462.背負う者の境地
『死ね、ヴァルカッ!!』
騎士の魔物の剣を、長年の相棒たる黒斧――“荒野の黄昏に背を向けて”にて受け止める!
「人格が乗り移っているか」
聖地の広場中央にて、怪物に堕ちた者共を迎え撃っていた。
『俺は、俺達は、解放軍としての誇りを胸に、アンタの言うとおりに異種族と戦ってきたのに――今更になって、そいつらと手を取り合おうなどッ!!』
「貴様……元は解放軍の」
『死ね、ヴァルカ!! エスフィーネの仇ッ!!』
ランス持ちの甲冑騎士による背後からの強襲を、肩に受けてしまう!
「俺としたことが」
かつての同胞の言葉に、動揺してしまうとはな。
『お前ら解放軍のせいで、俺達はッ!!』
続々と集まってくる亡者共。
「……こういう事か」
トゥスカの言うとおり、《獣人解放軍》を破滅へと向かわせていたのは……俺だったというわけだ。
「――“獣化”!!」
この身を化生へと変える。
『良いだろう。お前達の慟哭と憤激の全て――このヴァルカが受け止めてやる!!』
それが、解放軍を起ち上げたこの俺の役目だと言うのなら。
『だがこの首、亡者共にくれてやるほど――安くはないと知れッ!!』
力と、時に技を用いて、有象無象共を蹂躙する!!
『ガァッッ!!』
『く、クソが!!』
『つ、強すぎるぅッッ!!』
『俺一人に怯えるか。雑魚ども』
弱い――弱すぎる!!
『簡単に怯え、足を竦ませ、それを補う勇気もない!!』
『ヒィッ!!』
死して怪物となろうとも、生者たるこの俺の気迫に怯えるか!!
『貴様らのような惰弱な人間が、主義主張などするなッ!!』
魂も覚悟もない貴様らが――雑念を言の葉に乗せるなど、言語道断!!
『――ガァァッッ!!!』
盾を弾き、鎧をぶった切り、殴打にてぶちのめし続ける!!
『なんで……こんなに強いんだ』
『……勝てない』
『当然だ。お前達とは、背負っている物が違う』
俺の背には、虐げられ、蹂躙されつづけた獣人達の命運が掛かっているのだから。
『……いや、違うか』
この身を奮い立たせるのは、背負った物その物ではない。
『背負うと決めた覚悟その物が――この俺の意志を強靭と成すのだ!!』
――“荒野の黄昏に背を向けて”に、神代文字が三文字……刻まれていた。
これまで、“獣化”状態でこの青の奔流を感じた事は無かった……はずなのに。
『覚悟は、未来を切り開くという事か』
コセとの、敬愛すべき一人の漢との死闘が、俺の覚悟を新たな境地へと至らしめたか!!
『どうやら、お前達には万が一の勝ち目も無くなったようだ』
残りの有象無象を、その武具ごと斬り捨てていく。
『お前達はどうする』
「に、逃げろ!!」
「す、すいませんでしたぁぁ!!」
他種族の生者共が逃げていく。
奴等も俺に、解放軍に恨みを持つ輩か。
『なに?』
倒したモンスター共の青の残滓が頭上に集まっており――それが鳴動したかと思えば、紅く染まっていく!?
『『『――ゥオオオオオオオオッッッ!!!』』』
紅き光は巨大な骸骨騎士となり――大多数の叫びが混ざった雄叫びを発し、ここら一帯の大気を震わせた!!
『コイツが、三強の一角とやらか? ――面白い』
新たな境地へと至ったこの力、試すには良い機会だ!!
●●●
「――ハァッ!!」
いつもの二刀流に六文字刻み、意思の宿った騎士共を斬り伏せていく!
指輪で呼び出したモンスターを上手く連携させ、知恵の回る元プレーヤーを翻弄。隙を晒した所にトドメを指すという手順を、愚直に繰り返す。
「ハアハア」
もう息が上がってきたか……一度休息を取りたいところだけれど。
「倒しても倒しても減らない」
倒した数だけ赤い光が立ち昇り、新手が出現している気がする。
「奴を仕留めないと、埒があかないか」
城に行かなければクリア出来ないにも拘わらず、この一角に閉じ込められているということは……ゲーム的に考えれば、変貌した大樹を倒すことで空や出入り口の油みたいなのは消えるはず。
そもそも、アレを倒してさっさと鍵を手に入れないと、いつまでも休めない。
「行け、“究極生命体”!!」
大樹の攻撃を食らい続けて耐性が上がりまくっているはずのバイオ巨人を、攻勢に出させる!
巨人の拳が決まり、大樹の幹を撓らせた!
襲い来る枝を引き千切り、蹴りを見舞い、横チョップで毒々しい樹皮を引き裂く。
「よし! ……いや、再生している」
引き裂かれた箇所から、あっという間に元通りに。
「あの再生能力を超えるには」
――剣に九文字刻み、“究極生命体”に流し込む!!
「ケリを着けろ!!」
大樹を圧倒し、徒手空拳で更に破壊していく“究極生命体”!!
罅割れた幹の中に両手の指を突っ込み――左右に引き裂いて、紅く染まった核を露出させる!
『――――グバァ!!!』
引き千切れそうな程開いた“究極生命体”の顎より、青白い光を放射――核ごと、大樹をバラバラに吹き飛ばした。
「“究極生命体”の名に恥じぬ威力だな」
大樹の姿が完全に光へと変わった瞬間、空を覆っていたピラミッド型の結界も消える。
「予想通りだ! “偉大なる黄金の翼”、“飛翔”!!」
指輪モンスターを全て消し、空へと逃飛!
『おい、逃げるなぁぁ!!』
『卑怯者ぉぉぉ!!』
勝手なことをほざきやがる。
「後は任せた!」
込めたOPがあとどれくらい残っているか分からないけれど、“究極生命体”に、飛べない騎士共の足止めをして貰う。
「“究極生命体”を呼び出せるのは、一日一度のみ」
残り二体の強敵を、残りの手札で下せるかどうか。
○“呪毒の鍵”を手に入れました。
●●●
『ク!』
長大な剣を振るい、石畳ごと噴水や店を破壊していく亡霊騎士。
『“怨霊斧”』
おどろおどろしい青と紫のオーラを発する片手斧を召喚――左手で掴んで振りかぶる。
『“逢魔回転術”――オミナスローリング!!』
“怨霊斧”に回転を加えながら――投げ付けた!!
『チ!』
バカでかい円盾に大きな傷を与えただけで、防がれてしまったか。
『今の残光、“古代の力”という奴か』
ならば、スキルや武具効果には――頼れんなああ!!
『――ぉぉおおおおおおおおおお!!!』
振るわれた巨大な剣を避け、回り込ませるように振るわれた円盾に掴み乗り――巨大な亡霊騎士の鎧へと跳躍!
鎧の縁を足蹴にし、二本の角が生えたその兜ごと――頭をかち割る!!
“古代の力”を持っている敵には、これがもっとも効果的な攻撃手段だろうッ!!
『“逢魔斧術”――――オミナスブレイズッッッ!!!』
内部から食らわせる事で、“古代の力”を発動させずに――股下までぶった切るッッ!!!
『ハアハア、ハアハア」
こんなにくたびれたのは、ダンジョン攻略に一人で先行させられた時以来か。
その上、生意気ほざいたからと魔神戦も一人で戦わされたんだったな。
あの頃、俺を扱き使っていた異世界人共は、全員綺麗にぶった切ってやったが。
○“亡者の鍵”を手に入れました。
まずは一つ……。
「あれは……義弟か」
城の方へ飛んで行っている。
「……チ!」
また、モンスター共が湧き始めたか。
「奴ならば、鍵の一本くらい持っていよう……とっとと終わらせてしまうか」
俺も、聖地に聳える石の城へと急ぐ!




