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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第12章 残滓が消えぬ間に

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442.硝子が見据える敵

「……本当に普通なんだな」


 チトセさんが調合室に閉じ籠もってしまったのもあり、俺はナターシャと二人で“吸血皇の城”を見て回っていた。


 以前数多の墓所へと通じていた場所は地下倉庫となっており、城には広い食堂やキッチン、広大な薔薇の庭、使用人用の部屋や巨大な温水プールなども完備されている。


「たまになら、泊まりに来たくなるかも」


 ここで暮らしたいとは思えないけれど。


「早く”神秘の館”に戻りたい」


 本当に、我が家が恋しいよ。


 そんなことをボーッと考えながら一点を見詰めていたら、それが窓を拭く吸血鬼メイドのお尻だったことに気付く。


「お尻に興味がおありなのですか?」

「いや、別にそういうわけじゃ!」


 NPCとはいえ、身体に触ったりすることに罪悪感を覚えるし。


 胸やお尻なんて、もってのほかだ。


「幾らでも、触らせてくださる方々がおりますしね」

「それはそうだけれど……胸を触らせてなんて、頼んだことないからな?」


 人として恥ずかしすぎる。


「私にであれば、いつでも構いませんよ」

「……へ?」


 ナターシャのデザインに自分の好みがかなり入っているため、つい動揺してしまう!


「へ、変な気を遣わなくていいから」


「私の身体、ピチピチですよ?」


「やめなさい」


 どこで憶えたんだ、そんな言葉。


「そ、そう言えば、Lvは幾つになったのかな!」


 我ながら、話の逸らし方が下手!



○戦士.Lv58になりました。スキル・スキルカード変換機能が解禁されます。


○戦士.Lv59になりました。アイテム属性変換機能が解禁されます。



「……なんだこれ?」


 特殊クエストでLvが2も上がっている事に驚いたけれど、それ以上に新しい機能の意味が……。


「スキル・スキルカード変換機能は、一部のスキルを変更する機能です。一度につき10000Gを消費し、例えば“水属性強化”を“火属性強化”などに変更できます。他にも、○○属性付与、属性付きの武術、魔法なども対象になります」


「なるほど」


 状況によっては特定の属性がまったく役に立たない場合もあるし、自分に合わない魔法のスキルカードを手に入れても、好きな物に変更できるってわけか。


「後者はそのアイテム版ですね。”竜の短剣”を”闇の短剣”に変えたり出来ます。一番使用対象になりやすいのは指輪かと」


「ジュリーやメルシュが、不要なアイテムをあまり売ろうとしなかったのって……」


 この機能について知っていたからなのか?


「細かな制約はありますが、使いこなせれば、この先の冒険が多少なりとも楽になるかと」


「確かに……もしかして」


 ”共有のティアーズ・グリーン”を対象にしてみようとする……けれどダメだった。


「ブルーにはできないか」

「名前が違うだけで、属性が異なるわけではありませんので」


「やっぱり、鍛冶屋に持ち込まないとダメみたいだな」


 一日掛かると考えると、地味に面倒なんだけれど。



●●●



「出来た」

「マリナ様……あの?」


 部屋の椅子に座らされたと思ったら、急に髪を整えられてしまった。


「もう少し髪の手入れに気を遣いなさいよ、アンタは。毛先とかボサボサじゃない」

「はあ……」


 目が見えない私には、見栄えというものがよく分からない。


「きっとユウダイも、その方が喜ぶわよ」

「そう……いう物でしょうか♡?」


 コセ様にどう想われるか考えるだけで頬が熱くなり、胸が苦しくなってしまう。


 昨晩、あんな行為をするまでは……こんなこと無かったはずなのに。


「あの……マリナ様は、私にお怒りだったのでは?」


 部屋に連れ込まれた時は、暴力の一つでも振るわれるのかと覚悟したのですが。


「まあ、多少は気にくわないけれど、もう受け入れちゃってるし。最大のライバルなんて、私達以上にユウダイに……愛されちゃってるし」


「トゥスカ様ですか」


 まだお会いしたことはありませんが、コセ様にもっとも愛されるなんて、いったいどのような方なのか。


 その人の事を考えると少し……黒い感情が芽生えてしまいますね。



●●●



「戦闘音がしたけれど、なにがあったの?」

「ちょっとゴミ片付けをしていただけよ。派手にね」


 NPCのナースにセクハラしまくってた汚物をね……あんまり人のこと言えないけれど。


 で、でも、私はあそこまで下品じゃないし!


「じゃあ、全員揃った事だし、今日中にこの工場地帯で出来ることを終わらせちゃおうか」

「全員? ユリカとジュリーのパーティーが見当たらないけれど?」


 そう言えば、モモカとバニラも居ない。


「ユリカが疲れちゃったみたいで、せっかくだからバニラ達と一緒に戻って貰ったよ」

「ああ」


 さっきみたいな男達とあの子達を、万が一にも接触させたくないもんね。


「それで、ジュリー達は?」


 ルイーサが尋ねる。


「先に、この場所特有のイベントをこなしに行ってくれているよ」


「特有のイベント?」



●●●



「マシーンが欲しい」


 とある工場の奥にいた、老人NPCに頼む。


「……俺は、腕の良い奴にしかマシーンを売らねー。そんなに欲しけりゃ、腕を見せな」



○タイムアタックレースに挑みますか?



「ジュリー様、これからなにをするのですか?」


 タマに尋ねられる。


「この工場地帯を出るにはマシーンが必要なんだけれど、そのマシーンを自分で用意するか、高値でバスに乗せて貰うかが選べるんだ」


 乗せて貰う場合、自分のLv×10000G払わなければならない。


 しかも、その間のアイテムは一切手に入らなくなってしまう。


「それで、ここで乗り物を売って貰おうと思うんだけれど、このイベントを高い成績でクリアすれば、一人につき一度だけ、半額でマシーンを売ってくれるんだ」


 ただし、難易度が高い上、隠れNPCや使用人NPCはこのイベントの対象外。


 通常の奴隷は参加できるけれど、奴隷がクリアした場合は主に値引きの権利が与えられるらしい。


 私は、参加するという意味のYESを選択。


「建物の裏に来な」


 言われたとおり工場の裏に行くと、サーキットの端でさっきの老人が待っていた。


「そこのバイクに乗ってコースを三周しろ。七分を切れたら売ってやる。チャレンジ出来るのは三度までだからな」


 五分を切れば三割引、三分を切れば半額になる。


 ここ以外にもマシーンを売っている場所はあるけれど、安くして貰えるのはここだけだし、最初から特殊性能が備わっているSランクマシーンを手に入れられるのもここだけ。


「タマとスゥーシャは一応、私の走りを見ておいて」


 さて、オリジナルなら余裕でクリアできるミニゲームだけれど、今回はリアルオートバイでクリアしなければならない。


 途中で買ってきた“レーサー”のサブ職業のお陰で操縦法は頭に入ってきているし、偶然手に入れたレールバイクで練習もしたけれど……本番はどうなるかな。


 “聖霊の大ケープ”などの邪魔になるものを外して、髪を後ろで結わえ、紺色の自動二輪に乗り込む。


挿絵(By みてみん)


「用意はいいか?」

「オーケー」


「この音をよく覚えな」


 ピッ、ピッ、ピーという音が鳴る。


「三つ目の音が開始の合図だ。もう一度聞くか?」

「大丈夫、始めて」


「なら行くぞ!」


 音が鳴り始め――三度目の音が響くと同時に、右ハンドルを回して走り出す!!


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