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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第13章 偽善に隠した悪意

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470.意思と心は鬩ぎ合い

「……僕は」


挿絵(By みてみん)


 日も暮れようかという頃、僕は当てもなく“魔人の皇都”を彷徨っていた。


 ただ、気を紛らわせたくて身体を動かしているだけ。


 ……NPC達の喧騒が、やけに耳障りに感じる。


「シホさん……アヤさん……ニシィー……キャロさん」


 あの短い攻防の間に、これまで一緒に旅してきた四人が……アッサリと殺された。


「SSランク武器……僕にも、同格の武器さえあれば」


 どうして、あんな女がSSランク武器なんて貴重な物を!!


「「リョウ様!!」」


「マーリ……キューリ」


 始まりの村から慕って付いてきてくれた二人が、目の前に。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「二人とも……どうして」

「リョウ様が居なくなっているのに気付いて、エレジーさんたち皆で捜してたんです!」

「一人じゃ危ないですよ!」


 そう言えば……外に出るときは、常に二人以上で行動するって決まりだったっけ。


「……ごめん」


 僕はまた、自分の勝手な行動で仲間を危険に。


「早く戻りま…………なんで」


 キューリが、太陽が沈む方向を見ながら固まる?


「キューリ? どうし……」



「半日かかって、ようやく見付けたよぉ~ッ!」



 夕暮れを背に……夕陽に染められた白髪のポニーテールを揺らしながら……血の太刀を握る女が…………歩いてくる。


「どうして……次のステージに進んだはずじゃ……」


「うん? なにを言ってるの? 私、君の仲間に、別れ際にちゃんと言ったはずだけれどな~」


 血の太刀から……血が溶け出しては弧を描き出し、再び太刀へと戻っていく。


 その動きが活発になればなるほど――僕の身体が内側から冷えていき……全身の血が……停滞していくような……。


「あれ? もしかしてビビっちゃってる?」

「そ、装備セット1ッ!!」


 今更ながらに戦闘態勢を整えるも……力んだことで身体中がガタガタと震えだしてしまうッッ!!


「アハハハハハハハハハ!! すんごい震えちゃってるじゃーん!」


 その侮辱に、怒りすら込み上げてくれないッ!!


「マーリ、リョウ様を連れて逃げて!」

「キューリ!?」

「アイツは、私が足止めするから!!」

「だ、ダメだッ!!」


 二振りの鎌を手に、切り掛かるキューリ!!


「ウザ」

「――ぁぁあああああああッッ!!」


 キューリの腹部が太刀から伸びた血の槍に貫かれ……倒れた。


「キューリ!!」


 助けようと駆け出したマーリも……太股を貫かれて倒れ伏す。


「アハハハハ! 弱いな~……それで、君は向かってこないの? 仲間が傷付いてるのに」


 ……そうだ、戦わなきゃ……二人が。


「今、二人を見捨てて逃げ出すなら――君だけは見逃してあげても良いよ」


「…………へ?」


 なに……言ってるんだ。


「恐くて動けないって言うなら、そこで這いつくばりながら、僕の命だけは助けてくださーい! て言うだけでも良いよ~」


「そ、そんなこと」

「リョウ様……」

「逃げて……ください」


 僕が、二人を置いて逃げだすんて。


「私さ~、良い子ぶっている男が嫌いなんだー。口だけの豚みたいなゴミ男共がさ~――だから、つい化けの皮を剥がしたくなっちゃうぅ~!」


「き、君はッ!!」


 そんな理由で、人をゴミのように殺す女なんかにッッ!!


「そうだ、ギルマスならこんな奴に!」


 ――こんな奴から、たとえ殺されたって逃げやしないッ!!


「そろそろ返事してよ。5、4」


「ぼ、僕はッ!!」


 そうだ、僕が憧れたギルマスは――決して逃げないんだ!!




「僕の命だけは――助けてくださぁいぃぃぃぃ!!!」




「リョウ……様?」

「…………うそ」


 キューリとマーリの乾いた声に、初めて自分が……膝を付いて、頭を地面に擦り付けて……命乞いをしていることに気付いた。


「……ち、違――」



「はい、合格ぅー」



 ――キューリとマーリの首が、一瞬で切り飛ばされた。


「アハハハハハハッッ!! やーっぱり、君って屑だったね。まあ、男なんて皆そうか」


「……嘘だ」


 二人の死も、自分の行動にも……理解が追い付かない…………信じたくない。


「それじゃ、約束通り今日は見逃してあげる。せいぜい、二度と私に遭わない事を祈るんだね~」


 背を向けて、のんびりとした足取りで去っていく……卑怯者の殺人鬼。


「……僕……は」


 身体に……力が入らない。


「早く、ギルマスって男の化けの皮も剥がしてやりたいなぁ~」


 ――――その一言により込み上げてきた感情は、いったいなんだったのだろうか。


「…………へ?」


 女の間抜けな声が聞こえてきた時には既に、僕の“精霊のファルシオン”が……女の背を、胸部に掛けて貫いていた。


「ギルマスはぁぁ――ギルマスは違ぁぁぁうッッ!!! 違うんだぁぁぁッッッ!!」


 自分が、なにを口にしているのか判らない。


「あの人はぁぁッ!! あの人は僕の憧れのぉぉッッッ!!!」


「……へー、ギルマスって……こういうことする卑怯者……なん」


 ――女の苦し紛れの言葉が赦せなくて、地面に押し倒してからその背に――何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


「やっぱ……さいて……い…………」


「ハアハア、ハアハア」


 気付いたときには、女の死体も、全身に浴びた血も……消えていた。


「……ク、クハハハハハハハハハハ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」


 笑いが、止まらないッ!!


「僕って……こういう人間だったんだ」


 ギルマスは…………どっちなのかな。


 僕が憧れた……あの人は。



●●●



「リョウ……様……」


 あの人の気配が遠ざかっていった事で、ようやく……強張っていた全身の力が抜け……その場に頽れる私の身体。


 涙が頬を伝い、夜風が身体を急速に冷やしていく。


「エレジー……」


 一緒にリョウ様を捜してくれていたザッカルさんの声が……遠い。


 マーリとキューリが倒れているところに遭遇し、女の隙を狙っている間に起きてしまった狂気的な悲劇に……頭の整理が追い付かない。心が……ついていかない。


「……帰ろう、エレジー」


 そういって抱え上げてくれるザッカルさんに対して……言葉が出てこない。


 ただ一つだけ分かっている事は……私が好きになった人が、もう二度と手の届かない所まで……堕ちていってしまったという事実だった。


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