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45.ワイズマンのメルシュ

「ん♡ ……ん♡ あむ♡」


 ぼんやりとした意識の中に、甘美な刺激が入り込んでくる。


 口内にネチョネチョ、ウネウネとした感触。


「ん……トゥスカ……?」

「おはようございます、ご主人様♡ 昨夜も激しかったですね♡」


 トゥスカが目覚めのキスをしてくれていたらしい。


「……激しかったのはトゥスカさんですよね?」


 昨夜はほとんど、トゥスカさんが上で腰を振っていた。


 俺も頑張って突き上げたけれど、トゥスカさんの体力にはついて行けませんでした。はい。


 ……夫として不甲斐ない。


「ご飯の準備をしますね♡」

「いや、外に食べに行こう」


 昨日、宿近くでNPCがやっている店を見付けていた。


「私のご飯に……飽きちゃったんですか?」

「ズルイ言い方をするな」


 その言葉が、どちらかと言えば冗談だと分かっている。


 トゥスカの料理、味付けが似通っているから気にしていたのかも。


「新しい味に触れるのも、良い刺激になるだろう?」

「気にしてることバレてる!?」


 夜の営みの時よりも恥ずかしそうだ。


「早くシャワーを浴びよう」


 

             ★



「ネイルグリズリーのスープ、ローストリザード、丸ごとポテト、丸ごとオニオン、お待ち!」


 (いか)ついオッサンが、注文してすぐに料理を運んできてくれた。


「なんて贅沢な調理法!!」


 丸ごとだと、火を通すのに時間が掛かるからなー。トゥスカからすると贅沢なのだろう。


 野宿だったら、確かに贅沢の極みみたいな料理かもしれない。


 注文してから届くまでの間に店内のNPCに話を聞くつもりだったのに、本当にすぐだったよ。


 店は四方のうち二カ所の壁が無く、そのためか真ん中に巨大な柱があった。


 おかげで、店内にも関わらず心地良い風を感じながら食事が出来る。


「お客さん、夜はリザードマンが出るから気をつけな。規格外にデカい奴を見たって話しもある」

「ど、どうも」


 料理を運んでくれたおっさんが去っていく。


 ……どっかで聞いたことがあるような話しだったな。


「昨日からNPC以外の人間に会いませんね?」

「そうだな」


 あの三人を除外すると、生きた人間に会っていない。


「早く食べましょう」

「おう」


 久っしぶりの、トゥスカ以外の他人の料理! 他人の料理?


「「いただきます!」」



             ★



 食後、トゥスカと二人で街を散策していた。

 武具は持たず、手を繋いでブラブラ歩く。


 最初は警戒していたけれど、プレーヤーは一切見掛けない。


「やっぱり凄いですね、ここは。見渡す限りの石畳。それに高い建物ばかり……」

「まあ、壮観だよな」


 トゥスカが俺の故郷を見たら、どんな反応をするのだろう?


「ここはなんだ?」


 急に赤茶のレンガの壁が現れ、とても長く続いている。


 暫く歩いて行くと、門が見えてきた。


 守衛のような男が一人。


「すみません」

「ここは”英知の学園”の入り口です。ここの門を潜らないと、敷地内には入れませんのでご注意を」


 敷地内に入れないから注意?


「簡単に跳び越えられそうですけれどね?」


 “跳躍”のスキルを使えるトゥスカなら、そうだろうな。


 チョイスプレートから、第一ステージで拾った枝を出現させ、放る。


「わっ!!?」


 門の上を潜ろうとしたところで、枝がバチバチと鳴り……燃え消えた。


「……トゥスカ、絶対に跳び越えるなよ」

「わ、分かりました」


 なんでこんなに厳重なんだ?


「学園に入りますか? 入場料1000Gです」

「入場料を取るためか……」


 そう考えると、なんか急に世知辛さが。


「ここでは、なにができるんですか?」

「魔法使い職の方なら、お金を払って魔法を学べますよ」

「戦士職の場合は?」

「特にはありませんね」


 無いのかよ。


「ご主人様。例の歯車で直せる時計って、ここなんじゃ?」 


 メシュから貰った歯車。


「……入場料、払います」

「ごゆっくりどうぞ」


 チョイスプレートを操作し、2000Gを払った。



             ★



「アレですかね?」


 五階建ての立派な学校には入らず、回り込んで建物の反対側へとやって来た。


 庭の奥には、高さ二メートルはある古びた木製の時計が置かれている。


「居ないな……メシュ」

「……そうですね」


 俺もトゥスカも、ここに来ればメシュに会える気がしていた。


「会えたからといって、それで終わりだろうけれど」


 メシュはNPCなのだから、見付けても一緒に行はしない。


 どちらにせよ、すぐに別れは訪れるのだ。



○”ワイズマンの歯車”を使用しますか?



 時計に一歩近付くと、チョイスプレートが出現する。


 YESを選択。



「――ありがとう」



 誰かの声が聞こえた!?


「今の声、メシュに似ていた気が……」


 トゥスカにも聞こえていたらしい。


「それにしては、ちょっと大人っぽかった気がしたけれど……」



○以下から一つを選択出来ます。


★ワイズマンをパーティーに加える。

★大賢者のサブ職業を手に入れる

★大賢者のスキルカード・鑑定のスキルカードを手に入れる。



 またチョイスプレートが。


「ワイズマンをパーティーに?」


 ワイズマンがなにか分からない。


「ワイズマンって、種族名か? この世界にはエルフとかドワーフも居るんだろう?」

「エルフやドワーフはともかく、ワイズマンなんて聞いたことありませんよ」


 ワイズマン以外の選択肢だと、大賢者に関する物か。


 ワイズマンっていう言葉にも、賢者とかそういう意味があったよな?


「大賢者って事は、回復魔法関係なのでしょうね」

「だとすると、ワイズマンは魔法使い職か」


 魔法使い職がパーティーに加わる。


 問題は、どういう人間なのかが分からないこと。


「メシュ……だったりしませんかね?」


 仲間になるのがNPCなら、確かにメシュという可能性も。


「……どっちにしろ、人手は必要か」


 昨夜、三人目のパーティーメンバーの必要性を強く認識したばかり。


「ご主人様の好きなようにお選びください」

「ありがとう、トゥスカ」


 俺は、★ワイズマンをパーティーに加える。を選択した。


「うっ!!」

「なに!?」


 時計が光りだし、形を変えていく!?



「初めまして、マスター」



挿絵(By みてみん)


 緑味を帯びた白髪の少女が、豪奢な薄緑のローブを靡かせ、恭しく(こうべ)を垂れた。



            ★



「君は……なんだ?」


 場所を傍のベンチに移し、話を聞いていた。


「私はメルシュ。ワイズマンという種族っていう設定の、NPCだよ」


「設定……」


 自分から設定って言ったよ。


「そこらのNPCと一緒にしないでね、マスター。私は超高性能NPCなんだから」

「はぁ……」


 見た目、十五歳くらいかな?

 どことなく、メシュの面影がある……気がする。


「聞きたいこと、なんでも答えちゃうよ、マスター」

「なら、マスターってなんだ?」

「今の私は、マスター専用の奴隷扱いなの」

「奴隷? ……本当だ」


 チョイスプレートを確認すると、彼女が俺の奴隷扱いでパーティーに加わっていた。


「ほら、本当でしょ? まあ、私達NPCの胸には、奴隷の印は無いけれど」

「ちょ、やめなさい!」


 背の割に大きな胸元を強調してくるメルシュに、慌てるトゥスカ。


「そうらしいな……君は、本当にNPCなのか?」

「本当だよ、私は”隠れNPC”の一体。このゲームに用意された特殊なNPCなんだよ」


 他にも居るのか。


「あ、特殊って言うのには幾つか理由があって、私の場合、武器や防具は一切装備出来ないんだよ」


「「へ!?」」


 隠しと言うのだから、普通よりも強力なんじゃないのか?


「その代わり、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「「……は?」」


 制限無しって、どういう事だ?


「スキルの修得制限数の中に、魔法系スキルは含まれないの。えーと、マスターのLvが19だから、今の私は魔法以外のスキルを二十まで修得出来るよ♪」


「なんで……そこで俺のLvが出て来るんだ?」

「私のLvは、マスターと連動しているからだよ」


 確認してみると、本当に同じLvになってる。


「つまり、俺のLvが上がれば、君のLvも上がる?」

「そうそう。ちなみに、隠れNPCは一人一体しか所持出来ないからね。パーティーに加えられるのも一人だけだから、隠れNPC持ち同士はパーティーを組めないよ。あと、私は売り払ったり出来ないから、要らなくなったら殺すしかないかな」


 メシュに似た顔で、とんでもない事を口にするメルシュ。


「それと、隠れNPCは装備が固定、専用の物が幾つかあるから。私の場合は、この“ワイズマンのローブ”と”賢者のネックレス”だよ」


 チョイスプレートで性能を確認してみる。


「……強力過ぎないか?」

「……本当ですね」


 衣服であるにも関わらず、防御能力が俺の鎧と同程度もある!?


 わざわざ装備を揃える必要が無い、魔法特化のNPC。


 これほど都合の良い存在がパーティーに加わってくれるなんて。


「そうそう、ここの学校ってお金さえ払えば色んな魔法を修得出来るんだよ」


 メルシュが修得しているのは……”鑑定”と“魔法強化”、それに“英知の引き出し”? 


 その下に、魔法スキルという別枠で“生活魔法”があった。


 魔法スキルだけ無制限にって、こういう事か。


「学校で教えて貰う前に、Lvアップの選択を終わらせよう。いや、まずは――俺の名前はコセだ、メルシュ」


 俺はようやく、メルシュに自己紹介を始めた。


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