動けるの!?
「“二刀流剣術”――クロススラッシュ!!」
文字の力を乗せた剣甲から伸びる刃を交差させ――――“悪性の大輪”を四つに切り裂いて……ようやく仕留め切った。
「ハアハア、ハアハア。六文字で……これか」
まだ、グダラほど自在には扱えない。
「属性相性で私はなんとか乗り切れたけれど……二人は大丈夫かな?」
既に、花粉ゲージは52%。大輪と戦闘する前に確認した時は、40以下だったにも関わらず。
「……急がないと」
中層には、あと何体の植物人間が居るのか。




