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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第13章 偽善に隠した悪意

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468.日高見の動向

「あの女が……見付かった?」

「二十五ステージのダンジョン部分、沼地でモンスターと戦っている所を、早朝に目撃したらしい」


 《日高見のケンシ》のリーダーであるアテルという方が、“魔神の皇都”の一角にて教えてくださる。


「SSランク持ちは厄介だ。なにより、彼女の思想が君達の言うとおりなのであれば、僕達にとっても脅威。不意打ちを食らうくらいならば、こちらから追い掛けて始末してしまいたいというのが僕の考えだ」


 そこは、()()ではないのですね。


「つまり、俺らにも協力しろと?」


 “神秘の館”から戻ってきたザッカルさんが尋ねる。


「任せるよ。その場合、《日高見のケンシ》は君達とは別行動を取らせて貰う」

『どこで仕掛けるつもりだ?』


 白面の巨漢、キクルさんが尋ねた。


「出来れば、泥地帯を抜ける前に全員で仕掛けたい。僕達はまだ、()()()S()S()()()()の性能を一度も目にした事が無いからね。出来る限り安全に対処したいんだ」

「もしや、本当は私達が邪魔なのでは?」


 彼の作戦を聞いて、浮かんだ疑問をついぶつけてしまう。


 わざわざ不和を煽る浅はかな言動……私もまだ、シホ達の死に動揺してしまっているのでしょう。


「鹿獣人のエレジーさんでしたね……ええ、その通りです」


「僕達じゃ力不足だって言いたいんですか!」


 感情的になるリョウ様。


「そういう面があるのは否定しない」

「そんな!!」

「けれどそれ以上に、君達と連携するのは難しいという判断さ。お互いの手の内をほとんど知らないのだから」


 それは……確かにその通りです。


「任せちまって良いのかよ? 損な役回りだろうに」


 ザッカルさんの声は、心配げだ。


「構わない。僕からしてみれば、貴重なSSランクを手に入れられるまたとないチャンスだしね。むしろ、君達に申し訳ないくらいだよ」


 私達が命懸けで手に入れた情報を、彼等に提供したから……ですか。


「……俺としては、悪くない提案だと思う。こっちは、すぐには動けそうにないしな」


 ザッカルさんが、仲間を失った私達を気遣ってくださっている。


「そう……ですね」


 仇を討ちに行けないのは悔しいですけれど、私達ではあまりにも力不足。


 こちらから強襲できるかもしれない好機を、私達のために失わせるわけにはいかない。


『俺の仲間達は疲労が溜まっている。好きにしてくれて構わない』

「僕は……僕は――この手で仇を!!」

「無理です、リョウ様!」


 つい、声を荒げて静止してしまう私。


「マーリもキューリも、戦えるような精神状態じゃありません。パーティーの再編成もしないと……いけませんから」


 私達のパーティーの魔法使いは軒並み殺され、コトリ達を入れても戦士しか残っていない状況。


 到底、彼女に挑めるような状態ではない。


「……そう……だね」


 頭が冷えたのか、頽れるように座り直すリョウ様。


「なら、僕等はさっそく出発させて貰う」


 アテルさんが立ち上がり、離れたところで待機していた仲間達と合流し……去っていく。


「ごめんなさい、リョウ様」

「……」


 今の貴男を……戦わせるわけにはいかないのです。



●●●



「……使っておくか」


 日が暮れだした夕方頃、久し振りの我が家のベッドに眠るユリカとジュリー、クマムとナオの傍らで、二枚のスキルカードの使用を決断。



○“猪突猛進”のスキルを修得しました。

○“超噴射”のスキルを修得しました。



 どちらも、カプアさんを襲っていたバイクの男から手に入れていたスキル。


 サブ職業、“大戦士”のおかげでスキル欄に余裕が出来たのもあり、使用することにした。


 どちらも、今の俺の戦闘スタイルに合っている気がするし。


「ねぇ、誰か起きてる?」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


 武具を装備してから、部屋のドアを開ける。


「う! 凄い匂い」


 そこに居たのは、髪を短くして印象が随分と変わったアヤナ。


「……昼間からお盛んだったみたいね」


挿絵(By みてみん)


 久し振りの再会に、皆々感極まったと言いますか……。


「そ、外に出るよ」


 いたたまれなくなり、匂いの元を扉で断つ。


「それで、誰に用だったんだ?」

「幸いと言うべきか、アンタよ」

「俺?」


 アヤナとは、少人数で一緒に行動するときくらいしか、ろくに話さないのに。


「私の遺言機能、対象をアンタにしておいたから。宜しく」


 遺言機能は、Lv47で解禁される機能。


 自分が死んでも、遺言機能の対象にした人間に所持していたアイテム全てが送られるという代物。


「俺に? ルイーサじゃなくて?」


 彼女と長く行動を共にしていたのは、アオイとルイーサ。


 アオイが居ない今、ルイーサを選びそうな物だけれど。


「私が死ぬなら、同じパーティーのルイーサも殺されてるかもしれないでしょうが」

「ああ……なるほど」


 嫌な方向性の発想だからか、まったく思い至らなかった。


「……前に“石階段の町”で、死ぬ覚悟をしていたような事……言ってたよな?」



「もし私になにかあったら、妹とルイーサをお願いね」



 あの時アヤナは、俺にだけ聞こえる声でそう言っていたんだ。


「なに? 私じゃなくて、アオイの方が死んでるじゃんて?」

「そんなつもりは……ただ、自棄になっていないか心配で」

「……アオイがいたころは、どうせ私はそのうち死ぬ……そう思ってた」


 アヤナの顔は、不可解なくらい平然としているように見える。


「でもね、今は目標が出来たから……アオイの仇を討つっていう目的が」

「仇って……このゲーム内じゃ、どうにもならないだろう」

「解ってるわよ。だから――アンタとメルシュを、必ず最後のステージまで送り届ける。それが、私なりの復讐よ」


 本当に……別人みたいだな。


「そういうことなら、安心かな」

「ん? なにが?」

「アヤナが自棄になってなくてだよ」


 さっき、そう言ったはずなのに。


「私はどうせ、買い物が長くなるような頭の悪い女なんだから、気にしなくたって良いでしょうが」

「それ、根に持ってたのか」


 まあ、今でもそう思ってるけれど。


「ていうかアンタ、私の方が年上だって忘れてるでしょ」

「今更?」


 ほとんど初めから呼び捨てだったし、気安く会話していた気がするんだけれど。


「ま、今は気にしてないけれどね」

「最初は気にしてたのかよ」

「……ルイーサさ、アオイの件で参っているみたいだから……アンタが慰めてあげて」


 アヤナは、申し訳なさそうな笑顔をしていた。


「……分かった」

「な、なによ」


 無意識に、アヤナの頭を撫でている俺。


「アヤナの事も、()()()()()()と思って」

「あ、アンタ、節操無しにも程があるでしょうが!」


 顔を真っ赤にして腕を払い、早足になって去っていくアヤナの後ろ姿を見た段階で――自分の言葉が下ネタのように伝わってしまったのだと理解する!


「おい、別にそういう意味で言ったわけじゃ!」

「ベーだ」


 振り返りながらあっかんべーし……去っていくアヤナ。


「……まったく。年上のくせに、俺よりもガキみたいな人だな」


 迂闊にも、ちょっとだけ可愛いと思ってしまったじゃないか。


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