451.魔神・岩石河馬
「魔神・岩石河馬の弱点属性は鉄。有効武器は斧、危険攻撃は岩石を柱のように連続発射してくる魔法、ロックブラスト」
最後のパーキングエリアの奥、巨大な崖に埋め込まれるように存在するボス扉の前で、いつものメルシュさんの最終講義。
「ステージギミックは、床の水位が徐々に上がっていくこと。岩石河馬は水を吸うと防御全般が跳ね上がっていくから、水では絶対に攻撃しないように。水属性程じゃないけれど、氷属性でも上がるから気を付けて」
「となると、私は戦力外か」
そう呟くナオさんの顔には、楽が出来ると書かれてあるかのよう。
「余し!! 余達が一番槍だ! 行くぞ、クマム! ナオ!」
「いや、それは」
一番倒されちゃいけないメルシュさんが居る私達のパーティーは、三番目くらいに挑むって流れが出来ているのに。
「それじゃあ、クマムとナノカ。よろしく」
メルシュさんも乗り気!? しかも、私達二人だけで戦わせようとしている!?
「あの……良いんですか?」
「ジュリー達バイク組は疲れているようだし、良いんじゃない?」
メルシュさんて、時折課題を押し付けてくるときがあるような……。
「ナノカ、その武器で戦うの?」
ナノカが手にしたのは、魔神が使っていた“牛斧の大斧”……ではなく、黒い禍々しい斧。
柄が短い割に、刃は大きい。
「”天元侵蝕の木樵斧”、Sランク。魔神の武器はランクが低すぎて、いかに余がランクを一つ上げられるとはいえ、役不足だからな!」
「ザッカルが手に入れた物だけれど、このレギオンで斧を使うのはトゥスカとノーザンくらいだからね。魔神子であるナノカなら有効に使えるし、ちょうど良いかなって」
「ナノカ特有の、“魔人武術”のことですか?」
ナノカのスキルは、他の隠れNPCと比べて数が多いし、伸び代がある。
「て、サトミ達に先を越されてる余!?」
何故か悔しそうなナノカ。
そう言えば、サトミさん達のパーティーにはモモカちゃんとバニラちゃんが居たはず!
「よし、終わったぞ!」
「い、行きましょう、皆さん!」
はしゃぐナノカに促されるように、私達も急いで中へ。
モモカちゃんが先に進んだなら、私達も急がないと!
「“宝石魔法”――ダイヤモンドダスト!!」
メルシュさんの初撃により、青紫色のラインが走った直後に凍り付く赤紫色の岩石河馬。
「ほい、今だよ!」
「“天元侵蝕”――“瞬足”!!」
「“竜巻噴射”、“天使の翼”!!」
”白百合の竜巻脚甲”の裏から竜巻を放って、上から接近する!
氷が溶けて防御力を上げてしまう前に、一気に終わらせないと!
「“魔人武術”――サタニズムブレイカー!!」
黒靄を纏った斧で、氷ごと魔神の身体を崩していくナノカ。
「“天使の輪っか”」
頭の上に光の輪っかを生み出して、天使系の能力を強化!
「“天使法術”――ヘブンジャッジメント!!」
“大輪の花華への誓い”に九文字刻んで、そこから流し込んだ莫大なエネルギーで更に強化――頭上から裁きの光を浴びせる!!
「魔法陣が!?」
黄土色の陣が、私に向かって展開されてしまう!
「――“魔斬り“!!」
ナノカが、魔法発動前に陣を切り裂いてくれた!
「水が」
既に床一面を覆い尽くしていて、その水を吸っているのか、魔神・岩石河馬の身体が赤紫から黒へと変わり始めている!
「トドメだ、マスター!」
「――“伸縮”!!」
ナノカが攻撃して崩れたカ所から、伸ばした刀身を突き入れた!
「“共振破壊”!!」
神代の力を全力で流し込み――内側から一気に破壊していく!!
○おめでとうございます。魔神・岩石河馬の討伐に成功しました。
「ハアハア、ハアハア」
やっぱり、神代文字を全力で使うと消耗が激しい。
コセさんは、これ以上の文字を同時に行使して長時間……なら、私だってもっと。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★岩石河馬の吸水鎧 ★岩石魔法のスキルカード
★岩石河馬の頭甲手 ★石柱針の指輪
○これより、第二十八ステージの橋の砦町に転移します。
●●●
「ここが、コセ達が飛ばされた場所か」
デカい煉瓦の橋の上に、大小様々な建物が。
「ここまで来るのに、だいぶ時間が掛かったな」
「なに黄昏れてんのよ、ルイーサ」
「アヤナ……コセが居なくなってからここに来るまでに、色々あったなって」
アオイの死もそうだが、スヴェトラーナ達との旅と別れ、トゥスカ達と会えなくなったり……。
「……そうね」
「抱かれたい……か」
ジュリーのあの言葉に、揺さぶられた自分が居た。
「どうした、お前達? 早く下りて、今日はさっさと休もう」
祭壇を降りていく皆の後ろから、フェルナンダに呼ばれる。
「ああ! 行こう、アヤナ」
「……うん」
誰かに甘えたいのかな……私。
●●●
「ようやく会えたわね、アテル」
ルフィルとコツポンと共に、二十五ステージで《日高見のケンシ》と合流した。
「アテル様、彼女達が……」
金髪の獣人が、アテルに尋ねている。
コイツら、全員強い。
それに……私達のように、仄暗いなにかを抱えている奴等ばかりみたいね。
「ああ。彼女達が、僕達の新しい仲間だ」
「よろしくお願いします、皆さん」
「精一杯、ご奉仕しますよ~」
「アンタ達とは、仲良くやっていけそう」
私はもう戻らないわよ……リューナ。
たとえ、アンタを敵に回すことになったとしても。
◇◇◇
《先日のあのクエストはなんだ、オッペンハイマー!!》
シーカーの一人が、わざわざお叱りの連絡を寄越してきた。
《あれでは、我々の方が原種共よりも劣っているようではないか!!》
『問題の一団の一人を殺せたにも関わらず、なにがご不満なのです?』
まあ、こうなると分かっていてお前達を参加させてやったわけだが。
《貴様……貴様の代わりなど、幾らでも居るのだぞ!》
『では、レプティリアンの誰かが代わりを務めますか? ダンジョン・ザ・チョイスは、神の力で出来た半ば高次元世界。貴方達にとっては、関わるだけで毒に成り得る』
『我等の足元を見ようと言うのか、貴様は!!』
『――――弁えろと言っている』
《ヒッ!!》
容易く怯え、くだらぬプライドが折れるシーカー。
《その黒き翼は……なぜ、貴方様が……ルシフェリアンが》
《君達が住み心地の良い低周波世界を確立してくれたのでね、この私がやって来てやったんだ》
《な、なぜ今まで、我々に隠して……この星の人間に転生を……》
《なぜこの私が、わざわざお前如きの疑問に答えてやらなければならない? 身の程を弁えろと言ったばかりだが?》
《も、申し訳ありませんッ!! し、失礼します!!》
『その前に、私の事はまだ黙っていて貰えるかな? 誰にも』
『は、はい! もちろんです!』
これで、シーカーのカス共を暫く黙らせておける。
『……さて』
この数か月で、神代文字を刻める人間も、刻める文字の数も激増した。
『そろそろ、SSランク武具を増やす許可を出す頃合いかな』
バグ現象ももうほとんど無くなったし――もっともっと、彼等に試練を与えなければねッ!!




