504.震える地下鉄都市
教会にて、“波動剣のスキルカード”を使用。
「“波動剣”」
青白い緩やかな波を起こす、真っ白な両刃剣を呼び出す。
更に昨日手に入れた“王族の妄執”を使用し、“波動剣”を“波動王剣”へと進化。
すると、“波動剣”が少し大きくなり、形状はより攻撃的に。
「王と名の付く剣は、Sランク扱いだったな」
これで、俺のスキル武器は四つ。
「スキル欄に余裕が出来たからって、少し増やしすぎかな?」
この前、スキルカードで“光属性強化”だって手に入れたし。
「ああ、ギオジィ! なに遊んでるの!」
ドレスアップを終えて出て来たクレーレに窘められる。
「遊んでたわけじゃないぞ」
“波動王剣”を消し、神父の前へ移動。
すぐに、薄い青と緑のウエディングドレスを着たクレーレが駆けよって来る。
「その格好で走ると危ないぞ、クレーレ」
「そっかな? フフ」
なにがおかしいのか、突然笑顔に。
「結婚しよ、ギオジィ♪」
無理矢理に腕を組まれる!
「お、おう……」
トゥスカ達基準だと、成人は十五歳。
クレーレは十四歳だし、この結婚はあくまで婚姻の指輪をプレゼントするための物。
そもそもクレーレが、俺との婚約をどう捉えているのか判らない。
「やはりよく似合っていますよ、クレーレさん。いえ、クレーレ様」
ドレス選びを手伝っていたナターシャがやって来る。
「ありがとうな、ナターシャ」
「ユウダイ様の伴侶となられる方のためであれば、むしろ光栄な事かと」
心からそう思っていそうな表情。
……性格設定をしないと、こうまで従順になってしまう物なのか。
「ユウダイ様?」
「いや、なんでもない。そろそろ式を始めようか、クレーレ」
「うん! 結婚式を挙げたい!」
「この場に居る者だけで良いのなら、すぐに始められますぞ」
神官NPCの言葉ののちに現れた俺とクレーレの名を、チョイスプレートに書き込む。
○結婚式が申請されました。1000000G払い、結婚式をすぐに始めますか?
★すぐに始める ★式日と時間を設定する
★仕込みを投入してすぐに始める
「この文章、何度見ても闇深いな」
友達が欲しいと思わない俺からすると、嘘でも友人が多いと思われたい奴の気持ちがまるで分からない。
「ねー、サクラってなにー?」
「さあ」
クレーレに、こんな闇深い概念を教える必要はないだろう。
保護者として、クレーレの情操教育には責任を持たねば!
当然のごとく、すぐに始めるを選択する。
「準備が出来たのなら、すぐに始められますぞ」
既にドレスアップを済ませているためか、すぐに神官のお爺さんのオーケーの言葉が。
「「お願いします」」
「ではこれより、婚姻の儀を執り行う!」
一対一は久しぶりだからか、妙な緊張感が。
「互いを慈しみ、愛し、守ると、心に誓いなさい」
●●●
「一人、300Gになりまーす」
生活区画の東駅へとやって来た私、トゥスカ、ウララさん達のパーティーは、駅員NPCとでも言うべき男にお金を払い、トロッコに乗り込む。
「まさか、自分がトロッコに乗る日が来ようとは」
三人分くらいの横幅があるトロッコの右側に寄り、トロッコ側面上部に取り付けられた手摺りを掴む。
「これってやっぱり、ほぼ鉱山用の無人トロッコよね?」
トロッコ列車みたいに、座る場所があるわけじゃないし。
私の隣にはウララさんが乗り込んできて、後ろにカプアとバルバザードが。
するとトロッコ側面の横ドアが勝手に閉まり、残りのメンバーは、連結された後ろのトロッコに乗り込むことに。
「時間となりましたので、発射しまーす!」
トロッコがゆっくりと動きだし、次第に速度がのってきてゴォォという音に耳が覆われていく。
「マリナちゃんて、どうしてトゥスカちゃんにだけ突っ掛かるの?」
「へ?」
突然、ウララさんに話し掛けられた。
「何故って……アイツが、私の最大のライバルだから」
口にした瞬間、自分のトゥスカへの想いが一気に滑稽に思えてくる! いや、自覚はあったけれども!
「トゥスカちゃんも、同じように感じているのかもね」
「へ?」
「だってトゥスカちゃんが反抗的になるの、マリナちゃんに対してだけだもの」
「それは……」
ちょっとニヤけそうになっている自分が居る。
「スピード、落ちてきたね」
「そ、そうですね」
なんで私、こんなに……。
「私も、ライバルって思って貰えるようになれるかな……」
「ウララさん?」
その目は正面を見ているようで、どこか遠い場所を視ているようだった。
「こちら発掘区画ー。発掘区画になりまーす」
駅員NPCがさっきからウッサい!
●●●
「昨日手に入れた破損武具、修理して来たぞ」
商業区で一度別れ、鍛冶屋へと赴いていたリューナさんとネレイスさんが戻って来ました。
「こっちも、薬品の素材、その他諸々の買い込みは終わりました」
手分けして旅の準備を済ませた私達。
と言っても、魔法の家があるため旅用品、薪などを買い足す必要がないので短時間で終わる。
「突発クエストやらで良い装備が手に入っているから、わざわざ街で買い物をする必要が無いのは、なんだか寂しいな、チトセ」
「確かにそうですね」
地下鉄都市はコンクリートで出来たようなドーム型の建物ばかりなため、見回る気もあまり起きない。
「そう言えば、武器の修復ってすぐに終わるんですね。作製だと丸一日掛かってた気がしますけど」
「本来は半日だが、修理費が倍になる代わりに時間を短縮出来る“高速修理”を選択したんだ。それでも一時間も待たされたけれどな」
「ゲームなら、一瞬で修復されても良い気がしますけれ――」
――――あまりにも突然の轟音と激しい地面の揺れに、思わず膝を付いてしまう私!!
「……収まった……今のは一体?」
リューナさんが差し出してくれた手を取り、立たせて貰う。
「さっきの、震源は一カ所じゃないな。なにか分かるか、サカナ?」
「線路の方からだったってくらいしか、私にも分かりませんの」
「一スキルによる攻撃にしては、発生したであろうエネルギーの規模があまりにも大きすぎる」
「ええ、プレーヤーの仕業とは思えません」
エルザとヘラーシャが疑問を口にしている時だった。
『これより突発クエスト、復旧まで耐え凌げを始める!』




