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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第12章 残滓が消えぬ間に

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456.月下の願望

「お久しぶりです、コセさん!」

「ど、どうも」


 トゥスカ達に案内されるまま、“崖の中の隠れ家”へとやって来た俺達。


 中に入るなり、以前助けた黄色いドレスの小柄な女性に抱き付かれた!


「へと……ウララさんでしたっけ?」


挿絵(By みてみん)


「名前、覚えてくれてたんですね♪」


 やんわりと引き離す。


「あー!」

「失礼ですよ、ウララ様」


 彼女を窘めたのは、少しのあいだ共闘した狸の女獣人、カプア。


「カプアだって、コセさんと会えるのを楽しみにしてたくせに」


「べ、別にそんなことは……」


挿絵(By みてみん)


 なんだ、この妙な空気感。


「ところで、トキコとバルバはどこですか?」

「バルバ?」


 トゥスカに尋ねる。


「バルバはバルバザードの略で、ウララさんがこの前の突発クエストで奪った、ウォーダイナソーの事です」

「隠れNPCの……」


 ウララさんと協力体制を取れば、四人が俺のレギオンに加わることになるのか。


「二人なら、崖の上で模擬戦をやっているはずです」


 カプアさんが答えた。


「なら、二人の紹介は後にしますか。ところでご主人様、明日の勝負の件なのですが」

「なんの話?」


 ウララさんが尋ねてきたため、トゥスカが一通りの説明を始める。



●●●



「というわけです」


 私以外の全員が座った状態で、一通りの説明を終えた。


「結局、ヴァルカという男はなにをさせたいんだ? コセも言っていたが、二人だけで勝負すれば良い話だろう」


 アッシュグレイの髪を持つ美女の、鋭い指摘。


「兄さんは、出来るだけ穏便に諍いを治めたいんです」


「どういう事ですか?」


 今度は、青い服の小柄な黒髪少女、チトセに尋ねられる。


「あの大規模突発クエストとそれ以前に起きた抗争により、《獣人解放軍》は今までのような支配体制を維持できなくなりました。そのため、解放軍とレジスタンスの争いが終わったことを喧伝し、力のない獣人達までレジスタンスに狙われるのを避けたいのです」


「どうやら解放軍側にも納得していない者が多く、鬱憤の捌け口になるような場所を用意したいんだと思います」


 ノーザンが補足してくれた。


「けれど、俺とは戦いたいから前座の五試合では勝敗を決めないと」


 つまり兄さんは、万が一にも自分の部下が負ける事を想定している。


 というより、負かしてほしいとすら思っているかもしれない。


「だったら、隠れNPCが相手じゃ納得しづらいんじゃないの?」

 

 マリナの指摘は、的を射ているだろう。


 《獣人解放軍》のメンバーは、“獣化”のスキルに酔い痴れている節がある。信奉していると言っても良いかもしれない。


「参加メンバーは、もう決まっているんですか?」


 ご主人様に尋ねたのは、ウララさん。


「NPCと獣人を抜くとなると、俺、マリナ、リューナ、チトセ、クオリアの五人だけになってしまいます」


 つまり、一人足りない。



「なら、私が出ます。出させてください」



 申し出たのはウララさん。


 その柔らかくも毅然とした空気には、逆らいがたい物があった。


「……良いんですか?」

「私も、どこかで自分の気持ちにケリを着ける機会が欲しかったのですよ」


 弟さんのことか。


 彼女の弟、ラキさんを植物状態にしたのは、解放軍の獣人。


「ご主人様、私からもお願いします」


 頭を下げる。


「良いよ、トゥスカ。これから、同じレギオンでやっていく予定だしな」


「ありがとうございます、ご主人様」

「ありがとう、コセさん」


 それから私達は、ウララさんが用意してくれていた早めの夕食に舌鼓をうちながら、ろくに知らないレギオンメンバーとの交流を深めていくのだった。



●●●



「“吸血皇の城”よりも、こっちの部屋の方が落ち着くな」


 木製の壁と天井に、柔らかなオレンジ光の灯り。


 それに、ベッド、棚、机でほとんど部屋が埋まってしまうくらいの狭さも良い。


 “崖の中の隠れ家”に泊めてもらえる事となった俺達は、既にそれぞれの部屋へと引き上げていた。


「お待たせしました、ご主人様」


 身を清めたトゥスカが戻って来る。


 俺も既に身体を洗い終え、ラフな格好で……期待していた。


「ご主人様」


 ベッドに腰掛けていた俺の横に座り、ピッタリと身体を預けてくるトゥスカ。


 トゥスカとこういう感じになるのがあまりにも久し振り過ぎて、早鐘が……。


「なんだか今日は……初めての時くらい緊張してます♡」

「俺もだ」


 反対側の肩に手を置いて、少しだけ密着を強める。


「それにしても、少し目を離した隙に四人も手を出したのですね」

「う!」


 まさか、このタイミングで突っ込まれるとは。


「あの……トゥスカさん?」


「私は、ずっと我慢してたのに」

「……すみません」


 この手のことに対して、こんなに圧強かったっけ?


「まあ、ノーザンが気を使ってくれた手前、私も偉そうな事は言えませんけれど」


「ああ……今日は俺達二人だけでって、遠慮したんだっけ」


「明日は、ノーザンをタップリと可愛がってあげてくださいね」

「だな」


 向こうの世界だったら、絶対に世間が許してくれないような会話をしている俺達。


「つまり、私は明日は我慢するので……」


挿絵(By みてみん)


「今日はたくさん……か」


「はい♡」


 部屋の灯りを消し、サイドテーブル上のランプの小さな光源だけを頼りに、久し振りのトゥスカの身体を撫で回し始めた。



●●●



「……ラキ」


 もう何ヶ月も目が覚めない弟のベッドの横で、月明かりを頼りに手を握る。


「このステージから先へ進むには、まだ時間が掛かるけれど……必ず、治してみせるから」


 産まれたときから、ずっと一緒にいたもう一人の私。


 ラキの居ない日常は、孤独感がチラついて仕方ない。


「お姉ちゃんは……寂しいよ」


 でも、最近は孤独と同じくらい……心の奥底でチリチリと煌めく熱があった。


「コセさん……か」



●●●



「……この辺の魔物は、もう()()()()()()()()()()()


 青白き月夜の下、昨日辿り着いた腐葉土村の周囲でのモンスター狩りを切り上げる。


「この辺は人が居ないし、もうこの子に吸わせてあげられる新しい血は無いか」


 この、数多の血を凝血して生み出されたような、真紅の太刀に吸わせる血は。


「早く、この子にギルマスって人の血を吸わせてあげたい」


 私が始まりの村に辿り着いたとき、まるで伝説のように口々に語られる男の物語。


 まさか現実に、創作物の主人公のように語られる人間が存在するなんて。


 そんな人の血を吸わせれば、この子はより一層綺麗に、強く輝くだろう。



「この――“ブラッディーコレクション”に」



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