463.白魔の神蛇
「ここが入り口か?」
石の城へとやって来た俺は、さっそく中の気配を探る。
「戦闘音」
既に誰か来ているのなら、鍵を持っている奴が居るかもしれない。
「義弟よ!」
駆け付けた男は、ヴァルカ。
「鍵は?」
「一つ持ってる」
「俺もだ」
これで、少なくとも二つ。
「先に城に入るつもりか?」
「俺達が戦ったのは、かなり巨大なモンスターだった。空から見た限り、他にそれらしいモンスターは見付けられなかったんだ」
「つまり、既に誰かが倒しているか、空から探すのが難しい程小型か、どこかに身を隠していると言いたいわけか」
「ああ」
考えが噛み合ってて心地良い。
同性とこんなに円滑に会話出来るのは、生まれて初めてかもしれない。
父親は、一を聞いて十を理解した体で勝手に話を進めていく救いようのないバカで、母親はそんな父親を賢いと思い込んでいる無知だったため、幼い頃は自分の方がコミュニケーション能力が低いと錯覚させられていた。
「ここに住んでたんだよな? 中を頼んでも良いか?」
もし残りの鍵を持っているのが解放軍の人間の場合、ヴァルカの方がトラブルを避けられるだろうし。
「妥当だな」
ヴァルカの背後より、モンスターが大量に接近している。
「後は頼んだ」
“呪毒の鍵”をヴァルカに投げ渡し、俺は戦闘態勢へ。
「義弟の期待に応えるとしよう!」
鍵を受け取り、城へと入っていくヴァルカ。
「いつの間にか義弟呼びが当たり前になってるんだけれど……まあ、良いか」
兄貴面されるのは大嫌いだけれど、相手がヴァルカなら許せそうだ。
「さてと――“鋼の騎士団”」
俺の金属製装備そのままの金属人形を、六体召喚。
「行け!」
“世間師”のサブ職業によって増強されているTP・MPの総量、そのおよそ半分を六体の分身騎士達に分配してある。
「……く」
ヴァルカと大樹に、大量の騎士モンスターとの戦闘……もう、かなりキツい。
「生命白銀狼」
指輪を用い、再び美しい白銀狼のバイオモンスターを召喚。
「すまんが、俺を守ってくれ」
近くで戦闘が行われている状況だけれど、今は意地でも休ませて貰う。
●●●
「戦闘音は……上からか」
なら、強力なモンスターか鍵持ちは、上の階に居る可能性が高い。
「“獣化”」
人獣形態の強靭な脚力に任せて跳躍――上へと続く道を最短で進む!
激しい揺れに、建物が悲鳴を上げているようだ。
「――ぁあああああッッ!!」
戦闘音の出所へと辿り着くと、ヴェイパーが壁に叩きつけられる姿が!
他にも、解放軍やその他の人間も居るだと?
『ヴェイパー!』
「ヴァルカ……様」
“獣化”を使用していないと言うことは、MP切れか。
『どう見ても、奴が三強のモンスターだな』
部屋を覆い尽くすほどの巨大白蛇が一人の男を食い殺し、その勢いのまま突進、冒険者達を吹き飛ばす!
『お前は休んでいろ、ヴェイパー。“怨霊斧”』
まずは、ここから奴を引き離す。
『“逢魔投斧術”――オミナストマホーク!!』
白蛇の頭を大きく切り裂き、注意をこちらに向けさせる。
『こっちに来い、デカいだけのクソ蛇』
与えてやった傷が、ほんの数秒で塞がる大蛇。
デカいだけと言うには、途轍もない再生能力を秘めているらしいな。
『シャーーーッ!!』
奴が目の色変えて追ってきたのを確認し、強靭な手脚に任せて今度は飛び降りていく!
『さあ、追ってこい!』
◇◇◇
『た、頼むぞ、“神蛇”! お前が倒されたら……』
報酬の財宝は莫大。
参加メンバーを男全般に強制し、一人に報酬が集中するようにしたため、手に入れた者の恩恵は凄まじい。
『許可が出たSSランクを用意する暇など無かったから、Sランクを多数用意してしまっているんだからな!』
ていうか、なんでコセとヴァルカは協力し合っているんだ!
『ヴァルカとコセ……奴等はいがみ合っていたんじゃなかったのか? 解放軍メンバーに、孤立したあの小僧を狙わせる算段だったんだぞ!!』
戦士のモンスターにはわざわざ好戦的な人間の意志を宿し、規格外のモンスターを三体も用意した!
『……だ、だが、ヴァルカが“神蛇”を倒せば……』
奴が財宝を独り占めすれば、最悪、あの小僧の戦力を増強させずに済むのでは!?
『よ、よし! 頑張れー、ヴァルカ!! お前がナンバー1だ!』
頼むから、あの小僧にだけは財宝を渡さないでくれッ!!
●●●
「――そろそろか」
“鋼の騎士団”の六体のうち、一体の分身が消失したのを感知。
「休めたのは、十分かそこらか」
二振りの剣を手に、立ち上がる。
『クソ……大人しく、俺達に殺されろよ!!』
「またか」
ドラゴンなどのモンスターも含めて、俺の“鋼の騎士団”に騎士や戦士のモンスター共を殲滅させる。
『――“闘気斧”!!』
突然の乱入者三人に、俺の騎士が一体倒されてしまった。
「……退散」
残り四体を消し、残存していたTPとMPを俺に還元。
「オールセット2」
指輪とサブ職業のみを変更した。
「お前、ウララさんに倒されたジャッカルの獣人」
『よう、クソ異世界人ッ!』
明らかな敵意。さっきのは不幸な事故ってわけじゃなく、俺を狙った物だったか。
『このカザルフ様が、お前を地獄に送ってやるぅ~』
『ククククク!』
『ヘハハハハ!』
二人の取り巻きも、同じ穴の狢か。
「俺とヴァルカは協力体制を取っている」
『んなこたぁ――関係ねぇんだよぉぉ!!』
斧で切り掛かって来たため、交差させた剣で受け止める!
『ヴァルカぁ? あんな野郎はどうでも良いんだよ!』
「なに?」
『皆、アイツはスゲーとか思っているが、なんのことはねぇ! この俺が他種族への憎悪を口で煽って回ったら、異世界人の抹殺だけにしたかったアイツは、レギオン内の方針を獣人以外の全種族にせざるを得なかった!』
「……お前」
獣人を隷属させてきたのは、基本的に異世界人。
そういう意味では人魚や鳥人だって同じ被害者側なのに、どうして獣人以外を問答無用で殺害させていたのか。
ヴァルカという男を知れば知るほど、確かに違和感のある話。
「つまり、獣の聖地で起きていた諍いを悪化させたのは、全てお前ということか?」
『気に食わなかったんだよ、なにもかも!! 獣人を卑しいと見下す他種族も、化け物みたいに強いあの男も!!』
小さい男だ。
「お前みたいなくだらない人間に会うと、斬り殺したくなってくる」
『そんなこと言って良いのか、異世界人んんッ!!』
取り巻きの二人が挟撃してきた!
「ク!!」
“獣化”の身体能力が、消耗した今の俺には地味に厄介!
『ああ、そうだ。良いことを教えてやるよぉ! さっき、俺をボコボコにしたあの女と――同じ顔の人間を殺してきたぞぉぉ!!』
「同じ顔……――まさか、ウララさんの弟を!!」
『眠ったままの、あのムカつく女と同じ顔の異世界人を見てようやく思い出したぁ――アレがニタニタ顔で転移して来た時に、この俺が気持ちいいくらい頭をかち割ってやったクソガキだったってなぁぁぁッッ!!!』
「――――もう黙れ」
『…………あ?』
奴の脳天から股まで、ぶった斬った。
それを成した“サムシンググレートソード”には、十八文字が刻まれている。
『か、カザルフさん?』
右腕を振るい、取り巻き共も含めて斬っていく。
『ま、や――』
幾度と振るい、再生しなくなるまで――刀身からいきなり青白い光が照射され、男達の身体を消し滅ぼした。
まるで、今の俺の精神状態、願望を汲み取ったように。
「……とっとと終わらせてやる、こんなゲーム」
背後、城の内部から響く衝撃を黙らせるべく、埃舞う石の暗所へと足を踏み入れる。




