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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第12章 残滓が消えぬ間に

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450.可愛い家族

「……なんだか落ち着かないな」


 今日の攻略を早めに切り上げ、“吸血皇の城”へと戻ってきた俺達。


 チトセさんは手に入れた素材を使った調合へ、マリナとリューナは攻略中に食べやすい物の作成、ナターシャとネレイスは今夜の食事の準備を。


 クオリアはというと、エルザに戦闘訓練をして貰っているらしい。


「……俺はどうするかな」


 明日からは別エリア。順当にいけば、明日のうちにトゥスカに会える……今、完全にノーザンの事が頭から抜けてたな。


「トゥスカにもうすぐ会えると思うと、なんだか落ち着かないな」


 城の廊下を歩きながら、そんなことを呟いていた。


「フーン、そんなにトゥスカさんに会いたいんですね~」


 角から現れたのは、チトセさん。


「大規模突発クエストの時、コセ君たら、感極まってあんな熱烈なキスしてたしね~」


 そう言えば、あの時チトセさんにも見られてたんだった。


「あの……調合してたんじゃないんですか?」


「なんだか集中出来なくて、大きなお風呂があるっていう浴場に行こうかなって。コセ君も一緒に行く?」


 コセ君か……なんで初めてあった頃みたいに、君に戻ったんだろう?


「……そうですね」


 汗で身体がベトついてるうえ、粘液の悪臭が若干臭うし。



            ★



「……あの、本当に良いんですか?」


 てっきり男と女で分かれていると思い込んでいた俺は、脱衣所に来るまで混浴である事に気付いていなかった。


「私が良いと言ってるんですから……誘ったのは私だし」


 チトセさんに申し訳なさそうに説得され、俺達はタオルで身体を隠しながら一緒に巨大ジャグジーで入浴する事に。


 そう言えば、他に温水プールもあるんだっけ。


「それに、二人だけで話しておきたい事もあって」

「それじゃあ……」


 かけ湯ののち、二人で湯船に浸かる俺達。


 気を遣って離れた場所に浸かろうとするも、チトセさんから隣りにやって来た。


「……」

「……」


 ……湯に浮かぶ花弁から、仄かに良い香りが。


 小さい頃、この匂いを何倍にも凝縮したような香水の匂いが、本気で嫌いだった。


 あまりにも匂いが強すぎて、鼻が曲がりそうなくらいの悪臭と区別が付けられないくらい、最悪に感じていた程だ。


 その感覚を元凶の母親に訴えたけれど、一切理解してはくれなかったな。


「フー……それで、話したい事って?」


「……私が銃火器を使うと性格が変わるの……気付いてますよね?」


「まあ……」


 吸血皇と戦った時、初めて目撃したチトセさん本来のバトルスタイルと人格。


「昨日、マリナ達からたびたび豹変していたとは聞きましたけれど」


 俺が気を失っていたり、別ルートを通っているときに、仲間のピンチに銃火器を使って助けてくれていたと。


「あの……やっぱり、ああいう女の子は……嫌い……ですよね」


 無意識なのか、左右の人差し指を何度もくっ付けるチトセさん。


「ギャップには驚きましたけれど、オラオラ系の妻が一人いるので」


 ザッカルは、今どの辺りに居るのかな?


「そう……なんだ」

「それに、普段のチトセさんも豹変したチトセさんも、どっちもチトセさんなんでしょ?」


 少なくともチトセさんは、良い子ぶって自分に都合の良い嘘を付くような卑怯者じゃない。


「コセ君って……本当に十五歳?」

「へ?」

「私が十五歳の時よりしっかりしているって言うか……大人っぽいなって」


 まあ、同級生や家族より人間性は大人だったろうな。


「そういう、心の隙間を埋めるような手で、数々の女の子を物にしてきたってわけなんだね」


「そんなことは……」


 そもそも、この世界に来るまでモテた事なんて……一応、マリナは昔から俺の事が好きだったらしいけれど。


「うーん……私も、元の世界には帰らずに、こっちに残ろっかな!」


 急に背伸びして、チトセさんの胸元のタオルが少しズレる! ……結構大きいよな、チトセさん。背が低い割に。


「どこ見てるの、コセ君?」

「いや……すみません」


 さすがにそれは狡くないか、チトセさん。


「ところで……なんでくん呼びに?」

「コセ君は頼りになるから、いつの間にかさん付けになってたけれど……頼りになる他人より、可愛い家族みたいに思いたくなったのかな…………ぁ」


 家族という部分に、特に深い意味なんて無いんだろうなって思おうとしたのに、そんな反応されたら……。


「……もし私が居なくなったら……嫌?」


挿絵(By みてみん)


 その言い方は、幾らなんでも狡すぎるだろ!


「――嫌に決まってるでしょ」


 正面から距離を縮め、彼女の瞳を見詰める。


「私も……良いの?」

「むしろ、俺で良いのか? 自分で言うのもなんだけれど……たくさん居るし」



「もし私を捨てたら――絶対に赦さないから」



 本物の殺気に……玉が冷えた。


「グッ!?」


 チトセさんの足が!!


「二人でお風呂に入ってるの、誰かに気付かれる前に……ね」


「チトセさんて……」


 大樹村で俺達に付いてくるって言ったときもそうだったけれど……この人、かなり強引だ。


「その気にさせた責任、取って貰うからな」


「コセ君の方が年下だけれど……お姉さんに色々教えて♡」


 頬を赤らめて上目遣いになっているチトセさんの唇を奪い、彼女の身に着けていたタオルを湯船の中へと沈めた。



●●●



『もしもーし。ジュリー達、聞こえてる?』


 通信機からメルシュの声が。


「ああ、聞こえてるよ。もしかして、そっちはもう着いたの?」

『うん。なんかこっちのパーキングエリアに待ち伏せしている奴等が居たけれど、全員片付けたよ。仇だとか言ってたから、ジュリー達が遭遇した奴等の仲間だったと思う』


 あの集団、やっぱり他にも居たのか。


「モモカは……見たの?」


 人を殺すところを。


『バイク組に先行して貰ったから、その辺は大丈夫。まあ、薄々気付いているような気もするけれど』


「……そう」


 私達は、モモカの良いお手本になれているのだろうか。


『そっちは、あとどれくらいで到着しそう?』


「もう見えてきてる。五分くらいかな」


『なら、今日中にボス戦まで行けそうだね』


「ああ」


 このステージのボス戦を終えたら、次はいよいよ二十八ステージ……コセ達が落ちた場所か。


 そろそろ、コセのぬくもりが思い出せなくなってきているな。


「早く、コセに抱かれたいなー」


『『『聞こえてるぞ(るわよ)、ジュリー』さん』ちゃん』


「…………」


 私は、無言で通信機を切った。


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