4.分かれ道
「パワースラッシュ!」
突撃してきたゴブリンの横を駆けながら、胴斬りで切り裂く!
「ちょっと頼りすぎかな」
TPが半分以下にならないように気を付けないと。
ただ、技を発動したときの爽快感が凄くて!
それにしても、戦士.Lv3になってから、以前の自分では考えられないような動きが当たり前のように出来るようになった。
必要に迫られてというのもあるけれど、自分の身体が生き生きとしているのが分かる。
絶命したゴブリンに手を合わせ、先へと進む。
「おっ?」
分かれ道が現れた。
○どちらか一方のみに進めます。選択してください。
チョイスプレートが現れ、消えなくなる。
「これが強制選択って奴か」
○右:ゴブリンロード ゴブリンがいっぱい
左:金銀財宝ザックザク♪ 良いアイテムありまっせ!
絶対に左が罠だ!
○どちらも出口に繋がっておりますので、ご安心を。
こういうときだけ丁寧な説明。
「……良いアイテムは欲しいし、俺には”盗賊”のサブ職業もある」
罠があっても回避出来るはず!
俺は左を選択した。
★
「やっぱり、こっちの方が危険じゃないか!」
一時間くらい定期的に、グレイウルフに襲われっぱなしだ!
しかも、一度に三、四匹が当たり前!
落ちている金貨を拾い上げ、グレイウルフの顔に投げ付ける!
怯んだ隙に顎を蹴り上げて、他三体の進路を塞いだ!
「洞窟が狭くて助かる――パワーブレイド!」
剣から光が消える前に、四体のグレイウルフを連続で斬り伏せた!
「戦い方が分かってきてからは、そんなに手こずらなくなったな」
ただ、体力とTPが確実に奪われ続けている。
周りに広がる金貨の山に座り込み、五感を研ぎ澄ませたまま身体を休める。
周りにある金貨は只の飾り、背景だ。
だから、チョイスプレートに入れることが出来ない。
つまり、アイテム扱いにならないわけだ。
俺が着ている服と同じで。
「大分ボロボロになってきてるな」
少しずつ、俺のお気に入りが痛んで来ている。
「そのうち、お別れしないと」
チョイスプレートに入れられない以上、着られなくなれば只のお荷物。
「グゥゥゥオーーーー!」
遠くから、グレイウルフとは違う遠吠えが聞こえてきた。
「引き返せないっていうのが嫌だなー」
僅かに、駆けてくる複数の獣の足音。聞き慣れたグレイウルフの物だ。
「遭遇率、いきなり上げすぎだろう」
立ち上がろうとした時、足がよろけて金貨にダイブ――――へ?
金貨がすり抜けて……どこかの空洞?
グレイウルフが近付いているのを思い出し、急いで下半身も空洞内に入れる。
「ここなら一息着けそうだな……ヒッ!!」
慌てて自分の口を塞いだ!
空洞内は行き止まりで、壁から生えたクリスタルより発せられている光で照らされている。
その奥には宝箱が左右に一つずつ置かれており、右側の宝箱のすぐそばに……白骨死体があった。
「スケルトンとかじゃないよな?」
恐る恐る近付く。
万が一動き出したら、ヒールを掛けてやる。
このゲームでも、アンデッドにヒールって効くよな?
「……動かないな」
ボロボロのマントを着けているため、取り敢えず前をはだけさせた。
「格好いい……」
ブラウン色の軽鎧……肩部分と二の腕を露出しているタイプか。
地味なデザインだけれど、実用性重視って感じで使いやすそうだ。
「……すいません。その鎧、貰います」
チョイスプレートを出した状態で鎧に触れ、収拾を選択。
骸骨から鎧が消える。
「埋葬しないとな」
『必要ない』
「へ?」
が、骸骨が動き出した!?
『私は、上から落ちて死んだ』
頭上を指差して語り出す骸骨。
確かに、どこかに通じて居そうな穴が空いているけれど。
『その鎧は私の誇り。偉大な我が剣のように、有象無象に奪われるのは我慢ならなかったのだ』
「そ、そうなんですか」
『礼の心を知るお主にならば、喜んで託せるというもの。我が偉大な剣も、是非お主が取り戻してくれ』
骸骨の姿が消えていく。
『決して、隣の宝箱の毒ガスで死んだわけじゃないんだからね』
骸骨の身体が……完全に消えた。
「最後の一言、要らなくね?」
もしかして、忠告してくれようとしたのかな?
手を合わせ、冥福を祈る。
「さてと」
○盗賊の力で罠を感知しました。
骸骨のそばにあった宝箱に近付くと、チョイスプレートが突然出現した。
「だったら、罠解除」
TPを消費して、宝箱の罠を解除。
「……指輪か」
武器を期待したのに。
取り敢えず回収。
反対側にあった宝箱に近付く……こっちは無反応か。
「……なんだこれ?」
中には、妙なチケットの束。
○様々な低級アイテムと交換できるチケット。使用しますか?
TPが回復するまでは暇だし、使ってみるか。
「低級とは書いてあったけれど……」
交換出来るのは、只の皿や鍋、包丁やまな板などの日用品ばかりみたいだ。
「地味に必要だな」
リストの中には水筒なんかもあり、俺が欲しかった物がより取り見取り♪
「でも、一番必要な武器無い」
そう、リストに一つも武器が載っていないのだ。
「ま、いっか」
チケットは五十枚分あるため、遠慮なく欲しいものを選んでいく。
★
「おおーー! 格好いい!」
全身鏡が無いから、よく分からんけど。
骸骨から貰った、“偉大なる英雄の鎧"を装備してみた。
鎧の下では、黒いゴムのようなのが身体にピッタリとくっついていて動きやすい。
何故か、肩と二の腕部分にはゴムが無いけれど。
「”偉大なる英雄の鎧”って、名前負けしていないか?」
序盤で手に入る武具にしては、ちょっと名前が尊大すぎるだろう。デザインも地味だし……派手なのは嫌だけれど。
「実際に凄い防具なのかな? 詳細が分からないって本当に不便だ」
次は指輪。
「"大地の盾の指輪"……盾?」
取り敢えず、左の人差し指に装備してみる。
指輪は左右の手に一つずつしか装備出来ず、左手に装備したら、強制的に人差し指に嵌められた。
くすんだ黄金の、六角形の盾のような意匠の指輪。
○特殊効果:盾形成
「盾形成? 指輪で盾を作れるって事か? ……出ろ!」
……周りに誰も居なくて良かった。
「チョイスプレートみたいに念じてもダメ……どうしたら良いんだ、この大地の盾の――」
――いきなり、巨大な六角形の金属板が出現した!?
「これが盾……重くない?」
左腕に浮いた状態で、指輪と同じ意匠のブラウン色の盾が出現している。
僕の身体の大半を覆えるくらい大きいのに、浮いているせいか全然重くない!
どうやら、TPもMPも消費せずに使用できるようだ。
「おおーー!!」
左の指に装備したからか、左手の周りであればある程度自由に操作可能らしい。
左腕を振り上げると、浮かぶ盾が付き従うように腕に連動して動く。
「これ、結構凄いアイテムなんじゃ……」
どれくらい凄いのかは比べようが無いから分からないけれど、これより上だとどんな便利な物があるのか想像できない!
「……でも、肝心の武器が。いや、これだけ凄いのが手に入ったんだ! きっと、この先にも凄いアイテムがあるはず!」
金銀財宝ザックザクという割には、"大地の盾の指輪"ぐらいしか手に入っていないけれど!
「“壁歩き”……こっちは登れないか」
骸骨さんが落ちてきた穴を登ってみようと思ったけれど、”壁歩き”でも登れないらしい。
「よし、行くか!」
只の岩壁にしか見えない場所を通って、金貨が転がっている一本道に戻る。
「……うわー」
グレイウルフに囲まれとるがな。
「グルルルラーーーー!」
飛び掛かってきた一体を身を捻って避け、すれ違いざまに手の甲を脇腹に打ち込む!
「凄く動きが良くなってる……鎧のおかげか?」
他のグレイウルフの頭を蹴り、反対側の奴の眉間に肘打ちをし、顎を殴り上げる!
喧嘩殺法でも充分に戦えているぞ!
「大地の盾!」
突っ込んできたグレイウルフの正面に盾を作り出し、受け止める!
浮いているはずなのに、盾越しに衝撃が伝わってきた!
「欠点が無いわけじゃないか」
グレイウルフ二体を、まとめて盾で薙ぎ払う!
盾自体には重さも硬度もある。叩き付けるだけでも充分ダメージは与えられているはず!
装備の感触を確かめながら立ち回っていると、いつの間にか十体以上居たグレイウルフが全滅していた。
「……強くなっているって思えるの、凄く嬉しい!」
半分以上システムアシスト的な物だろうけれど、僕だって経験を積んで強くなっているはずだ!
鎧を装備してから、身体能力が異様に上がった気もするけど。
「おし、この調子でどんどん行くぞ!」
盾を消し、手を合わせ、先へと進む。