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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第13章 偽善に隠した悪意

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471.甘く蝕む幻想

「リョウがおかしくなった?」


 “神秘の館”へと戻ってきた俺は食堂で夕食時を待っていたのだが、そこでザッカルに不穏な説明をされていた。


「ああ……例の女にマーリとキューリを殺されて、相手の女を騙し討ちする形になってな……正直、今のアイツはヤバい。エレジーは、リョウの契約した魔法の家に留まっているが、今日中にリョウが戻ってこなければ、無理矢理にでもマリナの“林檎樹の小屋”に引っ張って行くつもりだ」


「……分かった。明日の朝、俺もザッカルと一緒に行こう。コトリ達やキクルとも話したい」


 今までリョウ達との接触は避けていたけれど……皆を死なせないために出来ることは、なんでもやろうって決めたからな。


「ザッカル、これをあげる」


 メルシュが渡したのは、“戦闘メイドのAIチップ”。


「良いのか?」

「メンバーが戦士だけになってしうまったから、魔法使いにするって言うのは決定事項ね」

「ああ、それは構わねぇが……一番Lvが高い俺でも51。暫くは使えねぇぞ?」


 使用人NPCのキャラクリが出来るようになるのは、54からだからな。


「そうだ」


 チョイスプレートを操作し、“Lvアップの実”を三つ実体化させ、ザッカルに手渡す。


「これで、今すぐLvを上げられる」

「良いのかよ?」

「こういう時のために取っておいてたんだ。それに、“万能プランター”って言うので毎日一つは手に入るから、気にしなくて良い」


 パズルゲームの時、プランターの方を優先しておいて良かった。


「そういう事なら……遠慮なく貰っとくぜ」


 受け取るザッカルの顔は、疲れた笑みを浮かべていた。


 俺やトゥスカ達とは逆に、下のステージに落ちてしまったザッカル。


 リョウ達と合流後は、実質リーダーのように振る舞っていたと聞く。


「ザッカルって、キャラクタークリエイトとか出来るの?」


 メルシュが何の気なしに尋ねる。


「さあな。まあ、取り敢えず、強そうなムキムキにすれば良いだろう」



「「「なんでだよ!」」」



 その場で聞いていた全員から突っ込みが入った。


「マスターがデザインした方が良いんじゃない?」

「俺かぁ……」


 ナターシャの時に散々弄られたから、できれば遠慮したいところだけれど。


「なんでムキムキがダメなんだよ! 強そうな方が良いだろうが!」


 ムキムキのメイドなんて見たくない。


「ザッカル、コトリ達の意見を参考にしつつ、皆で考えて決めよう」


 そうすれば、俺のキャラクリに対する免罪符にもできるから!



            ★



 皆で夕食後、ティータイムへと突入。


 モモカを膝の上に乗せながら、デザートを食べさせていた。


「……フフ」


「どうしたの、ユウダイ?」


 いつもはメルシュが座る左隣に居るマリナに、尋ねられる。


「リューナ達がここで皆と一緒にご飯を食べているのが、なんだか不思議で」


 同時に、いつこの中の誰かが居なくなっても……おかしくないんだなとも思ってしまう。


「――皆に、お願いがあるんだ」


 それぞれ談笑していた皆の視線が、俺に集まる。



「まだ結婚していないレギオンメンバーは全員――俺と結婚して欲しい」



 言いだした俺が怖くなってしまうほどに、賑やかだった空間がシーンと静まりかえってしまう。


「……どういうつもりよ」


 最初に口を開いたのはアヤナ。


「もう、誰にも死んで欲しくない。だから、俺に出来る事はなんでもしようって決めたんだ」

「婚姻の指輪を持たせるためなら――好きでもない女と結婚するってこと?」


 そう尋ねてきたのは、地味な格好の時にはいつもオドオドした口調になるはずのカナさん。


 その声には、どこか責めたニュアンスが込められている気がした。


「強制じゃない。本気で嫌なら断ってくれて構わない。ただ、建設的に考えて欲しい」


 婚姻の指輪は指輪欄を使用せず、TP・MPの使用量、及び回復速度を上げてくれる。


「婚姻の指輪には三種類あって、低級だとTP・MP量が一割アップ。上位だとTP・MP回復速度1Lvアップが追加。“最高級の婚姻の指輪”だと、TP・MP量が二割アップに、TP・MP回復速度が2Lvアップになるよ」


 メルシュが説明してくれた。


「持ってて損になることは無いし、生き残る確率を上げられるという点では悪くないと思うけれどね」


 アマゾネスの隠れNPC、シレイアが肯定してくれる。


「後から嫌になったら、婚姻を解消してくれて構わない」


 俺に出来る、数少ない事の一つがこれだったと言うだけ。


「「……」」

「と言っても、コセが今居るのは三十六ステージ。そこまで辿り着けたらの話だろう? 今すぐ決める必要もねぇだろ」


 ザッカルが、張り詰め気味だった空気を和らげてくれる。


「私は、是非お願いします」


 立ち上がって宣言したのは、レリーフェさん。


「それと、話は変わりますが、私から皆に協議して貰いたい議題がある」


 例の話か。



「レギオン、《高潔騎士団》との同盟を続けるか否かを」




●●●



「結婚……か」


 コセ君が善意で言っているのは解るし、本当の夫婦になるって話じゃないのも解ってはいるのだけれど。


「……軽々しく、好きでもない女と結婚とか言わないで欲しいわ」


「なに一人でブツクサ言ってるんだ、カナ」


 上階のエントランスにやって来たのは、寝間着姿をしたザッカル。


「……ザッカルが私の立場なら……コセ君と結婚する?」

「惚れてるならする。惚れてないならしない」


 脳筋ザッカルの、シンプル・イズ・ベストな回答。


「結局はそこだろ。少なくとも俺は、打算で結婚なんてする気はねー」


「……私は」


 私はコセ君のこと、本当はどう思ってるんだろう?


 結婚という言葉に芽生えたこの甘い感情の正体は、果たして恋と呼べる物なのか……今の私には、まだ判らない。


「さーてと、コセと今から一発、ヤりに行くかー! カナも来るか?」

「い、行くわけないでしょ!」


 そうだった。コセ君て、沢山の女に手を出しているナチュラルクズ男だった!


 しかも今、サトミやクリスまでコセ君の寝室に入っていくのが見えたし!


「そいじゃーな、カナ♪」


 背中を向けながらほざくザッカル。


挿絵(By みてみん)


「……やっぱり、結婚はやめておこうかな」



●●●

             


「……リョウ様」


 “白亜の屋敷”にて、リョウ様を待ち続けている私。


 何時間もずっとリビングで一人、灯りも点けずに待っているけれど……戻ってきたリョウ様と、どう接したら良いのか答えを出せない。


「私以外……みんな死んでしまった」


 始まりの村からずっと一緒だったメンバーは、この家で共に暮らしていた仲間は……もう、誰も居ないんだ。



「気付いてたんですね、エレジーさん」



 ――いつの間にか背後に居たリョウ様から、思わず距離を取ってしまう!!


「……この家から、出ていってください」

「リョウ様……私……は…………その武器は」


 リョウ様の手に握られて居たのは……あの女が使用していた――紅血の刀剣!!


「ここは僕が契約した家――住む人間を決める権利は、僕にある」


 あの太刀を……リョウ様が私に向けている?


「リョウ……様」

「さっさとこの家の鍵を置いて出て行け――さもなくばッ!!」


 太刀から振るわれた血の鞭により、リビングが一瞬で……滅茶苦茶に。


「――がぁッッ!!?」


 一瞬で首を絞められて――太刀の切っ先をこちらに向けている!!


「鍵を渡して、三十秒以内に出て行け――でなければ本当に!!」


 私の指はチョイスプレートを操作して……鍵を床に捨てていた。


 溢れる涙は、誰に対する失望なのかも判らない。


「ゲホッ! ゲホッ!」


「……早く出て行け」


 解放されると同時に、私は込み上げる嗚咽を堪えながら外へと飛び出し……真夜中の皇都へと逃げ出した。


挿絵(By みてみん)


「さようなら……エレジーさん」


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