454.魔神・焰天狐
「なんとか、全員で合流できたね」
橋の砦町でのイベントを最後にクリアしたルイーサ達が、シルバーストームとフレイムマグナムを駆って、山に点在する安全エリアの一つへとやって来た。
「お、思ったよりキツかったぞ、ここのイベント」
「私が前に挑んだ時に比べれば、楽な物ですよ。皆さん、優秀ですから」
くたびれた様子のルイーサ達を労うヒビキ。
「さっさと砦内からアイテムを回収しないといけないから、大して休んでいる暇なんてないし……よくここを、たった二人で突破できたわね、コセ達」
アヤナが、珍しくうちのマスターを素直に褒めている。
「バイクが無かったら逃げるのも面倒だし、実際、いきなりこのステージに飛ばされた状態の二人でクリアしたのは、奇跡的だったと思うぞ」
フェルナンダまで賞賛しだすなんて……もうすぐ雨が降ってくるかも。
「二十ステージ台では最大と言って良いくらいの難所だし、今日の攻略はこのくらいにしておく?」
全員の顔を窺うも、まだまだやる気はあるらしい。
「それじゃあ、早めの昼食を取ったら、攻略を再会するとしますか」
王国兵士達と戦えるのがパーティーごとだから、先にクリアしたサトミ達が、待ち時間を利用して昼食の準備をしちゃってるし。
「今日は、大自然の中でお昼を食べるわよ~♪」
「「「おーう!」」」
昨日のバーベキューで味を占めたのか、みんな安全エリアで食べるのに乗り気らしい。
ここは他のパーティーと接触する可能性もあるから、本当は神秘の館で食事した方が安全なんだけれど……ま、いっか。たまにはね。
●●●
「“瘴気魔法”――“直情の発露”!!」
クオリアにより、空飛ぶ鎌が迎撃される。
「飛び回る武器か。数は多くないけれど、結構厄介ね」
「だな」
マリナの言うとおり、変幻自在に金属の塊が飛んでくるため、気合いを入れた一撃を叩き込まないといけないのにそれが困難。
本来飛ぶはずのない武器が浮いているのもあって、動きが読み辛いのも厄介と感じる要因。
「“聖騎士武術”――パラディンバッシュ!!」
ナターシャの四角い盾、“ロイヤルロードシールド”から生じた衝撃波により、斧と剣が弾き飛ばされる!
「ユウダイ様!!」
「おう!!」
弾かれて空中で止まった瞬間、そこに剣を振り下ろす!!
「“破壊武術”――ウェポンブレイク!!」
黄土色の柄を持つ剣を砕く!!
「パラディンブレイク!!」
ナターシャの“ロイヤルロードキャリバー”により、青い斧が斬り砕かれた。
「“光線魔法”――アトミックレイ!!」
マリナにより、最後に銀の槍が消滅。
「ようやく片付いたか」
地味に面倒な敵だった。
「ここまで大量に出くわすパターンは珍しいので、運が悪かったのだと」
ナターシャの指摘。
「そ、そうなのか」
「ポータルが見えたわよ!」
マリナに呼ばれる。
「さて、もう一踏ん張りか」
もうすぐ、トゥスカに会える。
★
○戦士.Lv60になりました。OPを取得。設定機能を解禁。
「噂のOP、ようやく使えるようになったか」
これは、あとでジックリと使い方を調べるとしよう。
「コセ、そろそろボス戦について頼む」
「ああ」
ボス部屋前で合流した俺達は、ボス戦前に軽い休憩を取っていた。
「第三十六ステージのボスは、魔神・焰天狐。弱点は水、有効武器は太刀と大刀。危険攻撃は、無数の火の玉を操って飛ばしてくる狐火」
手脚の先端や髪が朱色で、身体は白い妖精の隣で話す。
「ステージギミックは、白炎の狐達が現れて纏わり付いてくること。コイツらには実体がなく、水属性攻撃でないと効き目が半減。武器などでは一切のダメージが与えられない」
「じゃあ、狐の対処は私がやった方が良いわね」
マリナが自分から申し出た。
「それと、焰天狐は浮遊能力を持っていて、壁を蹴って素早く動く。空中で仕掛けようとすると、大質量の体当たりを食らうことになるかもしれないって話だ」
教えてくれたのは、実際に戦闘経験のあるヒビキという女性。
「じゃあ、俺達から……」
「私達の方が先に来ていたんだから、コセ達は後にしておけ」
「へ?」
突然リューナにそう言われ、さっさとボス部屋の中へと入っていくチトセ達四人。
「……」
「アンタがトゥスカに早く会いたがってるの、見透かされたんじゃないの?」
マリナの指摘。
「……そんな風に見えてるのか?」
「どこか落ち着きがないし、丸分かりよ」
「はい。昨日より、いつもと様子が違うのは明らかでした」
「今日だけで心臓が何度も高鳴って、胯間の辺りがキュルキュル言ってましたね」
マリナ、ナターシャ、クオリアの順に指摘される……なにこれ、恥ずかしすぎる。
というか、クオリアにはそんな音まで察知されてるの!?
「ドスケベユウダイ」
「発情魔ですね」
マリナとクオリアの言い方が酷すぎる!
希望を込めて、なんとなくナターシャを見詰めた。
「ユウダイ様の節操無し」
「グフッ!!」
まさか、使用人NPCであるナターシャにまで指摘されるなんて!!
「……私に発情すれば良いのに」
今、ナターシャが変なことを言ったような……。
「リューナ達、終わったみたいよ」
ボス扉の光が消えていく。
「ほら、さっさと行くわよ、ユウダイ!」
「……はい」
こんな底辺ヒエラルキー気分を味わうの、なんか久し振りだ。
扉が閉まると同時に、奥で朱肉色のラインが走り――四つの尾を持つ、白石の巨狐が動きだす!
『コォォ!!』
どこか女性のようにも見えるそのフォルムは、四足歩行ではあるが、人型が意識されたよう造形。
そんな狐が走り出して――跳躍してきた!?
「――“拒絶領域”!!」
“サムシンググレートソード”に十二文字刻み、神代の力を流し込んで円柱の拒域を強化――魔神・焰天狐を弾き飛ばす。
『コォォォーーーン!!』
体勢を立て直した直後、四つの尾より炎の玉が絶え間なく放たれ――流れるように俺へと向かってくる。
更に、ステージギミックである白炎の狐達の数が一気に増大し、一斉に向かってきた。
「――“飛王剣”!!」
全力で力を流し込んだ斬撃を放ち、白炎の狐達を消失させる。
ただし、魔神は跳躍により回避し、浮遊状態になってから――壁を蹴って高速移動へ。
「“猛毒魔法”――ヴェノムバイパー!!」
「“氷河魔法”――グレイシャ-バイパー!!」
紫の毒液で出来たクオリアの大蛇とマリナの氷河の大蛇により、無数の狐火が消え失せる。
「今です、コセ様!」
「助かる――“神代の天竜”!!」
鎧に十二文字刻んでから青白き翼竜の光鎧を纏い、高速で動き回る天狐へと接近!
「“空衝”!!」
加速して体当たりし、そのまま飛翔を続けて天井に激突させる!!
「“古代竜魔法”――――ドラゴノヴァ!!」
全てのMPと引き換えに放つ、全方位に対する赤銅色の爆裂光をゼロ距離で炸裂させ……魔神・焰天狐を跡形もなく消し飛ばした。
○おめでとうございます。魔神・焰天狐の討伐に成功しました。
着地と同時に、チョイスプレートが展開される。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★焰天狐の四尾 ★千狐焰のスキルカード
★サブ職業:狐嫁 ★紅蓮王の指輪
火に特化しているプレーヤーにとってはどれも強力らしいけれど、俺の場合は“紅蓮王の指輪”だな。
メルシュの話では、アイテム属性変換機能で変更できるらしい。
ただし、紅蓮は火の属性のみのため、単一属性系統にしか変更できないそうだ。
○これより、第三十六ステージの獣の聖地に転移します。




