512.神代の直情
「ヒュー!! ハッヤーい!」
俺のストリームバイクの後ろで、はしゃいでいるクレーレ。
背後には、“怪物の牛の番犬”、オルトロスに乗るトゥスカと、“地獄の番犬”、ケルベロスに乗るクオリアとナターシャ。
エルザは予定通り紅の竜となって、少し先行気味に上空を飛行してくれている。
「……ふむ」
「どうかしたの、ギオジィ?」
「いや、今更ながら、バイクに乗りながらの戦闘は難しそうだなと」
ハンドルを回す分、生物に跨がって戦うよりも意識を割く事、戦術を制限する要素が多い。
自分で直接動かしている分、臨機応変な対応はしやすいけれど。
「だい――じょーぶ! 敵が出て来たら、私が全部倒しちゃうから!」
「頼りにしてるぞ、クレーレ」
なにかあったらすぐにカバーに入れるよう、心構えだけはしておこう。
――前方にて、強大な衝撃が起こる!!
「今の、エルザの攻撃か?」
「ギオジィ、来たみたい」
左崖の上に狼、いや、黒斑の犬モンスターが大量に現れた!
「マッドハウンドです!」
すかさず教えてくれるナターシャ。
「数が多いな」
――マッドハウンドが、一斉に崖を飛び降りて来た!!
「“二重魔法”、“悪夢魔法”――ナイトメアバットズ!!」
大量の黒コウモリが犬達に纏わり付き、動きを封じてくれる!
「クオリアか」
「ご主人様、海からも来ます!」
右側の水面から飛び出して来たのは、吸血皇の城で戦った黒い魚人、ブラックギルマン。
しかも、あの時とは比べ物にならない数!
「装備セット3――“二重武術”、ハイパワーブーメラン!!」
“荒野の黄昏は大いなる導”と“古代王の転剣”を繰り出し、機先を制するトゥスカ。
「さすがトゥスカ姉! 私も負けてられない!」
神代文字を、トゥスカから譲り受けた青緑の投げ斧――“雄大なる大地の風”に刻むクレーレ。
「“氷砕武術”――アイスクラッシュトマホーク!! ――ベクトルコントロール!!」
軌道を操り、効率的にブラックギルマンを葬っていく。
「やるな、クレーレ」
「えっへん!」
前方では、未だにエルザがなにかに攻撃を続けていた。
「“光線魔法”――アトミックシャワー!!」
何故か後方に攻撃している様子のナターシャ。
「前だけじゃなく、後ろからも来ているのか……容赦ないな」
まさかとは思うけれど、俺達が乗り物に乗って高速で進むことで、余計に大量のモンスターを呼び寄せているわけじゃないよな?
ここがゲームを再現した世界だと考えると、意外とありそうなのが……。
「ギオジィ、上!!」
天井の岩が割れ、白い巨大ワームが――歯がビッシリと生え揃った赤い口を開けて墜ちてくる!!
「“魔力砲”!!」
「「“光線魔法”――アトミックレーザー!!」」
トゥスカ、クレーレ、ナターシャの放った光がワームに直撃するも――止められないッ!!
「“悪夢魔法”――――“神代の直情”」
放たれた青白い光が三人の光を呑み込み混ざり――墜落する前に白ワームの巨体を……蒸発……させてしまった……。
「……危なかった」
俺とクレーレだけなら速度を上げて回避も出来たけれど、その場合、三人のうちの誰かは死んでいたかもしれない。
「今のって、クオっち?」
「ああ、たぶんな」
あんな能力は初めて見たけれど。
「ギオジィの女って……凄い人、多すぎぃ!」
「女じゃなくて妻って言いなさい」
人聞きが悪いから!
●●●
『フー……凄い場所だな、ここは』
大樹村へと到達した俺達が巨大な枝の通路を通って見た物は、大樹の中に築かれた圧巻の光景。
「樹の中に町……あまりにも異様な」
『グダラには、あまり好ましくない光景か?』
オリジナルプレーヤーの俺としては、映像の中の世界に入り込んだ故の感動があるんだが。
「海や島で生きてきた私には、あまりにも馴染みが無い空気感というか……別に、嫌いではないけれど」
大半の人魚の住み家は、本来は海中だったか。
「良かったの? レイナやザッカル達を待たずに来ちゃって」
バロンの隠れNPC、ミレオに訊かれる。
『まあ、よくはないだろうな……好奇心を抑えられなかった』
一応、枝の道を固まって動いて居るときにプレーヤーに襲われるのは危険だろうという判断でもあったが。
「マスターってさ、結構子供っぽいよね」
「だな」
ミレオの言葉に、割と付き合いの長いグダラが同意してしまう!?
『そ、そうか?』
まあ、ダンジョン・ザ・チョイス絡みになると、童心を抑えられない時は確かにあるが。
「もう日が暮れますし、さすがにここで待ちましょう。キクルさん」
『そうだな』
エルフ族のラフォルの提案を受け入れる。
「レイナ様達が、祭壇を下り終わったようです」
頭の左右から白い角を生やした、使用人NPCであるディアが教えてくれた。
ホーン族……オリジナルには居なかったはずの、有角の種族。
この異世界に居る特有の種族を、輸入してきたってところだろうか。
使用人NPCの種族を決める際に偶然見付けたため、好奇心を抑えられず選んでしまった。
他にも色んな種族が居るようだし、不謹慎ながら、奴隷売買が行われているステージに行くのはちょっと楽しみだ。
――暗い半透明なカーテンのような物が、上から大樹の外を覆っていく!?
「キクル、これって!」
『まさか、また仕掛けてきたのか!!』
レイナ達は――カーテンの外側に、悪魔召喚士のミドリと忍者の隠れNPCであるサザンカが取り残されている!
「ミドリちゃん! サザンカ!」
「クソ! なんだよ、これ!?」
「ヒラヒラしているようで硬い!?」
猿獣人のハヌマーと赤人魚のマリンが武器で攻撃しているようだが、当然のごとく効果が無いらしい。
『……今日は、まだ休めそうにないな』
『これより突発クエスト――“大樹の逆襲”の説明を始める!』
生意気そうな女の声。
「やはりですか」
「デルタの奴等め、性懲りもなく!」
怒りを顕わにするラフォルとグダラ。
『今は、黙ってルールを聴け』
情報一つ聞き逃せば、命取りになりかねない。
『大樹は、勝手に住み着き、己の身体をほじくり回した人間達に大層お怒りになられている』
もっともらしいことを。
『説明終了から十五分後、大樹内の上層から下層までのどこかに“悪性の球根”を百、植え付ける』
球根?
『それらは花粉を飛ばし、時間と共に花粉の放出量は増えていく』
なんで球根から花粉なんだよ! バカなのか!?
『花粉を吸い込めば吸い込むほど花粉ゲージが溜まり、吸入率百パーセントになると――その時点でゲームオーバー』
『呼吸器官を狙って来るとはな』
防ぎようが無い。
『貴方達の勝利条件は、ゲームオーバー前に全ての球根を破壊してしまうこと。尚、特別大サービスでヒント。球根は全て、建物の外に付いているから』
中までとなると、さすがに探すのに時間が掛かりすぎて、ゲームバランスが崩れるか。
『もう一つ、良い事を教えようかしら。花粉ゲージはチョイスプレートから確認できるようになっているのだけれど、身体が大きい人ほどゲージの上昇率は低いわ』
薬なんかの分量は本来身体の体積で計算されるが、分かりやすいようにという名目で年齢で表示されている。
人によって、年齢による体格なんて千差万別にも関わらず。
『それじゃあ、説明はここまで……ああ、そうそう。球根は破壊するたびに、ランダムにアイテムが手に入るから。頑張ってね~♡』
その言葉を最後に、いけ好かない女の声は途絶えた。




