511.繊細な子
「ギオジィ!」
休憩中、クレーレが満面の笑みで声を掛けてきた。
「どうした、クレーレ?」
「……ありがとね、私を使ってくれて」
「使ってって……」
まるで、自分を道具のように。
「私って、解放軍の中ではめちゃくちゃ年下だからさ……しょっちゅうハブられてたって言うか……ね」
「それって、大切にされてたって事じゃないのか?」
「あの人達からしたらそうだったんだろうけれどさ……私からしたら、認めて貰えてないんだなって……そんな風に思えちゃって」
誰かの役に立ちたいって願望が、強いんだろうな。
「体よく……追い出されたようにも感じてたし」
「ヴァルカはそんなつもりじゃ……」
「解ってるって! ヴァルカお義父さんが、私を大切に想ってくれていたからこそだって」
理解は出来ても、心からは受け入れがたかった……てところか。
「私が上手く“アバター”に対処できなかった時、ギオジィが他の人に任せずに私に最後まで戦わせてくれたの――嬉しかったよ♪」
「クレーレ……」
その笑顔は、美しくも儚くて……気付けば見蕩れていた。
「……私が十五歳になったら、いっぱいエッチな事しようね、ギオジィ♡」
いきなり近付いてきたと思ったら、耳元で恥ずかしそうに囁かれてしまう!
「お、お前、そういう事は成人してから言えよ」
そういう目で見てしまうだろうが!
「別に良いじゃ~ん! 私達、婚約してるんだしー!」
確かに、一応はそういう事になってはいるけれど。
「……クレーレの気が変わらなかったら、な」
「だいじょーぶ!」
嬉しそうに離れていく、雪豹の女の子。
「この気持ちは――純愛だから」
振り返りながら笑顔で言われた言葉に、胸の奥が熱くなっていく。
「……おう」
なんか、俺の方がクレーレに墜とされてしまいそうだ。
「イチャイチャしてますね」
「おわ!?」
恨み言のような声音を発したのは、いつの間にか左隣に居てジト目を向けていたトゥスカ!
「はい、どうぞ」
コップを差し出してくれる。
「これは?」
「ハチミツレモンを水で割った物です。疲労回復に良いと、マリナに持たせられました」
「助かる」
ぶっきら棒に見えて、マリナは気遣いが出来る奴だ。
それにしても、なんだかトゥスカが面白くなさそうだ。
「……ご主人様は、こっちに来る前にも……その、婚約者とかが居たりは……」
「ん? そんなの居ないよ。モテた記憶も無いし」
トゥスカに出会うまで、ろくに女子と会話をした事も無い。
「ただ、男子と喋るよりも女子と喋る方が気は楽だったかな。でも、他の男子には呼び捨てなのに、何故か俺にはみんな“さん”付けしてくるんだよ。別に嫌じゃなかったけれど」
クレーレも、そういう何気ない部分に疎外感を感じていたのかもしれない。
「…………これは、さすがにそろそろ牽制した方が良いのかもしれませんね」
「ん?」
トゥスカが、珍しく考え込んでいる。
貰ったハチミツレモン水を飲むと、強い甘味と酸味が口に広がり、身体の奥へと流れてく。
「そろそろ時間です、ユウダイ様」
ナターシャが教えてくれる。
「よし、出発しよう」
貰ったレモン水を少しずつ飲み、意識を探索に最適な方向へと持っていく。
全員の準備が整ったのを確認し、安全エリアとなっていた部屋の奥へ。
○右:古代の足跡
左:霊魂の集会
早速の別れ道。
「どっちに進む、マスター?」
エルザに尋ねられる。
「右だ」
道はどちらも狭く、番犬で移動するはずだったトゥスカ達も徒歩に。
ナターシャを先頭に、一列となって進んで暫く……少し広い場所に出る。
「急に雰囲気が変わりましたね」
トゥスカの言うとおり、侵蝕するような意匠だった壁は消え、象形文字のような物がビッシリと壁に書かれている場所に出た。
少し前に出ると、いきなり三つの光が立ち昇り……黄金の空箱がそれぞれの光から出現。
○以下から一つ、好きな物を選べます。
右:莫大な財宝
中央:古代の武具
左:古代の魔法
「これって、霊魂の集会を選んでたらどうなっていたのでしょう?」
「似たような部屋にて、死者の武具、霊的な魔法、召喚の指輪のいずれかからの選択となるそうです」
トゥスカの疑問に答えるナターシャ。
「選べるのは、一パーティーにつき一つのみ。悪いけれど、俺が選ばせて貰う」
文句を言いそうなメンバーは一人も居ないけれど、一応示しておく。
○罠を感知しました。
この表示が出るのも懐かしいな。
「罠解除」
左の宝箱から大きな骸骨が上半身を繰り出し、鋭い指の骨で空を薙いで消えていった。
「……こわ」
○“灰燼魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“湖水魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“威風魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“崩壊魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“周波数魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“降雹魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“黄昏魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“邪悪魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“隕鉄魔法のスキルカード”を手に入れました。
「古代の二属性魔法、全種類を一枚ずつですね」
「取り敢えず、これはトゥスカに」
武器に黄昏が入っているトゥスカには、“黄昏魔法”のカードを渡しておく。
「ありがとうございます、ご主人様」
「残りは、メルシュを交えてだな」
部屋を更に進むと階段があり、すぐにまた地底湖へと出た。
○スキル変換機能に土属性、鉄属性、毒属性、竜属性、古代属性、霊属性、星属性が追加されました。
「このタイミングでか」
「向こうにも出口があるね。もしかして、左に進んだ人用?」
「ああ、そのはずだ」
クレーレに返事をしつつ、水場の左に道を見付ける。
「行こう」
モンスターすら出ない一本道を、ひたすら進んでいく。
「この匂い、どうやら海水のようです」
「なんだか懐かしい」
流刑の孤島で売られていたためか、トゥスカの言葉にそんな感想を述べるクオリア。
「一本道なら、ここで時間を節約出来ると思わないか? マスター」
「なるほど」
ここは洞窟の中だけれど、エルザの言うとおりかなり広く、見通しも良い。
「私は竜になって上空から警戒、援護をしよう」
「よし! 各々、移動速度の速い物に乗り込んでくれ!」
ここで、少しでも距離を稼ぐ!
風化魔法を威風魔法に変更しました。




